今の若い人は主体性がない人が多くなっている気はしています。君はそう言っているけど、僕はこう思うからこういう風にしようよ、って言えないんですね。言ったらみんな「なにこいつ、空気読めないな」って思われるから。ニコニコ笑って、「そうだよねー」と調子を合わせていればいい。
だから断定した物の言い方をしないで、曖昧言葉を多用するでしょ? 本当は「したい」のに、「したいかもしれない」って。
若い人たちはその場をうまく納めるために言葉を選んでいるんだと思います。その方が自分が傷つかないから。
「空気を読む」というのは、一見いいことのように聞こえますし、日本の伝統的な、察する文化に似ていますが、そうではないと思います。
でも、必要な場合もありますからね。みんなの気持ちを考えて空気を読むことはいいことだと思います。でも、そのために主体性を押し殺すのは良くない、と思います。
NHKの梅津アナ(ことばおじさん)に聞く(前編)
「敬語が使えないと、やっぱり就職できないのでしょうか?」
取材・文=加藤 レイズナ
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100518/226507/?P=1
ゆとり世代、22歳の駆け出しフリーライターが、業界の大先輩たちに教えを請うインタビューシリーズ。「疑問に感じたことを恐れず真摯に聞くこと」を得物に、プロフェッショナルのことばを引き出し、若い世代と旧世代双方の「やる気」と「希望」をつなぎます。第3回にご登場いただくのは、梅津正樹さん。「ことばおじさん」の愛称で人気のNHKアナウンサーに、過剰敬語や曖昧言葉など、最近の若者ことばを中心に聞きました。ことばのプロフェッショナルを前に、いつもに増して緊張の加藤。果して、自然な敬語でインタビューできるでしょうか。
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目上の人と話すときの一人称を教えてください
── ほ、本日はよろしくお願いします。
梅津 よろしくお願いします。いいんですよ、そんなに緊張しなくても(笑)。
── どうしても、いつもよりちゃんとした言葉を使わなくてはと思ってしまって(笑)。今日はいつも悩んでいたことを教えてもらいにきました。まず、目上の人と話すときの一人称は何がいいのでしょうか?
梅津 相手によりますよね。普段は何を使っていますか?
── 「俺」や「僕」だったり、歳上の人相手だとたまに「自分」を使ったりします
梅津 「私は」の代わりに「自分は」って使うんですよね。自分で何かするとか、自分で買いに行きます「あなたはこうだけど、自分はこう思う」という使い方はありますが、「私」を表す意味で、自分を使うのはおかしいと思います。
── なんとなく思っていました。やはりおかしいんですね。
梅津 なんで「自分」だとおかしいと思いました?
── 軍人みたいだな、って言われたことがあるんですよ。
梅津 そうですね、一時日本軍は一人称を自分にするようにしていましたからね。その印象もあって、自分というのはおかしいと言う年配の方もいらっしゃるみたいです。でも、関西では相手のことを自分と言ったり、江戸時代では、あなた様という意味で御自分様という言葉もあるくらいで、必ずしも全く間違っているとは言えないんです。ただ、1952年(昭和27年)に国語審議会が建議した「これからの敬語」の中で「自分をわたしの意味に使うことは避けたい」とはっきり言っているんですね。
── そうなんですか。使わない方がいいぞ、と言っているんですね。やはり「私」がいいんでしょうか?
梅津 「これからの敬語」では「わたし」を標準の形として「わたくし」はあらたまった場合に使うとしています。
── 私は……言い慣れてないので最初は使いにくそうです(笑)。
梅津 加藤さんのお友達は大人に対して自分のことを何て言っていますか?
── 「僕」が多いですね。大人との会話の時に「私」を使い分けている人はまずいないです。知り合いの40代男性にも「僕」って言う人多いです(笑)。
梅津 なるほど、「僕」ですか。一般的に言われているのは、相手のことを君と言える相手には、自分のことは僕と言うんですね。だから大人が年下に使うのは問題ないですね(笑)。
── ということは、本来は「僕」は目上の人には使えないんですか?
梅津 そう、幼く聞こえてしまうんですね。「あなたと私」、「君と僕」、「俺とお前」の関係なんです(笑)。
── すごく納得が行きます! やはり目上の人には「私」しかないと。
梅津 ないですね。学生にスピーチさせて、自分のことは「私」だぞと言ってもつい喋っているうちに「それで僕は、あ! すみません」ってなっちゃう(笑)。
── やっぱり普段から使い慣れてないと、ついボロが出てしまいますよね。
梅津 はい、学生の内に訓練しないと面接試験、就職試験で「僕」と言っちゃう。それはマイナスになってしまうんです。
── 人前でスピーチしなきゃいけないときは緊張して自分でも何を言っているかわからないときがあります。梅津さんもあがるときはありますか?
梅津 もちろんあります。失敗しないように、間違えないように、準備したとおりにしゃべろうと考えていると、緊張します。
── 余計なことを考えない方がいいんですね。大きな番組だとあがってしまう、とかはないんですか?
梅津 大きさは関係ないようです。もう38年もアナウンサーやっていますから、慣れですね。
── 梅津さんはどうしてアナウンサーになったんですか?
梅津 愛川欽也さんの「パックインミュージック」が大好きだったんです。あのときの愛川さんは、政治問題や人種問題の話をしていたんですよ。全部台本通りに喋っていると思ったら、実はそうじゃなかったんです。
── 「バックインミュージック」?
梅津 深夜放送のラジオ番組ですね。私が聴いていたのは40年以上前なのですが。放送でこんなに自分の思いを述べることが出来るんだ、と感動したと同時に興味を持ったんです。
── 深夜ラジオがきっかけだったんですか、意外です!
梅津 アナウンサーって、他の仕事ではなかなか行けない場所に行くことができたり、会えない人に会えたりと面白い毎日です。
── 役得ですね。嫌なことはありますか?
梅津 はい、やはり視聴者には私と波長が合わない方もいらっしゃる。言っていないのに、言ったと誤解されて抗議をされることもあります。
── 間違っていないのに抗議がくるなんて辛いですね。
梅津 そこまでいくと好き嫌いの問題ですよね。人間ですし、仕方ないとは思います。けしからんとか、下手だ、と抗議をされたりもあります。それは甘んじて受け止めるのですが、この仕事をしてなかったら、私の心はこれほどまでに傷つかないし、何百人何千人に嫌われないのになあ、とも思いますよね(笑)。
── きっと、ひどいこと言われたりもあるんでしょうねえ。嫌悪感を表す「キモい」は若者言葉の代表な気がします。梅津さんはこの言葉についてどう思いますか?
梅津 私は嫌いですし、使いません。加藤さんは使いますか?
── いえ、僕もあまり好きではないので使わないようにしているんですよ。でも、たまについ言ってしまうこともあります。
梅津 キモいは「気持ち悪い」の短縮ですよね。短縮形は便利ですし、昔から使われていますから言葉として悪いとは言えないです。若者同士で使うのは大いに結構だと思います。仲間内で通じ合える言葉であるうちは、とても良いことだと思っているんです。ただ、別の場所で使うのは良くない。
── 仲間同士でやるならいいんですね。言葉自体を使うな! と言われるのかと思っていました。なぜ良いことなんでしょう。
梅津 考えや価値観がほぼ同じだから通じ合えるんです。そんな仲間たちと、同じ言葉で繋がれるというのは素晴らしいことですよ。年齢や経歴などが違うと、価値観も変わってくるから通じ合えないことがある。通じ合えない相手に仲間内の言葉を使ったって伝わらないんです。良い悪いじゃなくて、伝わるか伝わらないかが問題。「お前キモいな」と言われて、お互い傷つかないのであれば良いと思っています。
── 仲間内だけの言葉というのは若者だけの文化なのでしょうか?
梅津 実は大人も使っているんですよ。専門用語や業界用語がそうですね。例えば「真逆」や「目線」という言葉、これはテレビの照明関係者の言葉ですからね。
── テレビ業界用語だったんですか! 初めて知りました。バラエティ番組で初めて知る業界用語は多い気がします。ギャラとかもテレビがなかったら知らなかった気がします。
梅津 バラエティ番組に出ているタレントの言葉を若者が真似していることが多いのですが、必ずしもいいことだと思ってはいないです。テレビと関係なく、自然に全国的に使い出したのなら私は良いと思っています
── 若者の間で自然発生した言葉なら問題ないとうことですね。
梅津 はい、そこなんです! テレビが若者に媚びて流行らせようとした言葉は嫌いですね。
── 「打ち明ける」という意味の「ぶっちゃけ」を文頭につけるのが口癖なんですが、これも若者言葉ですよね。
梅津 そうですね。
── 就職活動マニュアルには「使ってはいけない言葉」の代表として登録されているそうです、そこまで悪い言葉でしょうか?
梅津 悪い言葉以前の問題だと思います。こんな言葉はないし、就職活動で使ったら一発でバツを付けられますよ(笑)。若い人同士で使うなら構わないと思います。
── やっぱりダメですよね(笑)。一人称もそうですけど、普段から丁寧な言葉を使い慣れてないと、面接でもつい口に出ちゃいそうです。
梅津 そうでしょ? だから普段から使い慣れておけば……。
── ノープロブレムですね(笑)。これからは仲間内だけで使うようにしまーす。
「大丈夫」は便利過ぎ? 句読点はなくてもいい!?
── 何かを断るときについ「大丈夫です」と言ってしまいます。本来の使い方としては合っているのでしょうか?
梅津 正しい使い方というのは知っていますか?
── 「結構です」でしょうか? 突き放しているみたいで使いづらいところがあって。
梅津 そう、それで合っているんです。何で突き放しているように感じるかというと、普段使ってないからなんですよ。周りの大人が使っているのを聞いたことがなくて慣れていないのかも知れない。大丈夫って言葉はとても便利なんです。「なにが大丈夫なの?」って聞いても「大丈夫、大丈夫」で済ませてしまえるくらい。
── 便利すぎて頻繁に使ってしまいます。この一言でだいたい伝わってしまうじゃないですか。
梅津 人によっては解釈、認識の仕方が違いますからね。言葉に対してどんなイメージがあるか一人一人違うから難しいんです。われわれの世代は「結構です」という言葉は突き放すイメージはないですから。
── 確かに、私の世代で「結構です」を使う人はあまり見ないです。
梅津 「結構」はYESとNO両方の意味がありますよね。
── はい。
梅津 「今日一杯行こうか」と言われて(にこやかな口調で)「結構ですねー」だとOK。「もう一件行こうか」(しかめっ面になって)「結構です」だと行かない意味になりますね。同じ言葉なのに正反対の意味があるんです。
── 文章にするともっとわからなくなりますね。
梅津 そう! 文字で書くとYESかNOか分からないんです。でも、会話では分かる。何故かというと、言い方、発する人の表情、声の調子、態度いろいろ合わさってYESかNOか分かるんです。ただ私も、大丈夫という言葉は便利すぎて、ときどき使っちゃうんですよ(笑)。
── 梅津さんも使うことあるんですか!?
梅津 「今日の会議は四時からで良いですか?」「大丈夫です。あ、いけね、言っちゃった」って。便利なんですよね(笑)。この言葉は今後無くならないと思います。ずっと使われていくでしょうね。
── 書き言葉だと、一部ネット上では文章に句読点を付けないのが正解、みたいな風潮があります。
梅津 元々日本の書き言葉には句読点はないわけですから。通じれば良いんですよ。単なる符号ですからね。クエスチョンマークなどと同じで、無くても良いわけです。
── 言葉の乱れにはなったりはしないんですかね?
梅津 乱れには通じないと思います。書いたものを読むときに句読点に囚われすぎていて、読み方を間違えることがあるんです。昔学校で、点は一拍、丸は二拍空けましょうって教えていました。これは間違いなんですよ。それに囚われると意味を取り違えて読んでしまう。間違えて読むということは、間違った情報を相手に伝えてしまうということなんです。
── ニュースでそれをやると相当怒られますよね。
梅津 はい、もう大目玉ですよ(笑)。句読点は万能ではないし、打つ人に力がないと難しいですね。私も最近携帯で文字を打つとき句読点使わないようにしているんですよ。
── あ、私はブログで記事を書くときに句読点を使わないようにしています。使わないでいると、なくてもいいような気がしてきます(笑)。
梅津 私も、いらないんじゃないかと思い始めてきました。
なぜ若者は「空気を読む」のか、曖昧言葉を使うのか
── 最近「空気を読む」と言う言葉が流行っていますが、具体的にどういうことなのでしょうか? 私たち若者が言っている空気を読む、というニュアンスは親世代には通じているのか疑問に思っています。
梅津 このテーマで一つの番組が出来るくらい難しいです。空気を読むということは、その場にいる人の気持や雰囲気を察するということですよね。日本の言葉って察しあう文化だと思うんですね。
── 日本の文化ということですか?
梅津 俳句や短歌が良い例ですが、限られた文字数で表現するのが美しいという感覚があります。出来るだけ少ない言葉数で会話をするのは、礼儀に叶っているんです。昔から、べらべら喋る奴は下品だと思われていたわけです。
── 梅津さんは普段はよく喋る方ですか?
梅津 少なくとも、テレビで一日中喋っていますから、下品だと思われているかもしれないですね(笑)。少ない言葉数で喋り、言葉が無い部分は察する。これが日本の文化だと思います。最近は察し合うことが出来ないことが増えてきましたね。
── 文化が変化してきたんですか?
梅津 これは持論ですが、昔は相手のためだったのが、今は自分のために察していると思うんです。
── 友だちと遊んでいるときに、素を出せずに黙ってしまうときがあります。そういうことでしょうか?
梅津 詳しく教えていただけますか。
── 友だちがワーワー楽しそうにやっているところに入っていきたいと思うんだけど、自分も同じテンションで入っていいものか、もしかしてこの場の空気が壊れるんじゃないかなと思ってしまいます。
梅津 周りに自分を合わせようとしているんです。変な奴だと思われたくない、仲間はずれになりたくない、その場さえうまく取り繕っておけば友たちでいられるから、自分が傷つかないために、相手を傷つけないようにしているんですね。
── いろいろ考えてしまって何もできなくなってしまうんですよ。雰囲気をおかしくしてしまうくらいなら……と思ってずっと黙っています。
梅津 今の若い人は主体性がない人が多くなっている気はしています。君はそう言っているけど、僕はこう思うからこういう風にしようよ、って言えないんですね。言ったらみんな「なにこいつ、空気読めないな」って思われるから。ニコニコ笑って、「そうだよねー」と調子を合わせていればいい。
── そんな笑顔で、ありがとうございます(笑)。そういうところ、直したいです。
梅津 だから断定した物の言い方をしないで、曖昧言葉を多用するでしょ? 本当は「したい」のに、「したいかもしれない」って。
── 断られたときの予防に、ここ行きたい、じゃなくてここ行きたいかも、と言ってしまうんですよ。
梅津 若い人たちはその場をうまく納めるために言葉を選んでいるんだと思います。その方が自分が傷つかないから。
── はっきり、こうだ! って言ったほうがいいのかはいつも悩みます。
梅津 「空気を読む」というのは、一見いいことのように聞こえますし、日本の伝統的な、察する文化に似ていますが、そうではないと思います。
── あまりいい言葉とは言えないんでしょうか。
梅津 でも、必要な場合もありますからね。みんなの気持ちを考えて空気を読むことはいいことだと思います。でも、そのために主体性を押し殺すのは良くない、と思います。
── 僕も、曖昧言葉でなく、はっきりと意見を言えるように頑張りたいです。あ、私も!
梅津 ごめんなさいね、気を遣わせちゃって(笑)。あ、今思い出したことがひとつ。大学の授業で学生に、何であなた方ははっきりとした物の言い方をしないのかって聞いたことがあるんですよ。そうしたら、何であなたたち大人は、はっきり物を言わせたがるんですか? 管理しやすいために、こいつはA、こいつはBってパターンに当てはめたいだけじゃないんですか? って言われたんですよ。
── 型にはめられるのは嫌ですねえ。
梅津 (胸を手でおさえて)いや、ドキッとしました。これは絶対あると思います。大人は何でも単純に理解したいんですよ。
── でも、若い人は、自分たちはそんなに単純ではないと?
梅津 はい、昔はおいしい物と不味い物しか無かったから、われわれ大人はおいしいか不味いかでしか判断できないんですが、若い人は単においしいだけじゃなくて、「やばい」くらいおいしいものもあれば、「フツーに」おいしいものもある。色んな価値基準があるから、曖昧になってくるのかな、とも思いますね。
「してもらっていいですか?」「ございますでしょうか」「なるほど」はOK?
── 敬語を使っていて思うことがあって。「してもらっていいですか?」という使い方はおかしいでしょうか? 丁寧に言っているつもりなんですけど。
梅津 「してもらっていいですか」は最近の若い人たちが、多く使う言葉ですよね。
── 一所懸命に敬語を使うんですが、大人に笑われたりして……。素直に「してください」と言った方がいいのでしょうか?
梅津 おかしいと言うのはお年を召した方に多いです。私は間違った表現ではないと思っています。何でおかしく感じるのでしょう?
── どことなく、押しつけているような気がしてしまします。
梅津 でも押しつけのイメージで使っていますか?
── 使ってはいないです。むしろ逆のイメージがあるんですが。
梅津 そう! へりくだって「~してください」と言うよりは丁寧に言っているつもりですよね?
── 自分では丁寧に言っているつもりなんですよ。
梅津 はい、それはいいことなんですよ。「してもらっていいですか?」というのは、自分がそうしてもらっていいか、相手の許可を得ようとしているんですね。本来の言い方は「していただけますか?」なんです。いただくというのは、もらうという言葉の謙譲語なんです。若い人たちは、なるべく簡単で丁寧な敬語を使いたい。そうすると「してもらっていいですか」になるんです。
── 敬語で喋ろうとすると、これじゃ足りないんじゃないかと思って「ございますでしょうか」「でしたでしょうか」とかいろいろ付け足して言ってしまうんですよ。どうしたら上手に使えるようになるんでしょう。
梅津 それはもうねえ、慣れるしかないんですよ。最初はもうなんでも丁寧語にしておく! あとは表情、言い方、態度でその気持ちを表していけばいいんです。「ございますでしょうか」のように過剰になってしまうのは、出来るだけ丁寧にしたい、攻撃されないように下手に出る、という思いがあるのと、長ければ長いほど丁寧に聞こえる日本語の特徴があるので、ついつい二重三重の敬語になってしまうことはあります。
── 直していったほうがいいでしょうか?
梅津 気にはなりますが、否定はしないです。無理して敬語を使って可哀想だと思います。無理して使うな! ため口でなければいい! と思っているんですけどね(笑)。
基本は言い方なんですよ。言葉をどういう気持ちで発するかが、とても大事だと思うんです。若い方が「してもらっていいですか」って言ってきたら、私は、「あ、いいですよ」って気持ちよく答えます。敬意をもった言い方なら大丈夫だと思います。(梅津さんの携帯が鳴る)。あ、すみません、ちょっと出ます。はい、梅津です。(電話が終わって)これ、仕事用の携帯でね、全国のアナウンサーが鳴らしてくるんですよ。
── どういう内容で電話してくるんですか?
梅津 この言葉の読み方はどうしたらいい、呼び方はどうしたらいいって。
── え、辞書代わりに電話がかかってくるんですか(笑)。
梅津 そうなんですよ。アクセント辞典に載ってない言葉なんだが、どうしたらいいかって電話がよく来るんですよ。本番直前や収録中のことが多いので、即断で答えなければならないんです
── そうなんですか(笑)。例えばどんな質問が来るんですか。
梅津 「やまぶかい」か「やまふかい」はどちらが正しいのかって質問が来たんです。草深い、雪深いはあるけど山深いなんて言葉は、ほとんどの辞書に載っていないんです。
── え、どこからその言葉が出てきたんですか?
梅津 ナレーションの台本で出て来たそうなんです。
── 台本にあったんですか、梅津さんはなんて答えたんですか?
梅津 「やまぶかい」って答えました。雪深いとか欲深いは大体濁っているから、いいんじゃないのって(笑)。
── そんな理由でいいんですか!?
梅津 はい。でもそんな日本語はもともとないので「やまふかい」と言っても間違いではない。出来れば他の表現に変えた方が良いと思います。でも、書いた人がどうしても使いたいならいいのではないでしょうか。そこから新しい日本語が生まれるかもしれないですし。
── なるほど……あ! あいづちを打つときよく「なるほど」と言ってしまうのですが、目上の人には使えない言葉ですよね。
梅津 おっしゃるとおりです。「なるほど」というのは相手の言ったことを「それはそうだ」と評価していることになるんです。日本では、目下が目上を評価することは失礼になるという風潮があります。同じように、「ご苦労様」も相手の労をねぎらうという意味です。目下が上をねぎらってはいけないのです。
── 丁寧に表現するとどうなるのでしょうか?
梅津 なるほどの敬語は無いですねえ(笑)。相手が言ったことに対してにっこり頷きながら「さようでございますか」というのはどうでしょう(笑)。
── さようでございますね。……やっぱりおかしいですね(笑)。
梅津 はい。「そんな簡単に分かってたまるものか」って思う人もいるかもしれないんです。
── 九州では「なるほどですね」と言ったりしますよね。
梅津 言いますね。なるほどだけだと何となく中途半端だから、ですねをつけている。広まってくれれば、便利な言葉かもしれません。
ことばおじさんのナットク日本語塾
ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/ことばおじさんのナットク日本語塾
『ことばおじさんのナットク日本語塾』は、NHK EテレとNHKワールド・プレミアムで2006年4月3日から2010年3月19日まで放送された日本語番組である。
アナウンサーの梅津正樹が「ことばおじさん」として出演し、正しい日本語の使い方を広めることを目的とした番組。
『お元気ですか日本列島』(NHK総合テレビ)、『つながるラジオ』(ラジオ第1)の「気になることば」コーナーに視聴者から寄せられた身近な言葉の疑問や誤った日本語の使い方を、プロダクション人力舎所属芸人によるショートコントを用いて例示し、日本語の間違った部分を指摘し正しい使い方を説明する一方、時代変化や世代間格差による言葉の変化の状況などを解説した。