三島由紀夫

利害は錯綜し、敵味方も相結び、
外国の金銭は人らを走らせ
もはや戦いを欲せざる者は卑劣をも愛し、
邪まなる戦のみ陰にはびこり
夫婦朋友も信ずる能わず
いつわりの人間主義をたつきの種とし
偽善の団欒は世をおおい
力は貶せられ、肉は蔑され、
若人らは咽喉元をしめつけられつつ
怠惰と麻薬と闘争に
かつまた望みなき小志の道に
羊のごとく歩みを揃え、
快楽もその実を失い、信義もその力を喪い、
魂は悉く腐蝕せられ
年老いたる者は卑しき自己肯定と保全をば、
道徳の名の下に天下にひろげ
真実はおおいかくされ、真情は病み、
道ゆく人の足は希望に躍ることかつてなく
なべてに痴呆の笑いは浸潤し
魂の死は行人の額に透かし見られ、
よろこびも悲しみも須臾にして去り
清純は商われ、浮蕩は衰え、
ただ金よ金よと思いめぐらせば
人の値打は金より卑しくなりゆき、
世に背く者は背く者の流派に、
生かしこげの安住の宿りを営み、
世に時めく者は自己満足の
いぎたなき鼻孔をふくらませ、
ふたたび衰えたる美は天下を風靡し
陋劣なる真実のみ真実と呼ばれ、
車は繁殖し、愚かしき速度は魂を寸断し、
大ビルは建てども大義は崩壊し
その窓々は欲求不満の蛍光灯に輝き渡り、
朝な朝な昇る日はスモッグに曇り
感情は鈍磨し、鋭角は摩滅し、
烈しきもの、雄々しき魂は地を払う。

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