柴山桂太

大きな危機が起きるたびに、資本主義の暴走が言われます。しかし資本主義が暴走しがちなのは、よほどの市場原理主義者でもなければいまや誰もが認めるところです。
そもそもグローバル経済が不安定なのは、当たり前のことです。グローバル経済は、国内経済と違ってだれも管理する者がいません。世界的な再分配の仕組みはありませんし、市場の失敗を補ってくれる制度も発達していません。
この20年間、日本の改革の遅れやグローバル化への遅れが日本の病状だと考えられてきました。そして構造改革が進められ、その総仕上げともいうべきTPPへと向かおうとしています。その前提には、これからもグローバル化は順調に進み、いずれ世界経済は好調に戻るという思い込みがあります。
しかし、その前提が間違っているとしたらどうでしょう。これから来るのは、グローバル経済がますます不安定化して、各国による市場の取り合いが本格化する時代なのだとしたら? 急激な経済停滞から、途上国を中心に政情不安が各地で発生する時代なのだとしたら? 取るべき選択はおのずと違ったものにならざるを得ないでしょう。

One thought on “柴山桂太

  1. shinichi Post author

    グローバル恐慌と民主主義の危機
    by 中野剛志、柴山桂太

    おわりに  —— 歴史は繰り返す
    柴山 桂太

     冷戦の終結は、資本主義の勝利だと言われました。各国経済がグローバルに連結することで、世界がさらなる平和と繁栄に向かうと信じられた時期もありました。

     しかし、そのような楽観論は2008年のリーマン・ショックに始まる一連の危機で、無残にも打ち砕かれようとしています。2011年にはギリシャの債務危機が再燃し、EUだけでなく世界全体を巻き込んだ危機の第二幕が始まろうとしています。

     本書の議論が正しいとすれば、一つの危機が過ぎると別の危機がやってくるという具合に、これからも世界経済の混乱は続くでしょう。ちょうど戦前のグローバル化した資本主義が直面したときと、同じような問題が起きる可能性が大きいのです。先進国はデフレに向かい、格差が拡大し、政治的な統率力が失われていく傾向にあります。途上国でも、これから政情不安が高まるでしょう。これらは一つ一つが複雑に絡み合っています。それを大きな視点から、対談のメリットを生かして論じてみようというのが本書の趣旨です。

     こうした大きな危機が起きるたびに、資本主義の暴走が言われます。しかし資本主義が暴走しがちなのは、よほどの市場原理主義者でもなければいまや誰もが認めるところです。問題は、資本主義をうまく枠づける制度や仕組みがなくなっていること、それを導く思想やアイデアが、まだ十分に準備されていないところにあります。

     そもそもグローバル経済が不安定なのは、当たり前のことです。グローバル経済は、国内経済と違ってだれも管理する者がいません。世界的な再分配の仕組みはありませんし、市場の失敗を補ってくれる制度も発達していません。これは世界全体が好況なときは問題になりませんが、不況が長引くと結局は国家が前面に出てきて、自国に有利な解決を図るという方向に向かわざるを得ないのです。

     この不況は、断続的に続くものと思われます。もはや2008年以前の世界的な好況に戻ることは、アメリカで再び巨大なバブルが発生しない限り不可能です。そしてその可能性はほとんどないというべきでしょう。歴史を振り返れば、こうした危機の時代には、重商主義や帝国主義が台頭します。これは言うまでもなく危険な傾向です。どちらも、国家の対立を著しく促進してしまうからです。

     思想の任務は、具体的な解決策を示すことではなく、現代の何が問題かを示すことにあるというのが私の考えです。医学の比喩で言えば、処方箋を急ぐ前に、何が病気の原因かを正しく診断する必要があります。間違った診断からは、間違った処方箋しか導かれないからです。

     考えてみれば、18世紀のアダム・スミスや20世紀のシュンペーター、ポランニー、ケインズなどが批判したのは、重商主義や帝国主義というかたちで経済と国家が結びついてしまうという事態でした。本書でも指摘していますが、現代の重商主義や帝国主義は、自由主義を否定するのではなく、自由主義の皮を被って登場します。現在、自由貿易の名のもとで各国が進もうとしているのはそのような道であるように思われてなりません。そうではない仕方で、経済と国家を適切に関係づけ、国民の生活を守るためには、何が必要なのか。過去の経済思想家を参照しながら本書で議論したのは、つきつめればそのような問題でした。

     この20年間、日本の改革の遅れやグローバル化への遅れが日本の病状だと考えられてきました。そして構造改革が進められ、その総仕上げともいうべきTPPへと向かおうとしています。その前提には、これからもグローバル化は順調に進み、いずれ世界経済は好調に戻るという思い込みがあります。

     しかし、その前提が間違っているとしたらどうでしょう。これから来るのは、グローバル経済がますます不安定化して、各国による市場の取り合いが本格化する時代なのだとしたら? 急激な経済停滞から、途上国を中心に政情不安が各地で発生する時代なのだとしたら? 取るべき選択はおのずと違ったものにならざるを得ないでしょう。

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