山口朋子

develop(他動詞)
普段は何気なく見ていたこの動詞。漠然と「発展させる」位の意味しか、すぐには思い浮かばなかったこの語も、取る目的語によって七変化どころではないさまざまな訳し方があるんだなあと、学習を始めたごく初期の頃に面白さを感じ、訳し分けの大切さをまず知るきっかけとなった語の一つでした。例えば、プランなどであれば「立案する」「作成する」、製品なら「生み出す」「作り出す」、アイデアは「考え出す」、企画は「作成する」、場合によっては「導入する」というimplementのような意味にも使えますし、コンセプトなら「開発する」、チームなどは「編成する」、能力は「伸ばす」、病気なら「かかる」、途上国は「発展させる」「開発する」、といった具合に、実に多くのコロケーションが成り立ちます。その他、目的語によっては「成長させる」「育成する・育む」「策定する」などといった訳出が適切となるケースもあります。さらに、It develops that ~ といった特殊な構文は例えば「~ということになる」と訳すとスッキリする場合があるとも学びました。また、-erのついた名詞にまつわる表現では、例えばlate developerといった場合、勿論developの意味を踏まえつつ「発育・発達の遅い人」となりますが、そこから転じて、早熟の反意語である「晩熟」といった訳や、良い意味では「大器晩成」といった訳し方が必要かつ適切となるケースもあります。何だか一見シンプルに見えるdevelop一つを取っても奥深いなあ、とますます翻訳というものに引き込まれ、夢中で色々な表現を書きとめていた記憶があります。

One thought on “山口朋子

  1. shinichi Post author

    『”翻訳”は一日にしてならず — 一翻訳者となって思うこと』第九回:「翻訳の学習」を通して得た 目からウロコの訳出工夫・表現例①

    by 山口朋子

    http://haken.issjp.com/cgi-bin/trend/detailcolumn.cgi?column1378080377.txt

    そもそも翻訳というものに興味を持って、その学習をスタートしてみて初めて分かったこと。それは、「翻訳」には特に、こういう時にはこう、といった公式や決まりがある訳ではないということ。だからこそ、その場その場で適切な判断、訳し換え・表現の工夫が出来るよう場数・経験を踏み、フィードバックを得て自らの思考プロセスの見直し、表現の磨き方・増やし方を学ぶことが大切だと分かりました。単なる英語・日本語の解釈としてではなく、翻訳という、特定の読者、文章背景、フォーマリティなどを考慮した、いわゆる商品・作品としての完成度を追求するためには、こうした経験を通して自ら言い回しを決める際の思考過程、工夫のコツなどを、後に振り返って応用できるようまとめて記しておくといった作業が役立つことが多かった気がします。そこで、今回と次回は趣向を変えて、授業その他を通じ「なるほど、こういった訳出が可能なんだ!」と感じ入り、ノートに記し溜めていた表現例の中からいくつかをご紹介したいと思います。

    develop(他動詞)
    普段は何気なく見ていたこの動詞。漠然と「発展させる」位の意味しか、すぐには思い浮かばなかったこの語も、取る目的語によって七変化どころではないさまざまな訳し方があるんだなあと、学習を始めたごく初期の頃に面白さを感じ、訳し分けの大切さをまず知るきっかけとなった語の一つでした。例えば、プランなどであれば「立案する」「作成する」、製品なら「生み出す」「作り出す」、アイデアは「考え出す」、企画は「作成する」、場合によっては「導入する」というimplementのような意味にも使えますし、コンセプトなら「開発する」、チームなどは「編成する」、能力は「伸ばす」、病気なら「かかる」、途上国は「発展させる」「開発する」、といった具合に、実に多くのコロケーションが成り立ちます。その他、目的語によっては「成長させる」「育成する・育む」「策定する」などといった訳出が適切となるケースもあります。さらに、It develops that ~ といった特殊な構文は例えば「~ということになる」と訳すとスッキリする場合があるとも学びました。また、-erのついた名詞にまつわる表現では、例えばlate developerといった場合、勿論developの意味を踏まえつつ「発育・発達の遅い人」となりますが、そこから転じて、早熟の反意語である「晩熟」といった訳や、良い意味では「大器晩成」といった訳し方が必要かつ適切となるケースもあります。何だか一見シンプルに見えるdevelop一つを取っても奥深いなあ、とますます翻訳というものに引き込まれ、夢中で色々な表現を書きとめていた記憶があります。

    ensureとcommit
    ensureもいわば衝撃を受けた語の一つと言えますね(笑)辞書には「確実にする」といった基本の意味が載っていることが多く、勿論「確実にする」「確保する」といった訳が適切なケースもありますが、どうもこの表現がカタく不自然に感じられる文脈というのがほとんど。辞書等にある一般的な意味にとらわれて上手く表現できずにイライラしていた時、授業でensureという語に出くわすごとに先生から訳し方のテクニックを教えて頂いて「なるほど!」と思ったのは、この語はいわゆる努力目標といったニュアンスが強く、実現されないこともある、という意味を含んでいると言うこと。これと比較されるのがcommit。commitは約束を表し、しっかりと果たされなくてはならない義務感が強く感じられる語であるということを学びました。結果としてensureの訳し方としては、ensure+目的語、ensure that ~ いずれの形でも「~に(orするよう)努める」「徹底する」「万全を期す」といった訳出がしっくり来る文脈が多く、先のdevelop含め、英語としての本来の意味やニュアンスをしっかりとらえることができ、自らの表現の幅も広げることができれば、各文脈に即したとても自然な日本語を展開することができるようになる、という基本的な事実を知るに至り、その双方の力を伸ばそうと努めるきっかけともなったのでした。

    ほんの一部のご紹介ですが、次回も引き続き、翻訳というものを学習していた過程で「なるほど!」と感じた表現例をご紹介したいと思います。

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