西垣通

専門家という存在は高学歴社会になると、針先のように専門が分化していく。ある特定のことは深く知っているが、全体のことを考えなくなる。自分たちが社会をどうつくっていけばいいのか、という大きな問題が、専門家には分からなくなった。自分の専門分野を超えて広い視野で議論をできる人がいないように思います。

ネットには歴史的に、国家権力を相対化する、市民のためのコンピューターネットワークという面があります。自分たちで社会制度をつくり上げていこうという米国の西海岸文化と結び付いた、ボトムアップの文化がある。現状のネットの討論空間は、汚い言葉でののしり合ったり自己満足的に同じ意見を言い合ったりするだけのものが多く、寂しいものです。でも本来、ネットを使えばもっと建設的なことができるはずなんです。

きちんとしたボトムアップの議論ができない今の状況では、民主社会はどうなってしまうのか。私はネットに活路を見いだしたい。

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One Response to 西垣通

  1. shinichi says:

    ネットと言葉(5)「専門知」から「集合知」へ 情報学者・西垣通さん

    by 石井敬

    東京新聞

    http://www.tokyo-np.co.jp/article/culture/culture_news/CK2016010802000275.html

     「アムネスティ・インターナショナルが死刑廃止に関するデータをまとめています。英語のページも検索してみてください」

     東京・国分寺の東京経済大コミュニケーション学部。西垣通教授(67)のゼミで昨年末、二年生十五人が「死刑制度の廃止」をテーマに「賛成」「反対」の論拠をまとめていた。賛否に分かれてグループで討論するためだ。

     スマートフォンを手元に置いて情報を集める学生の間を、西垣さんが声を掛けて回る。「ネットの意見をそのまま書くのではなく、それをもとに自分の意見をまとめてください」

    ◆異論を理解し強靱に

     ゼミではこれまで「裁判員制度」「消費税増税」「尊厳死」などのテーマを日本語と英語で討論してきた。西垣さんはあくまで中立の立場に徹する。

     「自分の意見をぶつけてケンカしろというのとは百パーセント逆です。まったく違った考え方を理解し、自分の意見を組み立てていくことで、論理も強靱(きょうじん)になっていく」

     西垣さんは今、社会的なテーマを討議する場としてインターネットを活用し、人々の知恵を社会づくりに生かそうという研究を進めている。ゼミでの取り組みは、その方法を探るための第一歩だ。

     きっかけは、二〇一一年の東日本大震災だった。

     福島第一原発事故で、一つ間違えば首都圏まで膨大な放射能汚染にさらされる危険があったことが後日明らかになったが、多くの専門家が事故発生当時、「大丈夫。チェルノブイリ事故とは違う」と繰り返していた。事故前の安全対策も万全とはいえなかった。「プロフェッショナルによる『専門知』に対する一般の人たちの信頼は、地に落ちた」。大学人として「専門知」の一翼を担ってきた西垣さんは、自省を込めてそう思わざるを得なかった。

     「専門家という存在は高学歴社会になると、針先のように専門が分化していく。ある特定のことは深く知っているが、全体のことを考えなくなる。自分たちが社会をどうつくっていけばいいのか、という大きな問題が、専門家には分からなくなった。自分の専門分野を超えて広い視野で議論をできる人がいないように思います」

     一般の人が「専門家に任せておけば大丈夫だ」と高をくくっていればいい時代は終わった。では、どうすればいいのか。そこで西垣さんが希望を見いだしたのが、ネット上で人々の知識や知恵を集める「ネット集合知」だった。

     「ネットには歴史的に、国家権力を相対化する、市民のためのコンピューターネットワークという面があります。自分たちで社会制度をつくり上げていこうという米国の西海岸文化と結び付いた、ボトムアップの文化がある。現状のネットの討論空間は、汚い言葉でののしり合ったり自己満足的に同じ意見を言い合ったりするだけのものが多く、寂しいものです。でも本来、ネットを使えばもっと建設的なことができるはずなんです」

     ネットならお金をかけずに議論の場に参加できる利点がある。意見をデータベースとして蓄積する機能も優れている。だが、「死刑制度を廃止すべきか」といった「正解のない問題」は、勝手に意見を述べ合うだけでは、議論が平行線をたどって収拾がつかない。意思決定のための着地点を見いだす方法が必要になる。

    ◆ボトムアップに活路

     西垣さんが着目したのが、NHKテレビ「ハーバード白熱教室」で話題を集めた米国の政治哲学者マイケル・サンデル教授の手法だった。

     サンデル教授は「功利主義」「自由主義」「共同体主義」などの哲学原理を使って社会問題を議論する方法を鮮やかに提示し、話題を集めた。西垣さんはこれを応用し、「社会の安全度」「個人の幸福度」「コスト」などネット上で議論を進める時に参照する指標を定めようと模索を始めた。指標の一部は数値化することも検討している。

     例えば「死刑制度の廃止」がテーマの場合、「仮釈放なしの終身刑をつくる」といった選択肢を加えて議論を緻密にすることもできる。一般市民に加え、専門家には、法律解釈や外国との比較データなどを示して議論をリードする役割で参加してもらう。

     大学のゼミは、こうした試みを実践する場でもある。

     「大きな政治的テーマでなく、『地元の図書館にどんな本をそろえるのか』『地域の安全をどう守るのか』といった身近なテーマからでいい。普通の人が気軽に参加できる場ができてくればいいと思っています。きちんとしたボトムアップの議論ができない今の状況では、民主社会はどうなってしまうのか。私はネットに活路を見いだしたい」

     危機感が、西垣さんを突き動かしている。

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