益川敏英

「軍事研究にかかわらない」という名古屋大の平和憲章に批判が上がるなど、重苦しい状況がじわじわ迫っているように思う。おととし施行された特定秘密保護法もその一つ。何を秘密とするかさえ分からない法律なんてすごく危険だ。
あるときテレビに出て、そんな意見を述べた。すると数日して外務省関係だったかの人たちが大学の私の部屋に来られて「先生の心配されるようなことはございません」と懸命に説得しはじめた。
社会が平穏なとき、秘密保護法みたいなものがあっても形だけ。私たちに怖いことはないように見える。だが動きだすと怖い。なんせ秘密だから。なにが動き出したのか分からん。防衛省が大学から募り始めた研究は公開が原則という。だが軍事転用されれば秘密保護法が動いて情報が閉ざされ、研究者がうっかり内容を語れば罪に問われないともかぎらない。
だから、私は米国のロバート・オッペンハイマーの話をした。オッペンハイマーは原爆を開発するマンハッタン計画を主導した物理学者だ。米国が核を持てば戦争の抑止力になると信じていた。だが抑止力どころか米政府は率先して使ってしまった。だから彼は次の水爆開発には反対した。するとスパイの疑いをかけられてもみくちゃにされ研究生命を事実上うばわれた。私はこういうことがおこらないかと恐れるのだ。

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