ハジュン・チャン

世界経済を破綻させる23の嘘

第1の嘘 市場は自由でないといけない
第2の嘘 株主の利益を第一に考えて企業経営をせよ
第3の嘘 市場経済では誰もが能力に見合う賃金をもらえる
第4の嘘 インターネットは世界を根本的に変えた
第5の嘘 市場がうまく動くのは人間が最悪(利己的)だからだ
第6の嘘 インフレを抑えれば経済は安定し、成長する
第7の嘘 途上国は自由市場・自由貿易によってのみ富み栄える
第8の嘘 資本にはもはや国籍はない
第9の嘘 世界は脱工業化時代に突入した
第10の嘘 アメリカの生活水準は世界一である
第11の嘘 アフリカは発展できない運命にある
第12の嘘 政府が勝たせようとする企業や産業は敗北する
第13の嘘 富者をさらに富ませれば他の者たちも潤う
第14の嘘 経営者への高額報酬は必要であり正当である
第15の嘘 貧しい国が発展できないのは起業家精神の欠如のせいだ
第16の嘘 すべて市場に任せるべきだ
第17の嘘 教育こそ繁栄の鍵だ
第18の嘘 企業に自由にやらせるのが国全体の経済にも良い
第19の嘘 共産主義の崩壊とともに計画経済も消滅した
第20の嘘 今や努力をすれば誰でも成功できる
第21の嘘 経済を発展させるには小さな政府のほうがよい
第22の嘘 金融市場の効率化こそが国に繁栄をもたらす
第23の嘘 良い経済の導入には経済に関する深い知識が必要

3 thoughts on “ハジュン・チャン

  1. shinichi Post author

    マロンの散歩日記
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    世界経済を破綻させる23の嘘 ハジュン・チャン

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    第1の嘘 市場は自由でないといけない

    よく言われること
     市場は自由でないといけない。政府が市場参加者の行動を規制すると、資源は流れを阻害されて、最も効果的な利用のされ方をしなくなる

    だが真実は―自由市場なんて存在しない。
     そんな市場にも、選択の自由を制限する何らかのルールや制限規制がある。
     自由に見えるのは、私たちがその市場の基盤にある規制を当たり前のこととして受け入れているために、それを規制と認識できなくなっているからにすぎない。
     例:児童労働規制は1819年までイギリス議会で議論されなかった。
       19世紀には、奴隷貿易禁止も、製品の貿易規制も、同じレベルで捉えられていた。
       2008年のアメリカの金融システムのメルトダウンは、政府は、この対策に巨額の公的資金を注入することになり、フランスのような社会主義国(揶揄)どころか、悪の帝国(旧ソ連)にまで墜とされた。

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    第2の嘘 株主の利益を第一に考えて企業経営をせよ

    よく言われること
     会社の所有者は株主。従って、企業は株主の利益を最優先する経営をしなければならない。

    だが真実は―株主の利益を最優先する企業は発展しない。
     株主は最も移動しやすい身軽な利害関係者なので、会社の長期的未来を最も気遣わない人々になる場合が多い。
     とくに小株主は、長期戦略を犠牲にして、短期の利益を最大にして配当を最大にすることを好むので、再投資に回す資金を減らすことになり、結局会社は長期的な成長力を弱めてしまう。
     アメリカでは、1980年代から、経営者の報酬は天井知らずに高騰したが、株主の方にも株価の上昇と配当で大満足し、経営者の途方もない報酬を問題視しなかった。
     これには、労働者の賃金、投資、在庫、中間管理職にかかる費用が容赦なく切り詰められた。

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    第3の嘘 市場経済では誰もが能力に見合う賃金をもらえる

    よく言われること
     市場経済では、人々は生産性に応じて報酬を受ける。
     自由な労働市場のみが、公平で効率の良い報酬システムをつくりあげることができる。

    だが真実は―富裕国の人々の大半は賃金をもらいすぎている。
     富むめる国と貧しい国で賃金格差が生じる最大の理由は、個人の生産性の違いではなく、移民を抑える政策のせいである。
     もし、移民が自由なら、富める国の労働者のほとんどは、きっと貧しい国の人々にとって代わられるだろう。
     要するに、賃金はおもに政治的に決定される。

     例:インドのニューデリーのバスの運転手とスウェーデンの運転手の賃金を比較すると、50倍の差になる。
     しかし、50倍の運転技術の差など考えられない。
     
     貧しい国は貧しい人々のせいで貧しいのか?

     貧しい国の貧しい人々はふつう、富裕国の同業者に引けをとらない。
     負けているのは、富裕な上層の人々なのである。      

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    第4の嘘 インターネットは世界を根本的に変えた

    よく言われること
     インターネットに象徴される現代通信技術革命は、世界の働き方を根本的に変えた。それは「距離の消滅」をもたらした。
     それによってでき上がった「ボーダレスな世界」では、国内の経済的利益や政府の役割についての旧来の考え方や習慣は、無効になる。
     私たちがいま生きている時代は、技術革命が作り上げていくのである。国、会社、いや個人さえも、この急速な変化に遅れをとらないように変わっていかないと、生き残れない。わたしたち(個人、企業、国家)は、もっと柔軟になる必要がある。 
     市場の自由化をさらに押し進めるには、誰もが柔軟にならないといけない。

    だが真実は―洗濯機はインターネットよりも世界を変えた
     最近の通信技術の進歩は、19世紀に起こった―有線電報―ほど革命的なことではない。
     それにインターネット革命は(少なくとも今のところ)、洗濯機をはじめとする家電製品が起こしたほど大きな経済的・社会的変化をもたらしてはいない。
     インターネットは電報にも負けている。
     ファックスからインターネットによる短縮は5倍
     電報は2500倍に達した。

     変化の正しい姿をとらえる

     ICT(情報通信技術)か革命のせいで、いくつかの富裕国(特にアメリカとイギリス)が「ものづくり」をやめて、「これからはアイデア」でいこうと間違った結論に達してしまった。
     「脱工業化社会」の到来を信じてしまったために、製造業部門を過度におろそかにして、自国経済に悪影響を及ぼしてしまった。

     もっと困ったことは、富裕国の企業などが発展途上国に、一番必要としているかわからない、コンピューターやインンターネット施設を買う資金を提供するようになった。
     もう一つ、人々が「いまや人類はボーダレスワールド(大前研一の著作のタイトル)に生きている」と信じるようになった。
     多くの政府も、そうした世界になったのだと信じ込み、国境を越える資本、労働力、財の流れへの絶対に必要な規制をはずしてしまい、好ましくないことがいろいろ起こってしまった。

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    第5の嘘 市場がうまく動くのは人間が最悪(利己的)だからだ

    よく言われること
     市場は自分のことしか考えていない利己的な個人のエネルギーを巧みに利用して、社会的調和を作り出している。
     共産主義が失敗したのは、すべての者を無私無欲と考えて経済を運営したからである。

    だが真実は―人間を最悪と考えれば最悪の結果しか得られない
     ほとんどの人の場合、利己心が最も強力な特性になるが、人間を動かすのはそれだけではない。
     この世界が私利を求める個人に満ちていれば、世界はたちまち動きを停止してしまうだろう。
     なぜなら、私たちは時間の大半を、人を騙すことに、騙した人を捕まえることなどに費やさなければならなくなるから。

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    第6の嘘 インフレを抑えれば経済は安定し、成長する

    よく言われること
     1970年代まで、多くの国が破壊的なハイパーインフレーションに苦しんだ。だが幸運なことに、1990年代になるとこのインフレは退治された。
     国の財政赤字に対して厳し態度が取られるようになったことと、各国の中央銀行が政治から独立して、インフレの抑制に力を注げるようになったおかげである。
     インフレの抑制は、より大きな長期的繁栄の基盤を作ることができたことになる。

    だが真実は―マクロ経済が安定しても世界経済は安定しなかった
     インフレは手なずけられたかもしれないが、世界経済はすっかり不安定になってしまった。
     2008年の世界金融危機をはじめ、おびただしい数の危機があり、個人負債、倒産、失業のせいで、多くの人々の生活が破壊されてしまった。
     インフレばかりに注目するあまり、完全雇用や経済成長をめぐるさまざまな問題から目をそらしてしまうことになった。
     
     雇用は「労働市場の柔軟性」が求められるようになって不安定化し、多くの人々の生活も不安定化した。

     1990年代からインフレ率を下げる目的で導入されてきた政策は、貧弱な成長しか生み出さなかった。

    ________________
    第7の嘘 途上国は自由市場・自由貿易によってのみ富み栄える

    よく言われること
     発展途上異国は政府の干渉によって、ときには社会主義体制をとりさえして、自国経済を発展させようとしてきた。

     保護貿易、海外からの直接投資の禁止、産業への助成金といった措置をとり、さらには銀行や企業を国有化してまでして、自分たちの手に余る製鉄、自動車といった産業を人為的に発展させようとしてきた。

     だが、その戦略はよくて停滞を、悪くすれば大参事をもたらす。成長は貧弱で、保護された産業は大人になれない。
     幸運なことに、こうした国のほとんどが1980年代に誤りに気づき、自由市場政策をとるようになった。

     今日富み栄える国はみな、日本をのぞいて、自由市場政策、とくに世界の他の国々との自由貿易によって富裕国になった。

    だが真実は―自由市場政策によって貧しい国が富むことはめったにない
     一般に信じられることと反対に、発展途上国の場合、国家主導の発展期の方が業績が良かった。
     さらに、ほぼすべての富裕国が自由市場政策によって富み栄えるようになったということも事実ではない。
     わずかな例外を除けば、イギリスやアメリカをも含めた富裕国のすべてが、保護貿易、補助金などを組み合わせた政策によって富を手に入れたのだ。
     それなのに富裕国は今、途上国にそうした政策をとってはいけないと勧告している。

     富める国は、自分の過去は棚に上げて、知的支配により主義主張を押し付けるだけではなく、、二国間の援助や自分たちが操る国際金融機関(IMFや世界銀行)の融資に条件を付ける手も使って、発展途上国に門戸を開かせ、世界市場の荒々しい競争にさらしている。

      現在発展途上国で、自由貿易・自由市場政策をとってきた国々は、この30年のあいだに成長を減速させ、所得格差を増大させてしまった。

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    第8の嘘 資本にはもはや国籍はない

    よく言われること
     グローバリゼーションの真のヒーローは、超多国籍企業である。
     超多国籍企業は、本社はなお、設立された国にあるものの、生産・研究施設の多くが国外にあり、従業員は全世界から雇われる。この無国籍資本の時代に、外国資本を排する国家主義政策は、よくて無力、悪くすれば逆効果になる。

    だが真実は―資本にはいまなお国籍がある
     資本の超国籍企業化が進行しているにもかかわらず、実は超国籍企業のほとんどは「国際活動を行う”一国籍企業”」にとどまっている。
     最高度の研究・戦略立案といった中核となる活動の大半は、いまなお本国でおこなわれる。

     経営幹部も大部分が自国民だ。
     超国籍企業から得られる利益の大半は、本国が手にする。

     なぜホームバイアス(本国偏向)が生じるのか?

     まず、経営幹部が出身国への何らかの義務感を持っている。
     それは人によっては、愛国心、共同体意識、ノブレス・オブリージェ(高い身分には義務が伴う)、社会への恩返しと様々。

     経営難の企業が自国の公的資金で救済された恩もある。
     1949年トヨタ、1974年フォルクスワーゲン、2009年GM。

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    第9の嘘 世界は脱工業化時代に突入した

    よく言われること
     ここ数十年の間、特に富裕国で製造業が重要ではなくなっている。
     社会が繁栄し、生産性の高い知的サービス(金融や経営に関するコンサルティングなど)が台頭すると、おのずとサービスへの需要が高まり、すべての国で製造業が衰退してきている。

     いまや富める国では、生産の大部分がサービスとなる「脱工業化時代」入った。

     製造業の衰退は自然なことであり、発展途上国も製造業を飛び越えて、脱工業化経済へ移行するほうがよい、という場合もあるかもしれない。

    だが真実は―脱工業化時代は神話であり、幻想でしかない
     ほとんどの人が工場ではなく店やオフィスで働いているという意味では、わたしたちは脱工業化社会に生きているのかもしれない。

     しかし、世界は工業が重要ではなくなった「脱工業化」という発展段階に突入したわけではない。

     国内総生産に占める製造業の比率の減少のほとんどは、製造品の絶対量の減少ではなく、サービスと比較して製造品の価格が安くなったためである。

     この現象は、製造品の生産性の向上が、サービスの生産性よりも早いために起こっている。

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    第10の嘘 アメリカの生活水準は世界一である

    よく言われること
     最近はアメリカも経済問題に苦しんでいるが、生活水準はいまもなお世界最高である。

     ミニ都市国家のルクセンブルグを除けば、アメリカは富める国の中で一番であり、生活水準でも世界一である。
     だから他の国々が、自由市場システムの優越性を実証するアメリカを模倣しようとする。

    だが真実は―アメリカより生活水準が高い国はいくつもある
     アメリカは所得格差が大きいため、所得の平均は、公平に分配されている他国に比べて、一般国民の生活水準を正確に反映していない。

     貧弱な医療状況や犯罪率の多さにも、貧富の差が影響している。
     移民の多さと雇用条件の悪さで、サービスの値段が他の富裕国より安くはなっている。

     さらに、アメリカ人の労働時間はヨーロッパ人よりもかなり長い。
     また、貧困地区がヨーロッパよりずっと多い。

     ヨーロッパとの比較(2007 世界銀行データから)
     1 ノルウエー 76,450ドル
       ルクセンブルグ 
     2 スイス
     3 デンマーク
     4 アイスランド
     5 アイルランド
     6 スウェーデン 46,060ドル
     7 アメリカ 46,040ドル 

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    第11の嘘 アフリカは発展できない運命にある

    よく言われること
     アフリカは、気候がひどく、深刻な熱帯病問題もある。
     地理的条件も劣悪で、内陸が多く、まわりの国々の市場が小さいため輸出機会は限られ、武力紛争が臨国までたやすく波及する。

     天然資源が多すぎるので、人々はだ怠惰になり、腐敗し、争いやすくなる。

     国は民族分裂ゆえ、運営が難しく、武力紛争が発生しやすい。
     制度もお粗末で、投資家は十分に保護されない。
     国民性も、人々は勤勉ではなく、貯金をせず、互いに協力し合おうとしない。

     こうした構造的障害が合わさって、1980年代からお大幅な市場開放にもかかわらず、他の地域のように発展しなかった。外国からの援助でしのぐしかない。

    だが実態は―アフリカは政策を変えさえすれば発展できる
     アフリカは1960年代~1970年代は、実際はまあまあ成長していた。

     それに、アフリカの発展を阻害するとされる構造的障害はみな、今の富裕国にもあった。

     ただ、アフリカ諸国が、障害への対処法を、まだ持っていないからである。

     ここ30年間アフリカが停滞している真の原因は、強制的に導入させられた自由市場政策である。
     はっきり言えば、アフリカが成長できない最大の原因は、世界銀行とIMF(およびそれらを操る富裕国)によって推進された、構造調整計画(SAP)を通して強制された自由貿易・自由市場政策である。

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    第12の嘘 政府が勝たせようとする企業や産業は敗北する

    よく言われること
     情報も知識もない政府は産業政策によって勝者を選ぶことはできない。
     政府が市場論理に反して、資源や競争力を無視して、産業をむりやり発展させようとした場合はとくに、悲惨な結果になる。

    だが真実は―政府は企業や産業を勝利へ導ける
     政府による勝者選択の成功例を世界中にたくさん見つけることができる。

     成功例
     韓国の浦項総合製鉄所(POSCO)は、世界銀行も先進各国から融資について見放されたが、日本政府(賠償金)を説得して、資金と機械と技術を提供してもらって、現在世界第4位の生産高。

     巨大エレクトロニクス企業となったLGグループは、政府から繊維産業ではなく、電線産業に強制的に参入させられた。

     また、現在(ヒュンダイ)グループの創立者に造船所をつくるよう、すさまじい圧力をかけた。いまは、世界有数の造船会社となっている。
     韓国の戦略は、基本的には日本政府が実行した戦略をコピーしたものであった。

     東アジアだけではなく、20世紀後半の、フランス、ノルウェー、オーストリアも国の保護措置、助成金、国営企業の投資などで、大成功した。
     政府の手出しに否定的なアメリカにしても、第二次世界大戦後は、研究開発への大規模な支援によって、産業の勝者の大部分を選んできた。

     失敗例もある。それを隠そうとは思わない。
     インドネシアの航空機産業のケース。
     フランスはコンコルド計画の失敗
     日本政府は、ホンダをニッサンに買収させようとしたが、ホンダは従わなかった。ところが、ホンダは後にニッサンよりずっと成功してしまう。

     韓国はアルミ精錬産業では計画が頓挫してしまった。

     民間セクターによる勝者選びのみが成功すると主張する自由市場主義者に、このまま目くらまされ続けると、政府主導あるいは官民共同による経済発展の巨大な可能性を見逃すことになる。

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    第13の嘘 富者をさらに富ませれば他の者たちも潤う

    よく言われること
     投資をして雇用を創出するのは金持ちだ。市場機会を見つけるもの、それを生かすのにも、金持ちは欠かせない。

     時代遅れの大衆迎合政策をとり、富者に重税を課すことは、止めなければならない。
     富者をさらに富ませることによってのみ貧者も収入を増やせるのだ。

    だが現実は―富は貧者までしたたり落ちない
     このトリクリダウン理論は、最初のハードルさえ飛び越えられない。

     「成長促進・富者優遇政策」か、「成長抑制・貧者優遇政策」か、とよく言われるが、この30年間、富者優遇政策は、成長を加速させられずにいる。

     トリクルダウンはたしかに起きるが、それを市場に任せていたのでは、その効果は貧弱になるのがふつうである。

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    第14の嘘 経営者への高額報酬は必要であり正当である

    よく言われること
     アメリカではとくに。CEOは常識はずれの高額な報酬を会社からもらう。しかし、それは、市場が要求する額なのだ。
     才能ある人材は限られているのだから、優秀な人材をひきつけるためには高額の報酬を支払う必要がある。

    だが現実は―アメリカの経営者の報酬はあきれるほど高額すぎる
     アメリカの経営者の報酬が高すぎる理由は
     まず、先輩たちと比べて高すぎる。1960年代の先輩たちより10倍多い。60年代の会社の方が業績が、ずっと良いのに。

     また、他の富裕国の同業者とくらべても20倍ほどになり、報酬が高すぎる。

     さらに、業績を悪化させても罰を受けない。保護されすぎている。

     2005年経済政策研修所データによるアメリカのCEOとの比較
     スイス     64%
     ドイツ      55%
     スウェーデン 44%
     オランダ    40%
     日本      25%   

    第15の嘘 貧しい国が発展できないのは起業家精神の欠如のせいだ

    よく言われること
     フランスや発展途上国の国々で、経済の原動力が欠如している理由のひとつは、起業家精神の欠如である。

    だが現実は―貧しい国の人々は富裕国の人々よりも起業家精神に富む

     貧しい国を貧しくしているのは、個人レベルでの起業家精神の欠如ではなく、現代企業の欠如のせいである。

    __________________
    第16の嘘 すべて市場に任せるべきだ

    よく言われること
     すべて市場に任せておくべきだ。なぜなら、市場参加者は基本的に自分が何をしているかよくわかっているからである。

     個人(会社)は、自分にとっての最良の利益を絶えず考え、自分自身の状況を一番よく知っているで、政府が市場参加者の自由を制限しようとすれば、必ず好ましくない結果が生じる。

    だが現実は―わたしたちは市場任せにできるほど利口ではない
     市場参加者はかならずしも自分が何をしているかよくわかっているわけではない。

     世界は非常に複雑で、それにしっかり対処することなど、私たちの能力ではとてもできない。

     問題の複雑さを減じるために、意図的に選択の自由を制限する必要があり、通常はそうしている。

     政府の規制、特に現代金融市場のような領域への規制が効果を発することが多いのは、政府が優れた知識を持っているからではなく、政府が選択を制限することによって。当面の問題の問題の複雑さを減じ、不都合なことが起きる可能性を小さくしている。

     デリバティブを考案し、ノベル経済学賞を受賞したロバート・マートンとマイロン・ジョーンズの日足の経済学者は、二人とも破綻してしまうが、自分が何をしているかよくわかっていなかった。

    __________________
    第17の嘘 教育こそ繁栄の鍵だ

    よく言われること
     経済発展には教育を十分に受けた労働者が絶対に必要である。

     教育水準が高い東アジアの経済的成功と、教育水準が低いサハラ以南のアフリカ諸国の経済的停滞の違いをみれば、それは明白だ。

     知識が富の最大の源泉となっている、いわゆる知識経済が台頭した現在は、とくに高等教育が繁栄に必要不可欠なものになっている。

    だが現実は―教育の向上そのものが国を富ませることはない
     教育の向上が国の繁栄に直接むすびつくことを示す証拠はほとんどない。

     そもそも知識経済という概念そもそもに問題がある。
     なぜなら、知識はこれまでもすっと富の最大の源泉だったのだから。

     さらに、非工業化と機械化が進んで,ほとんどの富裕国では大半の仕事で知識の必要度がむしろ落ちている。

     高等教育にしても、経済成長との単純な関係はない。
     真に重要となるのは、高い生産性をもつ起業に個人を組織して組み込んでいく国の能力である。

     世界一裕福なノルウェーの中学2年生は、他の全富裕国だけではなく、リトアニアやチェコなどずっと貧しい国々の同学年よりも成績が良くなかった。

     スイス・パラドクス 2007年の大学進学率
     (スイスは世界で最も工業化が進んだ数少ない最富裕国のひとつ)

    (富裕国)
     フィンランド 94%
     アメリカ   82%
     デンマーク 80%
     スイス    47%

    (スイスより、ずっと貧しい国)
     韓国     96%
     ギリシャ   91%
     リトアニア  76%
     アルゼンチン68%

    __________________
    第18の嘘 企業に自由にやらせるのが国全体の経済にも良い

    よく言われること
     資本主義システムの中核は企業部門である。
     企業部門に活力がなければ、経済の原動力は生まれない。
     したがって、企業にとって良いことは、国全体にとっても良い。
     グローバル化する世界で、企業が国際競争力を増し続けるためには、とくに起業や経営を難しくしたり、企業に望まないことを無理やりさせてはいけない。
     政府は企業活動に最大限の自由を与える必要がある。

    だが真実は―企業の自由を制限するのが経済にも企業にも良い場合がある
     企業部門は重要ではあるが、企業に最大限の自由を与えるのは、国全体にとってはもちろん、企業自体にとってさえ良くない。
     実は、すべての規制が企業にとって悪いわけではない。
     天然資源や労働力といった、その企業でも必要とする「共同で使わなければならない資源」が破壊されないように、個々の企業の自由を制限することが、長期的には企業部門の利益になるときもある。

     なんでGMは破綻したのか?
     1960年代以降、ドイツ、日本、ついで韓国からの輸入車との激しい競争に直面したGMは、競争相手よりも良い車を製造することをしなかった、
     まず、最初にダンピングなどによる不公正貿易をしていると競争相手を非難し、特に日本車の輸入割り当て制限をさせた。
     それでも落ち込みを止められないので、1990年代に金融子会社をつくって、自動車製造部門の業績悪化をカバーしようとした。

    __________________
    第19の嘘 共産主義の崩壊とともに計画経済も消滅した

    よく言われること
     経済計画の限界は、共産主義の崩壊ではっきり立証された。
     複雑な現代経済では、計画は可能でもないし、好ましくもない。

    だが真実は―わたしたちは今なお計画経済の世界に生きている
     資本主義経済もかなりの部分が計画されている。
     どの資本主義国の大半が、国営企業の計画的運営によって経済のかなりの部分を動かしている。また、部門ごとの産業政策や、指示的計画による経済全体にたいする政策を用いて、個々の産業部門の未来の形をつくろうとしている資本主義国も多い。

    __________________
    第20の嘘 今や努力をすれば誰でも成功できる

    よく言われること
     私たちが求める平等は機会均等でなければいけない。
     努力や業績に関係なく一律に報酬を与えたら、人より才能がある人や勤勉な人はやる気をなくす。

    だが真実は―機会均等だからフェアとは限らない
     機会均等は公正な社会をつくる出発点である。だが、それだけでは足りない。
     もちろん、好成績を挙げた者は報われるべきだが、 問題は相手と同じ条件下で競争しているかどうかである。

     朝鮮はたまたま、中国、日本、ロシア、アメリカといった大国の権益がぶつかる地域にあった。
     だから、わたしたちはその時代・状況に適した大国のイデオロギーを取り入れるのが非常に上手くなり、その原則に本家よりも忠実になった。
     共産主義を取り入れれば「ロシア人よりも共産主義者」になった(北朝鮮)。
     60年代から80年代まで日本型の国家資本主義を実践すれば「日本人より国家資本主義者」になった。
     そして現在、アメリカ型の資本主義にスイッチして、アメリカ人にさえ自由貿易の長所を説き、本家の人々の面目がつぶれるほど大胆に金融・労働市場の規制緩和してしまった。

    __________________
    第21の嘘 経済を発展させるには小さな政府のほうがよい

    よく言われること
     大きな政府は経済に良くない。
     富者への税金で、 雇用保険や医療など貧者への福祉の費用をまかなうようにしたら、貧者を怠け者にし、富者から富を創造する意欲を奪ってしまい、経済の活力を削ぐ。
     共産主義の失敗を思い起こすまでもない。
     肥大化した社会保障制度をもつヨーロッパの活力のなさと、アメリカの旺盛なバイタリティを比較してみると良い。

    だが真実は―大きな政府こそ経済を活性化できる
     うまく設計された社会保障制度は、実は人々をより果敢に就職に取り組ませるし、変わることに前向きにさせる。
     ヨーロッパがほとんど保護貿易に頼らなくて済んでいるのはそのためである。
     ヨーロッパの人は失業したら失業手当で生活水準を維持できるし、政府の助成で再訓練を受けて転職できるとわかっている。
     いっぽうアメリカの人は、現在の職を失ったら、ほぼすべてを失う。もしかしたら住む家も。
     そして、二度と仕事に有りつけないかもしれないとわかっている。

     労働者に、第二のチャンスを与えるわけだから、社会保障制度は労働者のための破産法である。

     大きな政府の方が経済発展できる。
     1980年の公的社会支出の対GDP比率
    スウェーデン  28.8%
    オランダ     24.1%
    ドイツ       23%

    アメリカ     13.3%

    1950年~1987年の経済成長
    ドイツ        3.8%
    スウェーデン    2.7%
    オランダ       2.5%

    アメリカ       1.9%

     以上により、社会保障制度の充実と高成長が両立しないというのは間違いとわかる。

    アメリカが経済発展した1990年以降も

     一人あたり所得の増加は
     アメリカの1.8%に対し

     アメリカより発展した高福祉国があった。
     フィンランド 2.6%
     ノルウェー 2.5% 

    __________________
    第22の嘘 金融市場の効率化こそが国に繁栄をもたらす

    よく言われること
     金融市場の急速な発展のおかげて、資源の配分と再配分が迅速におこなえるようになった。
     金融市場を自由化し開放した、アメリカ、イギリス、アイルランドなどの資本主義国がこの20年間、好調だったのも、そのためだ。

     今回の金融危機は、誰も予測できなかった、100年に一度の危機であり、金融市場の効率化こそが国に繁栄をもたらす鍵であるこことに変わりはない。

    だが真実は―金融市場の効率は良くするものではなく悪くしないといけない

     今一の金融市場の問題点は、効率が良くすぎることだ
     あまりに金融部門は短時間のうちに利益をあげられるようになったため、実物部門の企業は、長期的発展に必要となる「辛抱強い資本」を確保するのが難しくなった。
     金融部門と実物部門のスピードの差を縮める必要がある。
     そのためには、金融部門の効率を意図的に悪くしないといけない。

     アメリカの投資家ウォーレン・バレットは、2008年の危機でその破壊性が証明されるずっと前に、デリバティブを「金融の大量破壊兵器」と呼んでいた。

    __________________
    第23の嘘 良い経済の導入には経済に関する深い知識が必要

    よく言われること
     政府が良い経済政策を導入するには経済に関する深い知識が必要になるのに、とくに発展途上国では、官僚は経済学をしっかり学んでいない。
     そうした官僚は、難しい政策をひかえ、政府の役割を最小化する楽な自由市場政策に向かうべきだ。
     自由市場政策は、最良の政策であるばかりでなく、官僚の能力を一番必要としない。
     
    だが真実は―経済を成功させるのに優秀なエコノミストなど必要ない

     良い経済政策を運営するのに優秀なエコノミストは必要ない。
     これまで最も成功した経済官僚の大半はエコノミストではなかった。

     日本と韓国では、経済政策は法学部出身者によって運営された。
     台湾と中国では、エンジニアだ。

     この30年間、自由市場経済学の影響がどんどん強まったせいで世界中で経済活動が貧弱なものになってしまた。
     ついには2008年に世界金融危機と呼ばれる大参事まで起こした。

     経済学が必要だというなら、それはこれまで世界を支配してきた自由市場経済学ではなく、それとは違う経済学である。

     2008年11月 英のエリザベス二世は、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスを訪問された際に、教授の一人に
     「なぜ誰も予測できなかったのですか?」と尋ねられた。

     これに対し英国のトップクラスのエコノミストたちは検討会議を開いて検討し、次のような書簡を女王陛下に送った。
     「個々のエコノミストは有能ですが、集団としては、危機が起こる前には木を見て森を見ぬ状態におちいったのでございます。」と。  

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  2. shinichi Post author

    世界経済を再建する8原則

    資本主義はいろいろ問題があるにせよ、それにまさる経済システムはない。

    人間の合理性には限界があることを認識し、新しい経済システムを構築すべきだ。

    人間の「悪意」ではなく「最良」を引き出せるシステムをつくるべきだ。

    報酬は必ずその人の価値によって決まる、という思い込みを捨てる。

    「ものづくり」をもっと重視する必要がある。

    金融と実態経済のバランスをもっと良くする必要がある。

    政府は大きく活発になる必要がある。

    世界経済システムは発展途上国を不当に優遇する必要がある。

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