菊池道人

どちらか一方だけが正しいというような場合は、余り多くはない。大抵はどちらの言い分にもそれなりの理があるものだ。例えば、周郎が申したように、張角の説く教えに縋りつく者たちは、飢えや病に苦しんでいる、それを考えねばということは正しい。また、孫堅殿が国家の安寧のために不逞の輩を成敗するということも、理があり、まして、それを侮辱されたのは、子として許しがたいというのも、もっともな心情じゃ。しかし、そのもっともな理や情がぶつかると、無益な争いとなり、どちらの言い分も死んでしまうものだ。
正しい事を言うと、とかく、人を傷つけてしまうものだよ。わしも若い頃は官吏の端くれであったが、余りに歯に衣を着せずに物を申すものだから、本来ならば味方になってくれそうな人々まで敵に回してしまった。かと言って、何も言わずにいればよいというものではない。先ずは、相手が如何なる立場の者であるのかを考えねばならぬ。

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1 Response to 菊池道人

  1. shinichi says:

    周瑜: 「赤壁の戦い」を勝利に導いた呉の知将

    by 菊池道人

    「二人ともよく聞きなさい」
     王老師は、ゆったりと諭していく。
    「どちらか一方だけが正しいというような場合は、余り多くはない。大抵はどちらの言い分にもそれなりの理があるものだ。例えば、周郎が申したように、張角の説く教えに縋りつく者たちは、飢えや病に苦しんでいる、それを考えねばということは正しい。また、孫堅殿が国家の安寧のために不逞の輩を成敗するということも、理があり、まして、それを侮辱されたのは、子として許しがたいというのも、もっともな心情じゃ。しかし、そのもっともな理や情がぶつかると、無益な争いとなり、どちらの言い分も死んでしまうものだ」
     王老師は、一つ咳払いをして、
    「正しい事を言うと、とかく、人を傷つけてしまうものだよ。わしも若い頃は官吏の端くれであったが、余りに歯に衣を着せずに物を申すものだから、本来ならば味方になってくれそうな人々まで敵に回してしまった。かと言って、何も言わずにいればよいというものではない。先ずは、相手が如何なる立場の者であるのかを考えねばならぬ。例えば、周郎。おまえは、孫郎のお父上が、黄巾征伐に命を懸けて戦っておられるということを思い出したか」
    「いえ…. ..。つい忘れておりました」
     周喩は穏やかな王老師の言葉に、頭を殴られたような感じがしていた。
     後悔の念がたちまち体全体を覆い尽くした。
    「それに孫郎。己の考えと異なるものにも耳を傾けるという度量がなければ、人はついては来ないのだ。周郎は丶飢えや病に苦しんでいる民に目を向けている。それは尊いことじゃ。そのような者の意見に耳を傾けるということが出来なければ、人の上に立つことが出来ぬというものだ」
     孫策も深く反省していた。

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