石牟礼道子

地: ことにもヒトはその魂魄を己が身命より抜き取られ、残れる身の生きてはをれど、ただぞろめきゆき来する悪霊の影たるを知らず。かかる者らの指先がもて遊び創り出させし毒のさまざま、産土の山河、はてはもの皆の母なる海を妖変させたること、生類の世はじまって以来一台変事、ほとほと救ひ難し。ここにおいて竜神に命ぜらる。
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不知火: 誰が創り給ひし地の星ぞ。破れ墜つる空より見ればいまだ蒼き碧の宝珠とかや。
菩薩(尉): あいやそこまで。不知火がいまはの狂乱もつともなり。海底の世のこれまでありしは、陸に先がけてめぐり春秋の豊かなればにて、生類の幼命すべて、もとここより生ぜし。その幼命ら陸に揚りては、草木とも虫とも人の様にとも形を変じ、幾万替りもせし世の幻妙を、かの流星の光芒が写しとつてゆくらんか。やよこれ聞き候へ。不知火を恋路が浜に呼びとりしは、汝がかかげ来しみ灯りにて、生類のかくなり来たる行末をば、心恋しきものらに読みとらせよとの天の宣旨なればなり。姉弟、生類の命脈を浄めんとしてこれに殉ず。

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2 Responses to 石牟礼道子

  1. shinichi says:

    新作能 不知火

    by 石牟礼道子

    (2003)

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