小池真理子

MarikoKoike 春恵が問うようにして見つめると、志摩子は「あのう」と言って、おずおずと可憐な視線を彼女に投げた。「前から言おう言おうと思ってて、ついうっかり、忘れていたことがあるんですが」
「お皿でも割ったの?」春恵は微笑んだ。「他の人ならいざ知らず、あなたが食器を割ったとしたら珍しいことね。雪が降るかもしれないわよ」
 違います、と志摩子は言い、おっとりと微笑み返した。「お玄関に飾ってある、あの白黒写真のことなんです」
 心臓のあたりに軽い緊張が走った。動揺を隠すのに苦労した。

2 thoughts on “小池真理子

  1. shinichi Post author

    (sk)

    若いときに彼と撮った写真。もういない彼。思い出のなかにしかない日々。寂しさ。愛おしさ。

    切ない。

    ____

    ひるに見る夢を幻というのなら、よるに見る幻は夢というのだろうか。

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