吉岡徳仁

日本人の自然観には、自然の中に生命や神秘をみる感覚があり、それはオーラのようなエネルギーを感じることから始まります。このように本質的な自然美の認識と独自の解釈は、日本古来から受け継がれるものだと思うのです。私は独自の手法で表現する作品を通して、自然と共に生み出される時間を知覚化することで人間が物質的なものから解放され、同時に自然と一体化することで私たちの感覚の中に存在する日本文化の本質を見ることができればと考えています。

One thought on “吉岡徳仁

  1. shinichi Post author

    Interview with Tokujin Yoshioka

    形を超えるデザイン、吉岡徳仁インタビュー

    THE FASHION POST

    グローバル企業のデザインを数多く手がけ、ISSEY MIYAKE (イッセイミヤケ) をはじめ、Cartier (カルティエ)、Swarovski (スワロフスキー)、Louis Vuitton (ルイ・ヴィトン)、Hermès (エルメス)、TOYOTA (トヨタ) などと協働するデザイナー、吉岡徳仁。そんな彼に作家としての活動に比重を置いて作品を振り返りつつ、これからの展開を聞いた。

    http://fashionpost.jp/portraits/123145

    グローバル企業のデザインを数多く手がけ、ISSEY MIYAKE (イッセイミヤケ) をはじめ、Cartier (カルティエ)、Swarovski (スワロフスキー)、Louis Vuitton (ルイ・ヴィトン)、Hermès (エルメス)、TOYOTA (トヨタ) などと協働するデザイナー、吉岡徳仁。数々のクライアントワークを手がける一方、壮大な自然のエネルギーを表現したインスタレーションは国際的に高く評価されている。吉岡のテーマは「人間のあらゆる感覚を、光、音、香りなどの非物質的な要素で形象化することにより、形の概念を超えた独自の表現をすること」にある。作家としての活動に比重を置いて作品を振り返りつつ、これからの展開を聞いた。

     

    形の概念を超えた独自の表現で知られる吉岡徳仁。彼の事務所は、島根県にあった約150年前の米蔵を移築して、新しい建築の中に取り込んだ構造体だ。新しいものと古いもの、自然素材と工業素材、伝統的な技法と現代のテクノロジー。この建物はあらゆる対比によって構築されている。

    —この事務所にお邪魔したのは10年ぶりなのですが、並んでいる作品の数が増えたほかは、佇まいがほとんど変わっていません。エントランスにあるガラスのベンチ「Water Block」が印象的です。

    この事務所は2000年に建てました。「150年前の素材と現代の素材を融合させたらどうなるのか」と考えたものです。

    —ご自身の中では、古いものと現代的なもの、もしくは未来的なものは並列的にあるのでしょうか。

    どちらにも魅力があると思います。歴史的なものには、自分が体験していない時代に触れられる魅力がある。それは未来も同じですよね。だから、その魅力ある二つの時間の融合に魅力を感じます。

    「Water Block」を発表した翌年、当時は発表しなかったのですが、ガラスの日本民家をデザインしました。壁から瓦まで全てがガラスでできている住宅です。日本の歴史とガラスのコントラスト。歴史的な表現でありながらも、未来的なものになる。後年、「光庵 – ガラスの茶室」が実現しました。

    —古いものを見る視点というのは、置かれた文化によって少し違うと思うのですが、海外で吉岡さんの作品を見る方はどう見られているとお考えですか。

    長い歴史がある中、そこでどういう風に見せていくかは意識しています。歴史の中で生きてきたものの価値に、未来的なものの価値を融合させると新しい提案ができるのではないか。これは常に考えています。例えば「Designer of the Year 2007」受賞に伴い発表させていただいたこのインスタレーションで私が考えたアイデアは、マイアミの自然そのものをデザインの要素に取り入れることで、会場全体をデザインすることでした。ひとつは、特殊プリズムがマイアミの強い太陽の光を浴びることによって虹をつくり出す「Rainbow Chair」。私がマイアミを訪れた際に浴びた、眩しいほどに強い太陽からインスピレーションを得て誕生した作品です。

    丹念に磨き上げられた特殊なプリズムガラスは、プラチナのモールドによって成型されており、背もたれとなるプリズムガラスが、太陽光を受けることによって椅子の周りに虹を生み出します。そして、およそ200万本の透明なストローにより、マイアミでたびたび発生する大規模なトルネードやハリケーンといった自然現象を表現した空間インスタレーション「Tornado」を発表しました。雲や雪、霧のその粒子が何千、何万と重なり合う事によって白くなり奥行きが生まれる様に、単体では透明なストローを使って、同じような自然現象を創り出しました。

    —かねてから実験や研究をデザインに生かすアプローチを取っている姿が印象的です。パンの焼成にヒントを得た「PANE (パーネ) chair」もそうでした。

    つくり方を見つけるまでに長い時間がかかりましたが、そもそもは数年前の『ナショナルジオグラフィック』誌で「21世紀の繊維」と題した特集を読んでいたことがきっかけです。20世紀までの建築では、いかに強固にして地震に耐えられるか、または、硬くして割れないようにするかというやり方だったと思うのですが、これからの時代は繊維のような小さいものの集合体が一定の強度を持つといったことが書かれていました。

    新しい構造に対しては、きっと新しいデザインが生まれる。だから繊維が構造になった新しい椅子も生まれるのではないかと開発しました。ただ繊維でつくられているだけではなく、まったく人が想像できないような革新的な方法がないかと考え続けていました。その結果、ファッションで使われる繊維ではない素材にたどり着きました。PANE chairは、イタリアのモローゾのインスタレーションで使われて、その後は新しく「PANNA chair」というプロダクトにもなりました。

    —アートワークがそのままプロトタイプの役割を果たしているということですね。

    プロトタイプをつくっている意識はなく、実験と検証を重ねることによって歴史に残るようなものをつくりたいという思いがあります。基本的に、新しい実験からいろいろ始まっていく。本当に新しいものをつくるにはいろんな研究をしていかなくてはいけなく、それは1年とか2年ではできないことだと考えています。実験と検証を重ね、サンプルをつくる過程で何か発見をしたり、いいアイデアが途中で浮かんだりする。そうすることで、スケッチでは描けないようなものを見つけていけると思います。

    Hermès (エルメス) のウィンドウデザインでは、風だけでスカーフの美しさを表現しました。スカ−フ本来の美しさ。日々の生活の中で自然に生まれる、風による動きが取り入れられたこのデザインでは、目には見えない人の存在を感じることのできる、スカーフと人との関わりが映し出されています。映像の中の女性が「ふうっ」と吹きかける吐息が、まるでスカーフにあたり、 ひらりと宙に舞う空気の動きや見えない風そのものを表現しました。

    SWAROVSKI (スワロフスキー) の空間デザインを手がけたスイスのバーゼルワールドでは、水の波紋を無数のクリスタルを動かして表現しました。これは、SWAROVSKI ならではのファセット (切り子面) を象徴するような、60ミリのミラー付きリフレクター25万3,231個から構成されています。そこに2万2,856個のLEDをつけたスパークルウオールを生み出しました。大きな曲線とダイナミックな輝きの空間を創り出し、輝きの中に人が包まれる事で、まるでクリスタルの輝きの中に入るような “光そのもの” を体感し、SWAROVSKI の『輝きの世界』とその美しさの追求を表現しました。その時代を象徴し、そのブランドのフィロソフィーを強く象徴するような作品。そうした表現を、独自の表現で生み出し、よりアイコニックなものをつくりたいという思いがあります。

    —あらためて、吉岡さんにとっての「光」とは何でしょうか。

    テーマにしている光というのは、太陽の光のことです。太陽の光は生命の源であり、たくさんの色が集結して光となる、すごく神秘的な存在です。なぜ、人間が光に対して反応するのかは説明ができないのですが、人の心や感覚に響く何かがきっとあると思います。そういうものを素材にした表現をしたいという想いがあります。

    —光はすごく神秘的で根源的なものであると。

    光のような形のないものだけではなく、人間の感覚……いや、感覚という言葉さえも超えた「何か」を表現したいと考えています。例えば、Hermès のウィンドウも風だけでスカーフを表現しました。私は「自然と人間の関係性」に着目し、なかでも光がもたらす感覚を追求し、研究を重ねてきました。太陽の光、月の光、そして水面の輝き。自然の力には、時代を超える美しさと、決して解明することのできない神秘的なエネルギーがあるのではないかと思います。自然の光からは、白く透明でありながらも、無限の色が重なることで生み出される神秘的な感覚を感じることができます。そして、そのプロセスの中で完成した光の姿が予測できないところと、自然の持つ偶然性の美しさを独自の手法で作品を表現しています。

    —吉岡さんの作品には直接的な「和」の要素は盛り込まれないものの、どこか「日本的なもの」を感じさせるという海外での評価を耳にしますが、それは意識されていますか?

    日本人の自然観には、自然の中に生命や神秘をみる感覚があり、それはオーラのようなエネルギーを感じることから始まります。このように本質的な自然美の認識と独自の解釈は、日本古来から受け継がれるものだと思うのです。私は独自の手法で表現する作品を通して、自然と共に生み出される時間を知覚化することで人間が物質的なものから解放され、同時に自然と一体化することで私たちの感覚の中に存在する日本文化の本質を見ることができればと考えています。

    <プロフィール>
    吉岡徳仁(よしおか とくじん)
    1967年佐賀県生まれ。1986年に桑沢デザイン研究所を卒業後、プロダクトデザイナーの倉俣史朗氏とファッションデザイナーの三宅一生氏のもとでデザインを学ぶ。2000年に吉岡徳仁デザイン事務所を設立。グローバル企業のデザインを数多く手がけ、Issey Miyakeをはじめ、Cartier、Swarovski、Louis Vuitton、Hermès、Toyotaなどとコラボレーションしている。ミラノサローネ国際家具見本市では、Kartell、Moroso、Glas Italia、Driadeなどの家具ブランドと新作を発表してきた。Design Miami “Designer of the Year”、Elle Deco “International Design Awards Designer of the Year”、“Milano Design Award”ほか受賞多数。作品はニューヨーク近代美術館 (MoMA) やポンピドゥーセンター、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館 (V&A) など、世界の主要美術館に永久所蔵されている。米Newsweek誌による「世界が尊敬する日本人100人」に選出。

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