吉野弘

母は
舟の一族だろうか。
こころもち傾いているのは
どんな荷物を
積みすぎているせいか。

幸いの中の人知れぬ辛さ
そして時に
辛さを忘れている幸い。
何が満たされて幸いになり
何が足らなくて辛いのか。

舞という字は
無に似ている。
舞の織りなすくさぐさの仮象
刻々 無のなかに流れ去り
しかし 幻を置いてゆく。

――かさねて
舞という字は
無に似ている。
舞の姿の多様な変幻
その内側に保たれる軽やかな無心
舞と同じ動きの。

器の中の
哭。
割れる器の嘆声か
人という字の器のもろさを
哭く声か。

This entry was posted in poem. Bookmark the permalink.

3 Responses to 吉野弘

  1. shinichi says:

    漢字喜遊曲

    by 吉野弘

  2. shinichi says:

    雪のように

    by 吉野弘

    ひとは皆、他とは違った生き方を好む。
    雪が六角形の枠のなかでさえ
    模様の、多少の変化をきそうように。

    ひとは皆、同じ生き方をしている。
    雪が自分以外の色に超然としているようで
    実は、他の意見にやすやすと染まるように。

    ひとは皆、同じ生き方をしている。
    雪のように
    自分に暖かくすることができなくて
    自分に冷たく当たる以外、凝縮できなくて。

    ひとは皆、同じ生き方をしている。
    ただよう雪のように
    落下しているのに飛翔していると信じて。

  3. shinichi says:

    生命は

    by 吉野弘

    http://www.kushima.org/is/?p=43564

    **

    漢字喜遊曲
    雪のように

    by 吉野弘

    http://www.kushima.org/is/?p=55168

    **

    祝婚歌
    夕焼け
    奈々子に

    by 吉野弘

    http://www.kushima.org/is/?p=55309

Leave a Reply

Your email address will not be published.