中瀬大樹

図書館における貸出に関連する制度としては、著作権法のほかに図書館法が存在する。我が国では、1951年まで図書館の利用は有料制であり、通例入館料が取られ、書籍類の貸出についても料金が徴収されていた。図書館法が制定されたことにより、同法第 17 条の規定により、公立図書館は無料公開制度の下で運営されている。
我が国では1990年代末から、公貸権の導入に関する議論が起こったが、その背景には出版業界の不況がある。出版物の売上が減少する一方で図書館の貸出冊数は増大していく状況の中で、図書館は無料貸本屋ではないかという主張が上がるようになった。
政府はこのような主張を受けて、2001 年以降、文化審議会の中で議論を行い、図書館側と著作者側との当事者間の協議を経て 2003 年には、作権分科会の「審議経過報告」の中で、「法改正を行う方向とすべき事項」に「図書館資料の貸出について補償金を課すこと」として、現在映画の著作物について認められている非営利・無料の貸与に係る補償金制度の対象を将来「書籍等」に拡大することによって対応するという方向性そのものに関しては、法制問題小委員会においては基本的に反対はなかったが、権利者側・図書館側双方に、具体的な補償金制度等の在り方について協力して検討したいという意向があることから、当面その検討を見守ることとし、その結論が得られた段階で、必要な法改正の内容を具体的に定めることが適当である旨を明記した。
しかし、これ以後、公貸権の検討は進んでおらず、現在に至るまでこの部分に関して制度改正はなされていない。

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