大村大次郎

2015年度、全国で摘発された脱税件数は181件。総額はおよそ138億円と、41年ぶりに140億円を下回ったということです。これは、もちろん「脱税する人が少なくなった」ということを意味するものではありません。
一方、マルサが刑事告発した115件のうち、海外の銀行口座や取引先を悪用した事件は28件にのぼり、過去5年間で最も多くなっています。しかも、この海外脱税というのは、氷山の一角の一角のそのまた一角程度だといえます。
というのも、日本では、5000万円以上の海外資産を持っている人は申告をしなければならない義務があります。しかし、この申告をしている人は、現在のところわずか8000人しかいないのです。
日本にはミリオネア(100万ドル以上の資産保有者)が100万人以上いるとされ、その中には海外に資産を移している人もかなりいると見られます。海外資産の申請者8000人というのは、1%以下であり、あまりに少なすぎます。

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1 Response to 大村大次郎

  1. shinichi says:

    国税庁VS富裕層――お粗末なタックスヘイブン対策が格差社会を拡大する

    by 大村大次郎、元国税調査官

    読売新聞

    http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20160620-OYT8T50141.html?from=yartcl_os1&seq=02

    一握りの富裕層が富の大半を握り、そのほかの多数の人々はつましい暮らしを強いられる経済格差は日本でも着実に拡大している。しかし、少なくない富裕層が相応の税金を自国に納めていない可能性が高いと、元国税調査官でフリーライターの大村氏は指摘する。「パナマ文書」という言葉とともにすっかり有名になった海外の「タックスヘイブン」に巧妙な手口で資産を移している可能性だ。国税当局も捕捉に必死だが、対策は後手に回っている。それはなぜなのか。大村氏がその実態にメスを入れる。

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    マルサも手出しできない脱税とは?

     先日、テレビ各局や新聞各紙で、「マルサ」(国税局査察部)の事績が報じられました。

     それによると、2015年度、全国で摘発された脱税件数は181件。総額はおよそ138億円と、41年ぶりに140億円を下回ったということです。これは、もちろん「脱税する人が少なくなった」ということを意味するものではありません。

     一方、マルサが刑事告発した115件のうち、海外の銀行口座や取引先を悪用した事件は28件にのぼり、過去5年間で最も多くなっています。しかも、この海外脱税というのは、氷山の一角の一角のそのまた一角程度だといえます。

     というのも、日本では、5000万円以上の海外資産を持っている人は申告をしなければならない義務があります。しかし、この申告をしている人は、現在のところわずか8000人しかいないのです。

     日本にはミリオネア(100万ドル以上の資産保有者)が100万人以上いるとされ、その中には海外に資産を移している人もかなりいると見られます。海外資産の申請者8000人というのは、1%以下であり、あまりに少なすぎます。

     これはどういうことでしょうか?

     資産をこっそり海外に持ち出し、タックスヘイブンなどで保管している人が相当数いるのではないか、ということです。おそらく、申請者の数倍から数十倍はいると思われます。

     タックスヘイブンというのは、最近、よくニュースなどで出てきます。そう、あのパナマ文書の舞台となっている地域のことです。

    パナマ文書に載っていた大物の名前

     パナマ文書というのは、簡単に言えば、タックスヘイブンを利用していた世界中の富裕層、要人たちのリストが書かれた文書のことです。何者かによって、南ドイツ新聞に持ち込まれ、世界中にさらされることになったのです。

     このパナマ文書により、ロシアのプーチン大統領、イギリスのキャメロン首相、中国の習近平国家主席ら各国の大物政治家や、ジャッキー・チェンら有名人が、直接、間接にタックスヘイブンを利用していることが明らかになりました。

     タックスヘイブンというのは、税金が極端に安い国、地域のことです。ケイマン諸島、パナマ、南太平洋諸島の国々や、広義では香港、シンガポールなども含まれます。

     そしてタックスヘイブンは、税金が安いだけではなく、銀行口座や法人に関する情報を秘匿していることが多いのです。金融情報を漏らしてはならない、という「銀行秘密法」を持っている場合が多いのです。

     しかも、このタックスヘイブンのたちの悪いところは、企業や富裕層を誘致するだけではなく、「名義貸し」も行っているということです。形の上だけタックスヘイブンに本籍地を置き、税金だけ安く済ませることができるのです。その結果、富裕層や大企業が、こぞってタックスヘイブンに名義を移したり、銀行口座をつくって資産を秘匿したりするようになったのです。

     タックスヘイブン側は籍だけを移されたとしても、手数料だけで相当な収入になります。だから、そういう制度をつくっているのです。

     このタックスヘイブンは、近年、先進国にとって頭の痛い問題となっています。

     大企業や富裕層がタックスヘイブンを利用し、本国での税金を逃れる――それは先進諸国の財政を大きく圧迫することになります。特に、この損害が大きいのはアメリカだとされ、法人税収10兆円以上をタックスヘイブンによって取り損ねているという試算もあります。

     そのため先進諸国では、お互い協力してタックスヘイブン対策を行うよう、話が進められていました。そんな矢先に出てきたのが、パナマ文書なのです。

    スターバックスはどうやってイギリスの税金を免れていたのか?

     多国籍企業は、タックスヘイブンを使うことで、合法的に税を逃れています。

     たとえば、スターバックスのイギリス法人は、スイスの子会社から割高の原料を輸入し、イギリスに利益が行かないようにしていました。そのため、5年もの間、イギリスで税金を払っていなかったのです。

     スターバックス・グループの利益は、税金の安いオランダやスイスに集まるようにしていたのです。多国籍企業というのは、そもそもが「逃税」をしやすいのです。

     昨今、複数国にまたがって子会社を設立し、グローバルに活動している企業は珍しくありません。そういう多国籍企業は、なるべく税金の安い国で税金を払おうという行動に出ることになります。自社グループの収益を税金の安い国に集中させて、グループ全体の節税を図るということです。

     もちろん、そういうことをされては、世界各国は税収を得ることができません。この手法を防ぐために、先進諸国では「移転価格税制」という制度をとり入れています。

     これは、海外に子会社を持つ企業が、「不当な取引をして、税金の安い国にグループの利益を移転した場合は、妥当な取引額に訂正して、税金の計算をしなおす」というものです。海外に展開している会社は、海外の関連会社と適正な価格で取引をしなければならないということです。

     しかし、この移転価格税制は、まったく不完全なものです。

     というのは、移転価格税制は、本社と海外子会社の「適正価格での取引」を旨としていますが、「そもそも適正な価格とはなんぞや?」ということです。

     取引価格というのは、時と場合によって変化するものです。なので、何をもって適正とするかは、非常に難しい判断を要するのです。

     企業側から見れば、多少、価格をいじっても、いくらでも言い訳はできるのです。

     「誰がどう見てもこの価格はおかしい」というものならば、移転価格税制の網に引っ掛かりますが、そうでない場合は漏れてしまうのです。スターバックスのイギリス法人もそういうわけで税を逃れていたのです。

    後手に回る国税庁

     前述したように、このタックスヘイブンで一番被害を受けているのは、実はアメリカ政府です。

     代表的なタックヘイブンであるケイマン諸島には、1万8857の企業があり、そのうちの半分はアメリカの関連企業です。ここでアメリカは、年間1000億ドル(11兆円)の税収を、失っているとされています。

     もちろん、アメリカだけでなく、世界中の国々がタックスヘイブンの被害を受けています。現在、世界の銀行資産の半分以上、多国籍企業の海外投資の3分の1がタックスヘイブンを経由していると言われています。

     日本政府も、タックスヘイブンの「被害」は蒙こうむっています。ケイマン諸島だけで、60兆円以上の日本の金が入り込んでいるのです。

     もちろん日本の国税庁も、タックスヘイブン対策を行っています。

     現在、日本では、タックスヘイブン対策の法律が施行されています。タックスヘイブンに本籍がある企業や人でも、もっぱら日本で活動しているのであれば、日本で税金を納めなくてはならない、というものです。

     しかし、この法律もタックスヘイブン節税を完全に防ぐものではありません。というのも、タックスヘイブンには、各国のタックスヘイブン対策の網の目をすり抜けるような仕組みができつつあるからです。

     タックスヘイブン側が逃税スキームに積極的に手を貸すようになったのです。籍を置くためだけのオフィスビルなどを用意したり、一応、ここに居住の実態があるかのような逃税工作を手伝うようになったのです。

     そして、法の抜け穴を突くようなスキームを指南してくれる法律事務所も現れるようになりました。その草分けが、パナマ文書を流出させた「モサック・フォンセカ法律事務所」なのです。

     対する税務当局の方はどうでしょうか?

     実は、これは後手に回っていると言わざるを得ないのです。日本の国税庁は、2002年に東京、大阪など四つの国税局に「国際取引プロジェクトチーム」をつくりました。このほかに、全国の国税局には国際取引の情報を専門に集める部署も設置されています。

     海外取引専門の調査官を養成するために、国際租税セミナーという研修を行っています。これは勤務経験が一定以上の職員を試験で選抜し、毎年100人に英会話、貿易実務、国際租税などを5か月間かけて研修するというものです。

     が、これで十分に対応できているとはとても言い難いのです。

     国際租税セミナーの研修修了者は、毎年100人しか輩出されません。100人ということは、国税職員の中の0.2%に過ぎません。10年かかっても、ようやく2%です。

     そもそも、国税職員で英語を話せるのは非常に少ないのです。

     筆者が国税に在籍していた当時(十数年前)、英語を話せる職員はほとんどいませんでした。日常的に話せるレベルではなくても、片言でも通じるレベルの人さえほとんどいなかったのです。

     少しでも話せる人は、国際取引の部署に回されていました。国際取引のチームにいる人でも、ようやく片言で英語が話せる程度だといえます。

     最近、国税の後輩に聞いてみましたが、実情はほとんど変わっていないようです。英語を話せる職員さえ満足にいないのだから、中国語、フランス語、ドイツ語などは全くお手上げだといえます。

     このままでは、日本の税収はタックスヘイブンに持っていかれることになるかもしれません。そうなれば、タックスヘイブンを使えないような中間層以下に、税負担のしわ寄せがいくことになります。

     実際、昨今の日本では、富裕層、大企業の税金は大幅に下げられる一方で、消費税の増税など、庶民をターゲットにした増税が続いています。

     タックスヘイブンは、日本の格差社会の要因の一つにもなっているのです。それは、日本だけでなく、世界規模で生じていることです。

     今こそ、国税庁をはじめ各国の税務当局がタックスヘイブンに対策を講じなければ、日本や世界の未来は暗澹あんたんたるものになっていくでしょう。

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