勝見明

人間の脳は本来、省エネで動くようにできていて、限られたエネルギーをできるだけ有効的に使おうとする。人が生物として生きるには、その仕組みが適しているのだろう。ところが、ビジネスマンとして成功するには、これは逆効果に作用するようだ。
キーになるのは「認知コスト」という概念だ。認知コストとは、人が社会の中で生きるのに必要な脳の働きを研究する「ソーシャルブレインズ(社会脳)」という、脳科学の新分野で使われる言葉だ。脳が思考に費やすエネルギー、いわば、脳内コストのことだ。
脳は、この認知コストをできるだけ下げようとする。典型が、まわりの意見に対する反応だ。「信じる」と「疑う」とでは、「信じる」ほうが認知コストが軽減される。そのため、脳はできるだけまわりの意見に従おうと働く。こうした脳本来の習性が、ビジネスにおいては、ときには逆効果になることを警告したのが、鈴木氏のこの言葉だ。
「みんなが賛成することはたいてい失敗し、反対することはたいてい成功する」
みんなが賛成することに従えば、確かに認知コストはかからない。しかし、誰もが同じことを始めるため、過当競争に陥り、順に脱落していく。日本の家電メーカーの液晶テレビ事業はその典型だ。一方、みんなが賛成することを疑うのは認知コストがかかるが、実現すれば、競争相手はいないから成功する。鈴木氏の足跡はその繰り返しだった。

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