遠藤周作

河は相変わらず黙々と流れている。河は、やがて灰となって自分のなかにまき散らされる遺体にも、頭を抱くようにして身じろがぬ遺族の男たちにも無関心だった。ここでは死が自然の一つであることが顕然として感じられるのだった。

この世は集団ができると、対立が生じ、争いが作られ、相手を貶めるための謀略が生まれる。戦争と戦後の日本の中で生きてきた磯辺はそういう人間や集団を嫌というほど見た。正義という言葉も聞きあきるほど耳にした。そしていつか心の底で、何も信じられぬという漠然とした気分がいつも残った。

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