藤沢久美

政府の重要な役割の一つに、税を通じた富の再分配という機能がある。この再分配の「分配」がきわめて重要で、どこにどれだけ分配するかが国民生活の将来を 左右する。当然のことながら、分配したお金が、再びお金を生む「金融的投資」が期待されているわけではないが、分配したお金が死に金にならず、ソーシャ ル・リターンを生み出してくれる「社会的投資」が求められる。
しかし、今の先進国の財政状況を見ると、どうやらこ の分配に失敗した結果のようにも思われるので、今後の財政再建を目指す過程においては、目指すソーシャル・リターンを明確にした資金使途の開示を行うこと が求められる。
公益財団制度が整備され、地域の産業創造のために、資金循環を生み出す公益財団が、各地に生まれ始めている。財団は、地域金融機関や 地域の企業などを理事やアドバイザーとして協力体制を作りながら、税制面で優遇のある寄付を幅広く募り、地域で資金を求める地場企業やNPOなどに資金を 提供する。しかも、単に資金を提供するだけではなく、協力体制にある金融機関や企業などからの情報支援、人的支援、市場支援なども行っている。
地元に密着した形で、日本の各地で、企業と金融機関を巻き込みながら、幅広いステイクホルダーと一緒に、新たな資金循環と確度の高いソーシャル・リターンの獲得を目指しているのである。

2 thoughts on “藤沢久美

  1. shinichi Post author

    国家の分配機能

    政府の重要な役割の一つに、税を通じた富の再分配という機能がある。この再分配の「分配」がきわめて重要で、どこにどれだけ分配するかが国民生活の将来を 左右する。当然のことながら、分配したお金が、再びお金を生む「金融的投資」が期待されているわけではないが、分配したお金が死に金にならず、ソーシャ ル・リターンを生み出してくれる「社会的投資」が求められる。たとえば、生活保護を受ける人への分配は、その人が自立できるような支援につながなければな らないし、産業育成に使うのであれば、新たに雇用を生むような事業が育つことが求められる。

    しかし、今の先進国の財政状況を見ると、どうやらこ の分配に失敗した結果のようにも思われるので、今後の財政再建を目指す過程においては、目指すソーシャル・リターンを明確にした資金使途の開示を行うこと が求められる。本年1月にスイスで開催されたダボス会議においても、IMFのラガルド専務理事が、新興国に対してユーロ圏立て直しのための資金援助を求め たところ、EUがどのような努力をするのか、またどのような成長戦略を策定するのかの提示がないままでは、資金を出すことはできないとの指摘を受けてい た。

    これは、ユーロ圏だけではなく、日本でも同じことが言える。現在、消費税増税の議論がされているが、社会保障の改革の絵は、中期的な視点ですら描かれているとは言いがたい。

    このように、現在の国家による富の再配分について考えるとき、その役割を担うのは本当にこれまでのように国家で良いのか、また、国家はどこまでの富の再配分を担うべきなのかを考えたくなる。

    金融機関の分配機能

    1875年、前島密はイギリスで視察した郵便貯金制度を日本に導入した。当時、列強諸国に追いつこうと富国政策を進めていた日本にとって、産業創造のため の資金は税収だけでは不十分であった。そこで、国民の富を郵便貯金という形で集め、それをベースに再配分を行う形を作り上げることとなったのである。しか し、当時の郵便貯金は国営なので、実質的には国家による再配分の延長線上の存在である。一方、民間では銀行がその役割を果たした。大阪で成長した銀行業 は、その後三井や住友に代表される巨大な財閥グループを核に、産業育成のための資金の再分配の役割を担った。

    しかし、百数十年を経た現在、郵便 貯金制度を通じた分配機能もかつてとは変わり、また銀行も、当時のように新たな産業を生み出すような大胆な融資をすることは難しくなってしまったのではな いだろうか。現実に、昨年の東日本大震災後の東北地域では、大企業の工場の海外移転による空洞化が発生し、また、市場を失った地方でも、創業時と変わりな いほどの大転換を求められている中小企業に資金を提供してくれる金融機関はそれほど多くないと聞く。もちろん、その背景には、金融に係る様々な法制度の問 題や、企業自身が事業の再生計画を描くまでに至っていないといった問題もあると思われるが、いずれにしても、現実の問題として、地域が再生するための産業 創造に必要な資金が十分に回っていないのは事実である。

    新たな分配機能の登場

    今、新たな再配分の仕組みが生まれつつある。

    東京都にミュージックセキュリティーズ(以下、MS社)という名の会社がある。同社は、目的に応じて さまざまなファンドを組成し、全国の個人から資金を集めて被災地はもちろん地方の中小企業や第一次産業事業者たちに融資を行っているが、これは新たな仕組 みの一例である。例えば日本酒ファンドは、醸造業者に融資して日本酒の売上に応じて返済される金額が変動するという仕組みであり、また、魚介加工会社なら ば、その加工品の売上に応じて返済金額が変わるといったものである。ファンドの資金の集め方は、インターネット上で、各事業者の置かれた環境や製品に対す る思いなどを、動画や写真、文字で伝えたり、あるいはリアルのイベントを開催し、それを見たり、参加した人たちの中で趣旨に賛同した人が資金を投じると いった、匿名組合の形式となっている。

    資金援助を受けた会社は、製品開発や生産の状況をインターネットを通じて定期的に報告し、時には、製品のサンプルを投資家に送ることもある。また、投資家自身が直接生産地を訪れ、その仕事ぶりを見学し、経営者を励まして帰ってくることもある。

    地域金融機関は、これまで地元の中小事業者に対して、財務的な視点での審査・支援と、定性的な審査・支援を行ってきたが、このファンドを活用したMS社の 仕組みは、その二つをMS社と投資家である個人が分担して担っているとも言える。財務的な審査・管理・支援はMS社が担う一方、日々の事業のウォッチや精 神面でのサポート、そしてマーケティングなどの定性的な支援は、投資家である個人が行うのである。

    MS社が支援している企業の数はまだまだ少な いが、こうした前例が出てきたことで、後に続く組織も生まれてきている。地域を越えた全国の国民が「共感」の輪でつながり、新たな資金循環を生み出す仕組 みは、これまで地域金融機関が担ってきた役割にも影響を与えるものと思われる。

    もう一つの新たな動きが、地域再生を目指した財団の誕生である。 公益財団制度が整備され、地域の産業創造のために、資金循環を生み出す公益財団が、京都府を皮切りに各地に生まれ始めている。この財団は、地域金融機関や 地域の企業などを理事やアドバイザーとして協力体制を作りながら、税制面で優遇のある寄付を幅広く募り、地域で資金を求める地場企業やNPOなどに資金を 提供する。しかも、単に資金を提供するだけではなく、協力体制にある金融機関や企業などからの情報支援、人的支援、市場支援なども行っている。

    前述のMS社よりも、さらに地元に密着した形で、日本の各地で、企業と金融機関を巻き込みながら、幅広いステイクホルダーと一緒に、新たな資金循環と確度の高いソーシャル・リターンの獲得を目指しているのである。

    新旧共同で、リターンのある分配機能を

    今まさに、分配機能の多様化が進行しつつあると言える。MS社や財団の事例はまだまだ小さな動きではあるが、制度疲労を起こした国家や金融機関の分配機能の原点を見直し、現代の新たなツールを使って、本来あるべき分配を実施している。

    では、国家や既存の金融機関はどうしたら良いのだろうか。様々なしがらみや制度の壁で動けないという声もあるが、もしそうであるならば、こうしたMS社や 財団と連携をすれば良いであろう。CSRの一環として、森に木を植えたり、地域でボランティア活動をすることも大切だが、金融機関が本来持っている機能を こうした新たな取り組みのなかに取り込み、共に活動することによって本業そのものの次なる進化の姿が見えてくるに違いない。

    不特定多数の草の根の人々と共に、プロセスが見える資金循環を生み出し、ソーシャル・リターンの確度を上げる取り組みが、今こそ求められる。

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