母の友

『雑草のくらし』を読んだときの衝撃は、今も鮮明に覚えている。一区画の更地で雑草たちが繰り広げる営みを描いた科学絵本。様々な種対の草が、栄え、滅び、次代へ命をつないでいく。物言わぬ彼らの栄枯盛衰のドラマにしばし呆然とし、次に驚きの対象は「その事実を伝えようとした人」へと変わった。自ら畑あとを借り、5年もの間観察を続けたというのだ。静かなタッチの絵に客観を貫く文章。この本の著者、甲斐信枝さんとは、一帯どんな人なのだろう。
電話での取材依頼では快諾を得たものの、参考にと見本誌を送ったところ、すぐに電話がかかってきた。「とてもじゃないけど、私には無理ですよ」。数度のやりとりの後、ようやく取材は許された。やりとりの中で甲斐さんがもらした「限りなく謙虚であれ、限りなく傲慢であれ」「ちゃんとした仕事はしてきていない」という言葉が耳に残った。会ってその真意を確かめたい。絵本とは、観察とは、仕事とは何か──会えば手がかりがつかめるかもしれない、そんな予感もあったのだ。
紅葉シーズン真っ盛りの京都・大覚寺。待ち合わせ場所のバス停前に、約束の30分前に着くと、すでに甲斐さんはいた。緑のスカーフの上の笑顔がチャーミング。
まずは、「縄張り」を案内してくれる。大覚寺脇の小道をゆくと、まもなく田園が広がった。ゆるやかな傾斜と周りを囲む山々が美しい。甲斐さんが常に草花を観察、写生しているフィールドだ。
「新聞紙を敷いて土手にあぐらをかいて座り込むことも多いですね。目線を低くすると、いろんなものが見つかるのよ」。

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