野田聖二

戦前と戦後の大震災の事例をみてわかることは、震災により景気が一時的にダメージを受けても、それによって景気が震災直後から累積(スパイラル)的に悪化していくようなことはなく、むしろ復興需要に絡む在庫投資が景気を加速させる方向に作用する、ということです。
このことは、在庫循環モデルのシミュレーションからも確かめることができます。震災のショックで需要もしくは生産が一時的に落ち込むと、それが復元していく過程で在庫投資が急増して景気が加速し、景気循環の振幅が激しくなるのです。
このような需要もしくは供給の一時的なショックが景気の回復局面で発生すると、過去2回の大震災の時のように、景気の水準は一時的に落ち込むものの、それによって回復基調が途切れてしまうわけではなく、むしろその反動で景気が加速して、場合によってはそれが景気循環のピークの到来を早めることにもなります。
過去2回の大震災の事例と在庫循環のメカニズムとから、今回の東日本大震災が景気に与える影響もあらかた予想できるのではないかと思います。
結論から言えば、震災の影響による一時的なショックにより、生産などの経済の水準は一時的に落ち込みますが、景気の回復基調がそれによって途切れるわけではなく、むしろ落ち込んだ水準から元の水準に戻っていく過程で景気が加速していく可能性がある、ということです。

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1 Response to 野田聖二

  1. shinichi says:

    大震災と景気の関係

    by 野田聖二

    私の相場観

    http://blog.livedoor.jp/business_cycle/archives/51686513.html

    今回の震災(東日本大震災)による建物や社会資本などの直接被害額は民間調査機関の試算では最大20兆円(3/17付日経新聞)で、GDP比4%と見積もられています。1995年の阪神大震災の時は10兆円でGDP比2.0%だったので、今回は当時のほぼ2倍近い被害額になる可能性があるとみられています。一方、1923年の関東大震災の時の被害額は53億円でこれは当時のGDP比35%にも相当するけた違いに大きなものでした。地震の発生時刻が9月1日のちょうど正午で昼食時と重なったことから、大規模な火災による損害が大きく、横浜市はほぼ全滅、東京の損害も3/4に達する未曾有の災害となりました。
    今回の震災が景気に与える影響を考える上で、関東大震災と阪神大震災が当時の景気にどのような影響を与えたのかを簡単に振り返ってみたいと思います。

    阪神大震災は、バブル崩壊後の不況から景気が1993年10月を底に回復局面に転じて1年余り経った1995年1月17日に発生しました。
    震災前後の鉱工業生産指数の動きをみると、震災前までは上昇基調で推移していましたが、震災が生産や物流に影響を与え、95年1月は前月比2.6%低下と一時落ち込みました。しかし、その後は2月2.2%、3月1.0%、4月1.3%と3か月連続で上昇しました。四半期の動きで見ると、94年10~12月期に前期比1.5%上昇したあと、95年1~3月期には0.3%低下とやや減速しましたが、翌4~6月期は再び1.4%上昇しました。一方、実質GDPを見ると、95年1~3月期が年率3.4%増、4~6月期が同3.2%増と連続プラスを維持し、震災の影響は特に目立って現れませんでした。
    その後鉱工業生産は4月をピークに低下に転じ、9月にかけて低下基調となり、景気の踊り場を形成しましたが、これは阪神大震災とは直接関係がなく、当時1ドル=79円台まで進んだ円高と、95年に入り米経済が減速過程(グロース・リセッション)に入ったことによりもたらされたものでした。
    こうしたマクロ経済の数字を見る限り、阪神大震災が短期の景気に与えた影響はごく一時的なものにとどまり、当時の景気循環にはほとんど影響を与えなかったと言ってよいと思います。

    次に、1923年の関東大震災と当時の景気との関係をみてみたいと思います。
    まず、戦前の景気の大きな流れをみると、関東大震災が起きた1920年代というのは、ちょうどバブル崩壊後の1990年代のように日本経済が長期にわたって低迷を続けた時期にあたっていました。
    そのような中で景気の短期(在庫)循環は1922年11月を底に回復に転じ、その回復局面のさ中の1923年9月に関東大震災が発生しました。
    大震災の影響で23年の名目GDPは前年比4.2%減少しましたが、翌24年には建設投資を中心とした復興需要により名目で4.4%増、実質では12.5%の伸びに達しました。
    当時の景気の動きをみると、震災復興のため復興資材の輸入が急増したことから物価が上昇し、景気は24年初めにかけて上昇しました。しかし、復興資材の投機的な需要が高まったことから、輸入品の過剰在庫が発生し、建設投資が盛り上がる中で景気の短期循環は24年1月をピークに下降局面に入っていきました。

    このように、阪神大震災と関東大震災を比較してみると、震災による被害額の規模は全くことなるものの、景気循環の同じような位相で発生していること、また、発生から数か月後に景気がピークを迎えているという共通点がみられます。
    すでに述べたように、阪神大震災とその後の景気の踊り場との間には関係がないとみられますが、ただ、阪神大震災の時にも、復興需要を当て込んで行われた在庫積み増しがその後の「景気の踊り場」での在庫調整の一因になったと言われています。一方、関東大震災の時には、上記のように復興資材の投機に絡む需要増が在庫の急増を招き、「震災の結果、通常の場合より(景気が)ピークに到達する時期が早められた」(藤野正三郎著「日本の景気循環」)との見方もあります。

    以上のような戦前と戦後の大震災の事例をみてわかることは、震災により景気が一時的にダメージを受けても、それによって景気が震災直後から累積(スパイラル)的に悪化していくようなことはなく、むしろ復興需要に絡む在庫投資が景気を加速させる方向に作用する、ということです。
    このことは、在庫循環モデルのシミュレーションからも確かめることができます。震災のショックで需要もしくは生産が一時的に落ち込むと、それが復元していく過程で在庫投資が急増して景気が加速し、景気循環の振幅が激しくなるのです。
    このような需要もしくは供給の一時的なショックが景気の回復局面で発生すると、過去2回の大震災の時のように、景気の水準は一時的に落ち込むものの、それによって回復基調が途切れてしまうわけではなく、むしろその反動で景気が加速して、場合によってはそれが景気循環のピークの到来を早めることにもなります。
    一方、景気が後退局面の中でこのようなショックが起こると、景気は一時的に大きく落ち込み景気の谷を深くしますが、同様の原理によって景気が急速に回復に転じることが予想されます。実際に、2001年9月に同時テロが起こった時に米経済は一時的なショックに見舞われましたが、その直後の11月に景気は底を打って回復に転じました。また、日本では2008年秋のリーマン・ショック後に景気が急激に落ち込んだものの、大方の予想に反して景気は2009年3月を底に早くも回復に転じましたが、これも先ほどの在庫循環のメカニズムから説明することができます。リーマン・ショック後の需要の急減に対応して日本の企業は一斉に大幅な減産に走りましたが、その減産速度が尋常ではなかったために、在庫が復元する過程で今度はその反動による大幅な在庫積み増しに迫られ、それが予想以上に早い生産の回復をもたらしたのです。

    過去2回の大震災の事例と在庫循環のメカニズムとから、今回の東日本大震災が景気に与える影響もあらかた予想できるのではないかと思います。
    結論から言えば、震災の影響による一時的なショックにより、生産などの経済の水準は一時的に落ち込みますが、景気の回復基調がそれによって途切れるわけではなく、むしろ落ち込んだ水準から元の水準に戻っていく過程で景気が加速していく可能性がある、ということです。
    きょうの日経新聞には、今回の震災が経済に与える影響についての記事がいくつか載っていました。「阪神大震災の時に比べて、今回被災した東北や北関東は部品・素材メーカーの集積地になっており、供給ショックが幅広い業種に波及するため、生産の低迷が長引くとの見方が多い。」といった記事を読むと、漠然と、「景気はこれからかなり厳しいのではないか」という思いになります。
    しかし、冷静に考えればわかりますが、景気のいわゆる最悪期は地震が起きた直後であり、その後は二次災害が起こったりしなければインフラや生産設備の復旧、物流障害の解消で徐々に生産が戻っていくことは明らかです。鉱工業生産の動きで言えば、3月ないし4月(今回は11日に震災が発生したので、供給ショックによる落ち込みは4月にずれるかもしれません)に一時的に大きく落ち込むものの、5月以降は前月比でプラスが続くことが予想されます。「生産の低迷が長引く」というのは、要するに、「生産が元の水準に回復するまでには多少時間がかかる」ということであり、「生産が減少し続けて景気が悪くなっていく」ということとは分けて考えるべきです。
    また、今回の震災の影響で、百貨店や居酒屋の売り上げが前年比半減となっており、ゴルフ場や旅行のキャンセルなども相次ぐなど、個人消費が大きな打撃を受けているとの記事もみられます。しかし、これも同様に、消費の最悪期は間違いなく、「今」であり、震災の影響が徐々に薄れると同時に消費が戻っていくことは誰が考えても明らかです。
    3月ないし4月の経済水準が一時的に落ちることでゲタが低くなり、4~6月期のGDPはマイナス成長になるかもしれませんが、これもまた、景気回復が途切れてしまったことを意味するわけでは決してありません。

    一言でいえば、「足元の状況に驚いて過剰反応し、将来まで悲観的に見る必要はない」ということです。まさに、「災害に売りなし」という相場の格言が伝えている通りです。株価は景気の「今」ではなく「先行き」を見て動きます。震災の影響で景気が一時的に落ち込んでも、その後回復していくことがはっきりしているのであれば、株価も戻っていくはずです。格言はそのことを伝えているのだと思います。また、ウォーレン・バフェット氏も、「このような突然の例外的な出来事は、本当に良い買いの機会を提供する」と昨日語っています。
    むしろ、今回の震災で懸念しなければいけないのは、復興需要で景気が加速し、再び原油高や物価高が景気の足かせになることの方ではないかと考えています。

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