上念司

ところが、歴史教育には”必殺技”があります。「入試でそう出るから覚えなさい」です。このように歴史科の教員が言えば、生徒たちの思考はそこで停止します。
私も中学生の頃、ここに引用したのと似たような教科書を読んで、様々な疑問を持ちました。しかし、受験に向けて心がアパシー状態(受験以外は無関心)になっていたため、疑問を持ったこと自体忘れてしまいました。みんなそんなものです。
すべては入試制度が問題であり、単に年号と出来事の暗記ばかり求める歴史教育の在り方に問題があるのです。

2 thoughts on “上念司

  1. shinichi Post author

    明治維新経済で読み解く明治維新 江戸の発展と維新成功の謎を「経済の掟」で解明する

    by 上念司

    第一部 飛躍的に発展していた「江戸時代の経済」

    第1章「貧農史観」を捨てよ!
    I 絶対に笑ってはいけない、歴史教科書24時
    II “真実の江戸時代”を検証する

    第2章 なぜ江戸幕府はいつも「財政難」なのか?
    I 江戸幕府の懐具合
    II「成長重視派」vs.「財政規律派」
    III ぬるま湯を許さない国際情勢

    第二部 資本主義を実践していた「大名」と「百姓」

    第3章「大名」と「百姓」のビジネス
    I 江戸幕府のユルい政治力
    II「平和」が経済成長の大前提
    III 江戸時代の実業家

    第4章 借金苦に喘ぐ大名。アイデアに溢れる商人
    I「流通」の発達
    II 借金まみれの幕府と大名

    第三部 なぜ江戸幕府は“倒産”したのか?

    第5章「民間の活力」を生かせなかった江戸幕府
    I 限界を迎えた「石高制」
    II 薩摩と長州の藩政改革

    第6章「明治維新」に必要だった、薩摩藩の“リアリズム”と長州藩の“狂気”
    I「薩長同盟」の経済的背景
    II「貨幣制度」の混乱と「円」の誕生

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  2. shinichi Post author

    「日本型共産主義」を生み出してしまった江戸幕府の“悪政”遺伝子

    by 田中秀臣

    http://ironna.jp/article/3257?p=1

     最近、経済評論家の上念司氏とラジオ番組「ザ・ボイス そこまで言うか!」(ニッポン放送、5月4日放送 https://www.youtube.com/watch?v=LX4kceGVo0I)で共演して、現在の日本や世界経済の動向について意見を交わした。

     私たちの共通する視点は、いわゆる「リフレ派」として表現されている。「リフレ」というのは、リフレーションの略であり、「日本経済の長期停滞は、持続的な物価下落とその予想が持続することが原因である。物価とその予想をコントロールできるのは金融政策なので、その政策転換が長期停滞脱出のキー」と考える立場である。ここでいう「金融政策の転換」は具体的には、物価下落(デフレ)から物価上昇(インフレ)への転換を目指すことである。これだけのことで日本経済が長期停滞を脱して再生することができるのか? とこの20年以上、多くの議論を招いてきた。

     しかし第二次安倍晋三政権が発足し、その経済政策(アベノミクス)の中核に、この金融政策の転換が置かれ、それによって経済は急速に改善し、株価の上昇・円安の加速、企業収益や雇用の大幅改善がみられた。また日本の大問題と(私はそれは誤った認識だと思うが)散々いわれてきた「財政赤字問題」も大幅に改善し、事実上“終焉”した。

     このようなリフレ派の考えはシンプルであるが、同時に強力なものである。だが、今日、財務省的な緊縮政策(具体的には消費増税)のために安倍政権と日本銀行のリフレ政策が不安定化し、日本経済に再び長期停滞に陥る危険が迫っていることは、本連載で毎回のように書いていることである。

     ところで上念司氏の近著『経済で読み解く明治維新』(KKベストセラーズ)は、この金融政策の転換(デフレからインフレへ)が、江戸幕府の崩壊と明治維新の成功を解き明かす最大のキーであることを示した優れた評論である。先のラジオ番組の合間にも、上念氏のこの近著を話題にして大いに盛り上がった。

     詳細は同書を読んでほしいのだが、江戸幕府というのはデフレの維持を目的にした経済システムである。幕府も諸藩もともに緊縮財政の結果、経済が疲弊し、米価の低迷はさらに財政状況を悪化させ、経済全体を停滞させてしまった。

     なぜ幕府はデフレを選んだのか? それは緩やかなインフレになってしまうと経済が活性化してしまい、特に農村部から(より経済的利益を生みやすい)都市への人口流出を生んでしまう。農村部は米の生産、つまりは幕府や諸藩の収入の基礎である。そこから農業生産者が流出してしまうことは、当時の幕府・諸藩には認めることができない事態だった。そのためそのような人口流出(米の生産減)を抑制するために一貫したデフレ政策がとられた。たまに江戸時代の中で貨幣改鋳などでマネーの量を増やし、経済を低インフレの形で活性化する政策がとられても、すぐに当時の財務省官僚的な連中が「緊縮!」と叫んで、たちまち経済はデフレに戻り、停滞してしまう。停滞すれば幕府は安泰と考えてしまっていたのだ。以前、ある政治家と議論したときに、「景気がよくなってしまうと消費増税ができない」と言っていたが、その議員の発想は江戸時代並みだということになるだろう。

     だが実際にはデフレを続けることで、幕府や諸藩の財政状況はさらに悪化してしまい、それが江戸幕府の終焉を招いてしまった。この過程を上念氏の『経済で読み解く明治維新』は実にわかりやすく解説している。

     ところでこの幕府のデフレ政策は、のちに日本のマルクス主義者たちに引き継がれていった。戦前日本のマルクス主義の代表者である河上肇(1879-1946)は、江戸時代のデフレ政策を高く評価していた。マネーだけ増やしても経済では贅沢だけが増えてしまい、むしろ経済格差が深刻化してしまうだろう。しかも農村から都市へ人口が流出してしまうと、農村が人口の供給源なので人口減少を招き、人口減少は経済や社会の停滞をもたらす。農村の人口減を阻止するデフレが望ましいのだと考えた江戸時代の官僚たちの発想は、河上にとっても重要なものだった。むしろ農業部門で働く人たちを増やし、日本経済を導くリーディング産業として農業を再生することが、日本の経済発展の基礎である、と河上は信じていた。

     ところが河上はのちに米騒動(1918(大正7)年)を契機にして、農業部門の生産性の限界(米の構造的不足)を認識するようになり、もはやいまの資本主義経済では日本を支えることはできない、むしろ体制を転換してソ連型の共産主義国家にすべきだと強く確信するようになった。ちなみにその当時激しさを増していたデフレ型の恐慌は体制転換に伴う“必然”的なものであり、金融政策を転換してデフレ経済をインフレ経済にしても意味がない、と主張した。実際に河上はこの立場から、当時のリフレ派であった石橋湛山と昭和恐慌の時代に激しく論争した。

     いずれにせよ、江戸幕府から続くデフレ政策好きな遺伝子が、明治以降もマルクス主義や日本型共産主義の中に脈々と受け継がれていき、一種の「金融緩和政策嫌い」「リフレ嫌いデフレ好き」とでもいう病理的現象を生み出していったひとつのルーツをここに見出すことができる。

     ところで明治維新を生み出した功労者であった坂本龍馬の経済論は、江戸時代の官僚や河上肇に比べると金融政策の転換を重視していることで注目に値する。坂本は今日の「会社」の先駆といえる海援隊を設立・運営したり、貿易を立国の基礎と考えていた。そのため彼は貿易に欠かせない為替レート政策の構築を重視した。江戸幕府の為替レート政策もまた「失政」であったことは、上念氏の先の著作にまた詳しい。そして諸藩の財政危機の根源が、借金をリスケジュールすることで解消するということ、そのキーがリフレ政策であることも理解していたように思われる。

     坂本龍馬が実際にどんな人であったかは、現在は文庫版で『龍馬の手紙』(講談社学術文庫)という本がでているのでそれを読めばおおよそのことがわかる。例えば慶応三年(1868年)に後藤象二郎に宛てた手紙には、大政奉還を実効性のあるものにするために、貨幣鋳造の権利を幕府からとりあげて、さらに銀座を京都に移すことをすれば、幕府の権力も有名無実のものになると書いている。これなどは龍馬の政府運営における金融政策の転換を重視する立場を端的に表しているだろう。龍馬の経済政策の師匠である横井小楠は積極財政政策を唱え、「日本のケインズ」ともいわれているが、龍馬が金融政策の転換を重視したのは、マネーを増やし、それで財政政策も積極的に行えば、日本経済も活性化すると思っていたと解釈することはそんなに間違ってはいないだろう。

     さらに坂本が起草した「船中八策」や「新政府綱領八策」には、新政府の取り組むべき問題(八策の中のただひとつの経済項目)として、「金銀物貨宜しく外国と平均の法を設くべき事」が強調されている。為替レートを日本経済に負担をかけない形で、諸外国と交渉すべし、という態度は、他の幕末の志士たちにはあまり見られない卓見である。少なくとも「円高=円が尊敬される」と盲信している現在のトンデモな経済論者たちよりも数段ましであることは確かである。

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