福田眞人

「愛」という言葉が、かつて仏教用語であって、人間相互の感情を表象する言葉でなかったことは興味深い。実際に日本人が「恋愛」なるものを認識したのは、明治 3-4 年(1870-71)に出た中村正直訳『西国立志編』以後ということになる。そして、二葉亭四迷によって、小説の世界で「ラヴ」と「恋」の違いを知ることになる。今、比較的新しい言葉(造語)としての「恋愛」を、「情」・「色」・「恋」などの語感と比べてみるとどうだろうか。「恋愛」の方がより洗練されていて、洋風で、より高級、より新鮮、より重要な語感を得ることだろう。
そのことは、明治時代の方が、今日よりももっと強烈に感じられたはずである。しかし、同時に、新しく馴染まない言葉であるゆえに、その心理も徹頭徹尾理解できるまでにはなかなか至らなかったに違いない。そして、今日でさえなお「あなたを愛する」という表現は、完全な市民権を得た訳ではない。

明治翻訳語のおもしろさ(福田眞人)

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