村上春樹

だから僕は、小説家になったほとんど最初の段階で、文章を使って個人的な言い訳をすることだけはやめようと決心した。僕はそれほど強い人間ではないから、日常においてはあるいはついつい言い訳のようなことをしてしまうかもしれない。でもそのために文章を使うことだけはやめようと。いささか大げさな言い方だとは思うけれど、たとえ世界中に誤解されたとしてもそれはそれで仕方ないじゃないか、と基本的には僕は思っている。逆に言えば「小説家というのは良くも悪くも、そんなにみんなにすんなりと理解されちゃかなわないだろう」ということである。「知は力なり」という言葉もあるけれど、小説家にとってはむしろ「誤解は力なり」という方が正しいのではないか。小説の世界では理解を積みかさねて得られた理解よりは、誤解を積み重ねて得られた理解の方が、往々にしてより強い力を持ちうるのだ。

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