世阿弥

しかれば物数をきはめつくしたらんしては、初春の梅より秋の菊の花の咲きはつるまで、一年中の花の種を持ちたらんがごとし。いづれの花なりとも、人の望み、時によりて、とりいだすべし。物数を究めずば、時によりて花を失うことあるべし。たとへば、春の花のころ過ぎて、夏草の花を賞翫せんずる時分に、春の花の風体ばかりを得たらんしてが、夏草の花はなくて、過ぎし春の花を、また持ちていでたらんは、時の花に合ふべしや。

2 thoughts on “世阿弥

  1. shinichi Post author

    (sk)

    不失花という言葉が気になって読んでいたら、このような文章にめぐり合うことができた。

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