岩波書店

OgawaKunio「内向の世代」の代表的作家であり、今も多くのファンをもつ小川国夫氏。没後から5年、新たに発見された中編小説を刊行致します。
故・小川氏の書斎から発見されたのは、190枚の原稿用紙のコピー束。著者の筆跡で、青いインクの直しが入っていました。
精査を依頼された青木健氏は、用紙裏のメモや、小川宅にコピー機が導入された時期などから、1975年前後の執筆と推定。『彼の故郷』『青銅時代』など次々と傑作を生みだした、まさに作家として脂の乗った時期であり、未完に終わった本作も「力が入っていたのは明白」と青木氏は語ります。
内容は、自らの学徒動員の体験を素材とした自伝的小説。
太平洋戦争末期、海辺の造船所で働きながら将来を見つめる少年・剛二が主人公であり、立ちふさがる「死」を前にして揺れ動く若者の心情が、海からの光を受けて鮮やかに描き出されています。
本書の解説にある通り、この作品は未完であることによって逆に開かれ、作家が死を凝視し続けた動員時代の体験を深い問いとして現代に突きつける唯一無二の小説であると思います。

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