小室淑恵

まず、男女共に働くほうが良いわけです。なぜか?っていうと頭脳労働の比率のほうが圧倒的に高まってくるからです。また、労働力人口が足りない中で付加価値を付けるためには、その人たちをフルに使って高い付加価値を付けるという仕事をしなくてはならないから、必要な労働力はなるべく全部使うということが必要だからです。
そして2つ目が、短時間で働くことです。なぜか?というと、時間の単価が高騰するからです。日本人の人件費、いま、中国人の8倍、インド人の9倍、光熱費は毎年上がっていっています。ですので、時間が高いんです。企業としてかなり意識的に、短時間で働く人にインセンティブを与えるような、そういうやり方でトレーニングをするということが非常に必要になります。
そして3点目、条件の違う人を揃えるということです。と言うのも、まず市場が均一な物には飽きていて、ヒットした物はすぐに売れなくなります。ですので、ひとつの企業が次々と違う商品やサービスを短サイクルで出していかなくてはならないですから、1つのヒットに甘んじているうちに売り上げが下がっちゃうんですね。ですから、別の発想の人がまた違う商品を考えてヒットを飛ばす、これを繰り返し続けないと継続的に売り上げが上がらないということ
育児だとか介護だとか、それから難病や障がいといったものは、もう仕事をする上でのマイナス条件ではない。

One thought on “小室淑恵

  1. shinichi Post author

    人口構造から見るゲー­ムチェンジの必要性

    人口ボーナス期から人口オーナス期へ

    by 小室淑恵

    日刊読むラジオ

    http://www.yomuradio.com/archives/4827

    みなさん、「人口ボーナス期」という考え方をご存知でしょうか? 「人口ボーナス期・オーナス期」という考え方、これは10年ほど前にデービッド・ブルームというハーバード大学の学者がかなり説得力のある学説を展開して、今、非常に注目をされている考え方なんです。

    人口ボーナス期というのは、端的に言うと「労働力人口がたくさんいて高齢者がちょっとしかいない国の状態」を指します。日本の70年代だと思ってください。若者がたくさんいて高齢者がちょっとしかいないので、一言で言うと、社会保障費が全然かからないんです。なので、その国は人口ボーナス期の段階では経済発展するのが当たり前、というふうにデービッド・ブルームは言っています。

    今、人口ボーナス期なのは中国、韓国、シンガポール、タイなんですね。経済発展していますよね。日本は残念ながら90年代に終わりました。インドは2040年まで続くそうです。こういった人口ボーナス期にある時にはその国が発展して当たり前。実はアジアの奇跡はほとんどこれで説明ができるんだそうです。肝心なことは、赤い字で書いたんですけれども、「1つの国に人口ボーナス期はたった1度しか訪れない」っていうことなんです。なぜか?

    人口ボーナス期の時というのは労働力人口がたくさんいます。そして人件費が安いです。そうすると世界中から仕事を集めることができて、世界中からの仕事を速く・安く・大量にこなして、世界中に物を売って、儲けて、発展するんです。

    しかし、豊かになると必ず親が子どもに教育投資をします。子どもが高学歴化します。そうすると少子化になります。人件費が上がります。人件費の問題で世界中から仕事が集まらなくなります。今の中国がそうですよね。人件費の問題で中国から別の国へビジネスが移っていきます。そうするとその国は必ずGDPが伸び悩んで横ばいになっていく。日本はもうその典型の道を辿ったんですね。

    今、日本は人口オーナス期、真っ只中というところにあるわけなんです。

    では、この「人口オーナス期」というのはどういう状態なのか?というのを次のスライドで見ていただければと思います。「人口オーナス期とは?」というものです。「オーナス」とは「負荷」とか「重荷」という意味です。その国の人口構造がマイナスに働く時期なんですね。

    一言で言うと「支えられる側が支える側より多くなってしまうという構造」です。高齢者がたくさんいて若者がちょっとしかいないので、その人たちの労働では高齢者の生活を支えることが非常に負担になる。当然、社会保障費が膨大になるのでその国の経済は伸び悩む、という時期に入るんですね。

    日本が問題なのは人口ボーナス期からオーナス期に入ったこと「ではない」んです。ほかの国もみんな入っていってるんです。北欧諸国、EUの国々、みんな人口オーナス期に入っているんです。日本の問題は「ものすごい速さで人口オーナス期に入ってしまった」ということなんです。

    なぜそんなにハイスピードで入ってしまったのか?というと、少子化対策に失敗したからです。子どもの数の比率が減るから高齢者の数の比率が上がるわけなんですね。もしも子どもが生まれ続ける社会を作ることができたら、労働力人口は減らなかったわけなんです。

    では、その原因はなんなのか? 主に2点書いたんですけれども、1点目は70年代に成功した成功モデルに引きずられて長時間労働を改善できなかったということです。なぜ長時間労働があるといけないのか?というと、夫が長時間労働のまま妻が働きに出ると、1人目を出産した時点でたったひとりで孤独な育児と仕事の両立にぶち当たります。すると、こんな状態で2人目が産めるわけがない、というふうになって、2人以上産むことができなくなるからなんですね。

    これは私自身が体感しました。私の夫は経済産業省の役人なんですけれども、長男を産んだ時、帰宅時間が平均深夜2時みたいな状態が続いていました。赤ちゃんをベッドに置いたら泣く、置いたら泣く、というのをたったひとりでエンドレスに繰り返して、やっと深く寝てくれて、そーっとベッドに置いた瞬間に、見てたのか?っていうタイミングで夫が帰ってくるんですよね。そして家中で不用意な物音を立ててもう1回起こす、と。

    「もう2度と帰ってこなくて良いんだよ」(笑)みたいな話を夜中に何回もしましたし、絶対に玄関の前で子どもが泣いている音を聞いて待っていて、泣き止んでから入ってきてるんじゃないか?って私はいつも思っていました。もうその頃はケンカ、ケンカの毎日でしたから、2人目なんか全く考えられなかったんです。でも、実は今、夫は家事・育児を同じ時間だけ平日も毎日やってくれる人になりまして、その変化で初めて2人目が欲しいと思って産むことができたんですね。

    この労働時間、女性に対して保護をするっていう労働時間の改正じゃなくて、男性の労働時間も含めて変えていかなければ、一言で言うと「未来の労働力を増やせない」わけなんですよね。将来の子どもを作っていくことができないんです。

    そしてもう1点が、3年ぐらい前の政府までは待機児童ゼロに本気で取り組まなかったっていうことです。私は2006年からずっと国の委員をやっているので、その本気度はもう良く良く分かっています。アリバイ作りみたいな委員会しか開かれなかった時期、本当に何を発言しても暖簾に腕押しみたいな時期がありました。

    そのことによって、せっかく両立をしようとして育児休業をとった女性が、いざ復帰のタイミングで預けるところが全く見つからない。本人にもやる気があった、企業も待っていた、でも復帰できなかった、という、現時点での労働力をその時点で失うということが起きたわけですね。なので、短期の労働力も長期の労働力も増やすことができなかったから、人口オーナス期にガーッと加速して入ったわけなんですね。

    もう1回言いますけれども、人件費の安さで世界中から仕事を集めるということはもう日本はできないわけです。ですので、爆発的な経済発展はこのままのやり方ではもうできない。

    でも、1番下に書いたんですけど、人口オーナス期になったら経済が終わり、ではないんですね。オーナス期のやり方があるんです。大事なことは、「人口ボーナス期の成長をもう1度!」みたいな政策じゃダメだということなんです。「あの時、良かったよね」と言って「人口ボーナス期のころの夢をもう1度!」というような考え方でやった政策ではダメなんです。ルール自体を変えていかないと、人口オーナス期に合ったルールに変えていかないと、もう経済成長ができなくなるんですね。

    では、人口ボーナス期とオーナス期では成長できるモデルがどう違うのか?というのが次のスライドになります。これ、分かりやすくするために、かなり端的に書いてしまったんですが、一言で言うと、ちょっと身も蓋もない言い方なんですが、人口ボーナス期は男性ばっかりが働いたほうが良いんです。重工業の比率が高いので、筋肉が付いている男性が多く働いたほうが良いです。

    それからもう1つが、なるべく長時間働いたほうが良いんです。市場は物に飢えていて、作れば作っただけ売れていきますから、「時間=成果」なんですね。たくさん物を作っていくにはベルトコンベアを動かし続けたほうが良いというふうに言えます。

    そして3つ目が、なるべく同じ条件の人を揃えたほうが良いんですね。市場は同じような物をたくさん作るっていうことにニーズがある時期ですので、均一な人材が、なるべく脇目を降らさず同じことをガーッとやってくれたほうが良いんです。

    それから大事なことは、その時期では労働力は余っていますから企業のパワーがものすごく強くて、均一な条件で労働者をふるい落すということが可能なんですね。日本企業が最もとった手段は出張・転勤・残業です。この3つをものすごくさせて、根性が座ってる人、これに付いてきた人だけを残すよっていうふうにするんです。

    そうすると、みんな必死で付いていこうとして、その不利な条件にも付いていきます。それによって忠誠心を高めるっていう手法、実はこれが人口ボーナス期には横行するんですね。「オマエの代わりなんかいくらでもいるんだよ戦法」って私は呼んでいるんですけれども(笑)、経営者はこのやり方を非常に有効に使えるのが実はこの人口ボーナス期なわけです。

    それが人口オーナス期になると全く変わります。まず、なるべく男女共に働いたほうが良いわけです。なぜか?っていうと頭脳労働の比率のほうが圧倒的に高まってくるからです。また、労働力人口が足りない中で付加価値を付けるためには、その人たちをフルに使って高い付加価値を付けるという仕事をしなくてはならないから、必要な労働力はなるべく全部使うということが必要だからです。

    そして2つ目が、なるべく短時間で働くことです。なぜか?というと、時間の単価が高騰するからです。日本人の人件費、いま、中国人の8倍、インド人の9倍、光熱費は毎年上がっていっています。ですので、時間が高いんです。なので、なるべく短く働かせたいんですが、ほとんどの国は人口ボーナス期の時、長く働くことに1回慣れてしまうので、人口オーナス期に入る時には1回徹底的に短時間で働く癖のトレーニングをしないと、そっちへ移行ができないんですね。なので、企業としてかなり意識的に、短時間で働く人にインセンティブを与えるような、そういうやり方でトレーニングをするということが非常に必要になります。

    そして3点目、ここが1番重要なんですけど、「なるべく条件の違う人を揃える」ということです。と言うのも、まず市場が均一な物には飽きていて、ヒットした物はすぐに売れなくなります。ですので、ひとつの企業が次々と違う商品やサービスを短サイクルで出していかなくてはならないですから、1つのヒットに甘んじているうちに売り上げが下がっちゃうんですね。ですから、別の発想の人がまた違う商品を考えてヒットを飛ばす、ヒットを飛ばす、これを繰り返し続けないと継続的に売り上げが上がらないということ。

    それから、労働力人口が少なくなってくるわけですから、均一な条件での足切りなんていうのをやったら働く人がいなくなります。実は弊社にお問い合わせが1番多いのは、建設業や商社といった男性が9割以上の会社なんです。なぜか?っていうと、男性管理職が親の介護で休み始めたんですね。実は企業によっては育休をとっている女性の数を介護で休んでいる男性の数が逆転して超えています。

    今まで「女性は休む・辞めるから採用・登用したくない」って言ってきました。「これは確率論だから仕方がないんだ、合理的だ」って言ってきました。じゃあ、同じ確率論を適用するなら、もう男性は採用・登用できないですね。だれを採用するんですか?っていう話です。

    ですので、これからは、例えば育児だとか介護だとか、それから難病や障がいといったものは、もう仕事をする上でのマイナス条件ではないというような労働市場、労働の環境を作っていくことが大事。色々な条件の人たちを全て、ふるい落すのではなくて、その人たちの能力を発揮してもらうような、その環境を作れた企業は1番優秀な人たちを集めることができて、その付加価値を金銭にして経済発展することができる。

    決して女性の権利のために、今、女性活躍が流行っているんではないんです。この国がそのようにしていかなければ勝てない人口オーナス期、その真っ只中になってもうだいぶ経つんです。もういよいよ逃げられない状態になったから今やっているんだ、非常に合理的なんだ、ということを私たち自身もぜひ理解して、きちんと理論的に伝えていくということが大事ではないかなと思います。

    これはまとめなんですけれども、だからこそ、リーダー像も変わるというふうに思っています。もう時間的な制約を持つということは女性特有のネガティブな要因ではないわけです。これからはほぼ全国民が時間的な制約を持ちます。あとたった3年がひとつのタームです。2017年。

    なぜかというと、2007年から団塊世代が一斉定年退職して60歳に入りました。ということは、団塊世代が2017年に70歳に入るんです。ものすごい数の介護がこの国を襲うので、団塊ジュニア世代はみんな親の介護中になります。

    それから、晩産化なので育児と介護の両方が重なります。なので、介護、育児、共働きという、様々な要因を抱えながら働く人だらけになります。つまり、女性はネガティブ要因を持った特殊な存在では決してないという状態になるんですね。

    こうなると、長時間労働、強引な転勤、本質的じゃない目的のための頻繁すぎる出張、飲み会のためみたいな出張(笑)、こういうのが昇進の条件なら、もうだれも担えなくなります。だから、きちんと断って良いと思います。そんなことをやっている限り、本当に優秀な人はだれも上に上がりたくなくなってしまうという状態になるわけです。

    ですので、新しいリーダーはこういった条件をしっかりと断って、時間の中で成果を上げるというやり方をこれからの後輩たちに見せていってあげるということが大事ではないかなと思います。出張・転勤・残業を断るのは決して甘えではない、全ての人にとって今後必須になるんだ、というふうに思っています。

    今後の新しい日本を作っていくために、日本を救うために、新しいルールを創る側になっていただければと思います。

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