荒谷卓

Araya人に対する忠誠というと、今の人権思想からは封建的とか奴隷的服従などと否定的に見なされがちだ。確かにそのような形態は社会が安定し武士が役人化された江戸期の武士道には見られる。いわゆる「お家のため」という考えである。我々陸上自衛官もくれぐれも「お家大事」的挟隘な武士道に陥らないように気をつけなくてはいけない。また、この時期の武士道は総じて処世術的側面が強くなり、戦人の心構えというよりは、つつがない役人の心構え的なものも散見される。例えば、「葉隠」は、鍋島藩への絶対的服従を背景としている面があり、同時に処世術についても説いているなど武士道が狭隘化した感を否めない。しかし、本来の武士道は、あくまで自発的なものである。武士道者とは自己の意志に従って行動している者である。 例えば、 戦国時代末期の武将後藤又兵衛は、藩主黒田長政が忠義の対象ならずとみるや公に脱藩を取り付ける。 幾多の高禄高の仕官の誘いに目もくれず、「己の義と信ぜざることは断じてやらぬ、 己が武士として制約した義は必ず守る」と、最後は豊臣家臣として戦死する。このように、人に対する忠義とは、突き詰めれば『己の真心』に対する忠義といったほうが正しい。

3 thoughts on “荒谷卓

  1. shinichi Post author

    武士道

    by 荒谷卓
    特殊作戦群群長
    一等陸佐

    http://www.yobieki-br.jp/opinion/araya/bushido.pdf

    ———————-
    荒谷 卓(あらや たかし)

    http://www.yobieki-br.jp/opinion/araya_index.html

    予備役ブルーリボンの会 幹事 明治神宮武道場至誠館館長 元自衛官 東京理科大学卒、ドイツ・米国留学、第19普通科連隊、第39普通科連隊、第1空挺団、防衛局防衛政策課、陸上幕僚監部防衛部、特殊作戦群長(特殊作戦群初代群長)、研究本部総合研究部第2研究課第3研究室長 平成20年8月退官。 合気道六段、銃剣道三段、空手初段、柔道初段

    著書「戦う者たちへ」(並木書房)
    武士道を身につけた兵士を養成できれば世界最強の特殊部隊ができる---自衛隊初の特殊部隊創設を任された著者は、その行動理念を「武士道」に求め、技術だけでなく精神面においても精強な部隊を創りあげた。
    初の実任務となったイラク派遣では現地で民心をつかむ日本的手法が高く評価された。
    日本の武道の目的は相手を殺傷することではなく、相手の邪気を清め、共存共栄の道を開くことにある。 千年の時間をかけて創られた「武士道」の神髄に迫る!

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  2. shinichi Post author

    また、忠義というのは実は相対的なものであり、主従という関係ながらお互いに志を尊敬し合う者である。例えば、米沢藩主上杉唐山は、藩主教訓として「国家は先祖より子孫へ伝え候国家にして我私すべき物には之無。人民は国家に属したる人民にして我私すべき物には之無。国家人民の為に立てたる君にて君のために立てたる国家人民には之無」と表した。このような統治者の心があればこそ、この真心に対して同じく真心で忠誠を誓ったのが武士道である。さかのぼれば、神武天皇が「民に利が有るならば先祖から受け継がれた正義に反するものではない。これをかなえるよう謹んで寳位に臨み、国民を治める」と神に向かい民への奉仕を誓詞奉り一切の私事を放棄した(したがって天皇は氏も名ももたない)。朝廷への忠義というのは、その御心に答えての忠義なのである。つまり、武士道というのは下から上ヘの忠義だけではなく、忠義の対象となるべき上から下への心が有ってこそ成り立つ。日本における武将の統率のあり方は、これが模範となる。人と人の関係において、死に直面してもなお、自ら誓った志が揺るがぬ程に、心が大きく強くなれば武士道が完成する。

    生死に執着しない心情であれば、心の自由が得られ、体の自由が利くようになる。日本武術の最大特徴は「入り身」にある。 。。。

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  3. shinichi Post author

    武士道

    目次

    はじめに 1

     読者の皆様へ 1
     現代の戦闘者へ 7
    第一部 大義の下の戦い 17

    一、日本人が忘れたもの 18
    二、「大義」を喪失した日本 23
    三、戦わない日本人 27
    四、グローバリズムのもたらすもの 32
    五、「人権思想」の限界 35
    六、個人の「自由」が暴走する社会 38
    七、普遍的な神道の考え方 42
    八、日本建国の理念 47
    九、人間の真心を具現する武士道 50
    十、武士道の体現者 55
    十一、自然の摂理に従い生きる 58
    十二、共存共栄をめざす武士道精神 62
    十三、武士道精神が世の中の邪気を祓う 67

    第二部 戦う者たちの武士道 71

    十四、戦いの目的 72
        戦うということ 72
        正義を通す戦い 77
        目的を持って生きる 79
        戦闘のモチベーション(その1) 84
        戦闘のモチベーション(その2) 87
        自立した意志で戦う 92
        背負うべき使命を自覚する 95
        自分の肚で決める 99
    十五、行動する勇気 104
        行動を通じて知る 104
        実行しなければ道は切り拓かれない 107
        体の緊張をとく 110
        恐怖心を克服する 112
        死しても譲らない気概を持つ 123
    十六、持続する気力 127
        心がふるい立つ工夫 127
        心のバランスをとる 129
        必死の精神の効用 131
        恐怖心を胆力に変える 133
        日本の武人としての自覚 136
        相打ちができる胆力を養成する 141
    十七、実効性ある能力 143
        相手の力を包容する 143
        心身の中心を意識する 147
        戦闘力は自分で創る 150
        あらゆるものを戦闘力に変える 154
        持てる力をフルに活用する 160
        柔軟性という戦闘力 163
        戦いの理と術を知る 166
        感性を身につける 171
    十八、力の組織化 175
        精神は共有できる 175
        志のために戦う 180
        日本人のソフト・パワーを活用する 183
        武士道を身につけた特殊作戦兵士 188
    「信じる」ものを貫き通す 193
      参考図書・文献 196

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