小川さやか

財産も特別な才能もない人が生き抜くには、知恵が重視される。人と渡り合う知恵、ピンチを切り抜ける知恵。タンザニアでは、どんなに貧しくても自分で生きぬくことを考えないといけない。社会保障制度が十分でないなか、知恵で生き抜くしかない。
行商人が「昨日から何も食べていない。買ってくれよ」と言葉をかけると、客は「妻が病気だ。安くしてよ」といった具合。互いに素早く相手の懐具合などの状況を読みあい、「より高く」「より安く」を競い合う。値段が決まった後は、お互いにそれを心を動かされた対価と考える。
アフリカ研究では「モラル(道徳)エコノミー」という言葉がよく聞かれますが、現地の商人の間で暮らすと、道徳、相互扶助という言葉ではちょっと違和感を感じます。物をたかる側、たかられる側ともに知恵を発揮し、「助け合い」を感じさせない商慣習がありますから。

2 thoughts on “小川さやか

  1. shinichi Post author

    ウジャンジャ(ずる賢い知恵)は、自分だけでなく他者も生きる仕組みができている

    小川さやか

    聞き手:内山智彦

    http://www.sankei.com/west/news/141103/wst1411030002-n1.html

     タンザニアで3年半、古着の行商人を経験した立命館大先端総合学術研究科准教授、小川さやかさん(36)。異色の研究者が、アフリカの「路上経済学」の現実と未来を語る。

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    生きる知恵…たかり・たかられ、磨かれる「道徳」

     --タンザニアで行商人が増える背景は何でしょう

     小川 急激な都市化で地方から市街地への若者の流入が続いていますが、企業などへの正規雇用は2割。あぶれた若者がたどり着くのが、大きな資本が必要ない行商です。彼らが言うには「俺たちにはカネもコネもない。だけど、ウジャンジャ(ずる賢い知恵)がある」。

     --ずる賢さという生きる知恵があるんでしたね

     小川 財産も特別な才能もない人が生き抜くには、知恵が重視される。人と渡り合う知恵、ピンチを切り抜ける知恵。タンザニアでは、どんなに貧しくても自分で生きぬくことを考えないといけない。社会保障制度が十分でないなか、知恵で生き抜くしかない。

     --知恵はどんな場面で発揮されますか

     小川 行商人と客の値段交渉が面白い。行商人が「昨日から何も食べていない。買ってくれよ」と言葉をかけると、客は「妻が病気だ。安くしてよ」といった具合。互いに素早く相手の懐具合などの状況を読みあい、「より高く」「より安く」を競い合う。値段が決まった後は、お互いにそれを心を動かされた対価と考える。

     --小川さんもコンビを組んだ仲間と「痴話げんか作戦」を展開しました

     小川 ウジャンジャが面白いのは、自分だけが生き抜くためだけでなく、他者も生きる仕組みができていることです。

     --自分の利益追求だけではないのですか

     小川 行商の販売品は客によって価格が違います。分かりやすく言えば、千円で仕入れた商品を金持ちには5千円で売り、お金に困っている人には500円で売る。でも全体としては利益を出している。

     --現地では物やお金の無心もありましたか

     小川 人にたかることも技術なんですよ。現地の友人が言うには「タンザニアでは人のネットワークづくりが大事だ。2千円を貸してくれる1人の親友より、200円をくれる大勢の仲間をつくれ」。

     --行商は貧しい人には高く売りつけないのですか

     小川 特定の人間が大もうけしないし、大損もしていない。余裕がある人から、ない人へ、自然とお金が流れる仕組みがあります。

     --相互扶助の精神ですか

     小川 アフリカ研究では「モラル(道徳)エコノミー」という言葉がよく聞かれますが、現地の商人の間で暮らすと、道徳、相互扶助という言葉ではちょっと違和感を感じます。物をたかる側、たかられる側ともに知恵を発揮し、「助け合い」を感じさせない商慣習がありますから。

     --先進国では格差問題の解決へ福祉などの充実が議論されています

     小川 最近、若年ホームレスやフリーターについて考える集会に呼ばれることが増えました。でも、路上商人が多数派のタンザニアに慣れると、「支援が必要」というほど深刻と思えなくなってくる。日本人ホストと話をしたときに親近感がわきました。平気で「女性が俺に貢ぐのは、それだけ俺が惚れさせているからだ」と言う。お金をせびったり、無心したりしているのではなく、恋の駆け引きの結果、女性が喜んで出していると真顔で言う。タンザニアの行商人と言うことが似ているんですよ。

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  2. shinichi Post author

    【アフリカでナンパされ…異色の女性研究者(1)】
    行商してみたら「貧しい中国人だ!」と言われ(苦笑)…研究はゲンバで起きている
    http://www.sankei.com/west/news/141101/wst1411010006-n1.html

    【アフリカでナンパされ…異色の女性研究者(2)】
    客の前での「痴話げんか作戦」 生き馬の目を抜く世界で生きる知恵
    http://www.sankei.com/west/news/141102/wst1411020006-n1.html

    【アフリカでナンパされ…異色の女性研究者(3)】
    ウジャンジャ(ずる賢い知恵)は、自分だけでなく他者も生きる仕組みができている
    http://www.sankei.com/west/news/141103/wst1411030002-n1.html

    【アフリカでナンパされ…異色の女性研究者(4)】
    賄賂も立派な“経済活動”「先進国の常識を無理強い、ダメ」
    http://www.sankei.com/west/news/141104/wst1411040005-n1.html

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