小河原誠

夢を見た。夢のなかで目が覚めて掛け布団のほうを見ると、真ん中あたりから煙が出ている。よく見ると、タバコの吸殻が掛け布団の上でくすぶっている。慌てて振り払おうとしたが、腰が抜けた感じで体が動かない。金縛りにあったよう。大声で叫んだような気がする。それで目が覚めた。
闇のような不安に襲われながら安禄山のことを思い出していた。気持ちが収まってきていたのだろう。むかし読んだ井上靖の小説のなかの話なのだが、安禄山は乱敗れて殺されたあと、へその辺りにろうそくを立てられて火をつけられた。あるいはろうそくは立てずへそに火をつけられただけだったかもしれない。ともかく、それが1ヶ月も燃えつづけていたという。塚のような巨体から煙がゆったりと出て、それが夕闇のなかに溶けていくさまが目に浮かんでいた。
夢であれ、うつつであれ、ぼんやりとした不安に襲われている世界が私の世界だと夢は告げている。私は安禄山であって、すでに死せる人間であり、へそに火でも点けられればいい人間なのだろうか。わからない。でもいつか、ゆらゆらと闇に消えていくことだけは間違いなさそうだ。

2 thoughts on “小河原誠

  1. shinichi Post author

    昨夜、夢を見た。夢のなかで目が覚めて掛け布団のほうを見ると、真ん中あたりから煙が出ている。よく見ると、タバコの吸殻が掛け布団の上でくすぶっている。突然、焼け死ぬような恐怖感に襲われて慌てて振り払おうとしたが、腰が抜けた感じで体が動かない。金縛りにあったよう。「きてくれー」と大声で叫んだような気がする。それで目が覚めた。

    布団のなかで体を縮めてガタガタしていたのだが、少し落ち着きを取り戻すにつれぼんやりと考えていた。目が覚めないで、もっと夢のつづきを見ていたら、俺はどうなったのだろう、と。家人は本当に助けに来てくれただろうか。ほっておかれたのではないだろうか。そして、金縛りにあったまま、私はちょうどお灸をするときのもぐさのように燃え尽きていたのでは。誰も助けに来てくれないのも怖いし、燃え尽きるのも怖い。だが、不思議にこのときは誰がタバコの燃え殻を捨てていったのかとは考えなかった。そんなことを考えるのはもっと恐ろしいことだったからだろうか。

    闇のような不安に襲われながら安禄山のことを思い出していた。気持ちが収まってきていたのだろう。むかし読んだ井上靖の小説のなかの話なのだが、安禄山は乱敗れて殺されたあと、へその辺りにろうそくを立てられて火をつけられた。あるいはろうそくは立てずへそに火をつけられただけだったかもしれない。ともかく、それが1ヶ月も燃えつづけていたという。塚のような巨体から煙がゆったりと出て、それが夕闇のなかに溶けていくさまが目に浮かんでいた。

    私は夢のなかで目が覚めて、そして現実にも目が覚めたはずなのだが、また寝いってしまったのだろうか。

    いま間違いなく目覚めてこの文章を書いているのだが、頭のなかの霧というか、闇が晴れない。なんとなく、ぼんやりしている感じ。夢であれ、うつつであれ、ぼんやりとした不安に襲われている世界が私の世界だと夢は告げているのだろうか。私は安禄山であって、すでに死せる人間であり、へそに火でも点けられればいい人間なのだろうか。わからない。でもいつか、ゆらゆらと闇に消えていくことだけは間違いなさそうだ。

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