憂き世ぞとなべて云へども治めえぬ我が身ひとつに猶嘆くかな
置きまよふ野原の露にみだれあひて尾花が袖も萩が花摺り
わが庵は月待山のふもとにてかたむく月のかげをしぞ思ふ
見し花の色を残して白妙の衣うつなり夕がほのやど
さやかなる影はそのよの形見かはよしただくもれ袖の上の月
今日はまた咲き残りけり古里のあすか盛りの秋萩の花
わが思ひ神さぶるまでつつみこしそのかひなくて老いにけるかな
今日はまづ思ふばかりの色みせて心の奧をいひはつくさじ
春来ぬとふりさけみれば天の原あかねさし出づる光かすめり
こぎわかれゆけばかなしき志賀の浦やわが古郷にあらぬ都も
つらきかな曽我の河原にかるかやの束の間もなく思ひみだれて
慈照院集
足利義政