小澤俊夫

まず、昔話とはなんでしょうか。昔話は「口で語られて耳で聞かれた文芸」です。耳で聞き終わったら消えちゃう。それが、目で読む文学ともっとも違うところです。だから、昔話の語り口は「シンプル」で「クリア」でなければならない。
もうひとつ大事なことは、聞いているほうがはっきり聞き取れるよう、言葉を繰り返すときには同じ言葉で語る。そのような「かたち」があるんです。
では、昔話を語るうえでいちばん大切なことはなんだと思いますか? それは、大人が子どもの耳に「生の声」で聞かせることです。目で読む文学、たとえば絵本のようなものが登場したのは、ごくごく最近。絵巻物のようなものがあったかもしれませんが、それはお金持ちだけのもので、大多数の人たちは、子どもを膝に乗せて昔話を語った。うんと身近なところでしゃべるから、子どもたちは体温や呼吸を感じる。その距離で接しているから、自分が相手にされている、愛されているということがいつの間にか実感できる。
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昔話が残酷だと言われはじめたのは、だいたい1980年代。高度成長の時代です。高度成長では、生活すべてがきれいになったでしょう、家も服装も全部。文明っていうのは、生活環境を自然から隔離することだよね。そのときに気がついてみたら、昔話が残酷だと言われはじめていたんです。
高度成長に生まれてきた人たちが貧困を知らない、それはいいことなんですよ。だから、昔話がそれを教えてくれている。元来、日本人の生活は、自然と密着した生活をしていたんだということを。それを大事にしないと、日本人は根無し草になってしまう。

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2 Responses to 小澤俊夫

  1. shinichi says:

    昔話は自然と人間のつながりを感じさせてくれるもの
    小澤俊夫さんインタビュー

    by Keiko Kamijo

    http://www.mammothschool.com/2011/09/interview-toshio-ozawa/

    本、ましてや文字を紙に書くことよりも古くから世界各地に伝わってきた昔話の数々。口で語られて耳で聞かれ、何百年と伝えられてきた昔話は、現代を生きる私たちにとって本当に大切なことを教えてくれます。ドイツのメルヒェンと呼ばれる口承による文芸や、日本の昔話を研究している文学者の小澤俊夫先生に、昔話の魅力についてうかがいました。

    – 僕は昔話が大好きです。そう言っても、この冊子を手に取る若いお父さん、お母さん方は首をかしげるかもしれません。おそらく、皆さんのなかで子どものころに、おじいちゃんやおばあちゃんの膝の上で昔話を聞いたなんて体験をしている人はほとんどいないでしょうから。僕がどうして昔話が好きなのか、昔話にはどんなメッセージが込められているのかをお伝えしたいと思います。

    まず、昔話とはなんでしょうか。昔話は「口で語られて耳で聞かれた文芸」です。耳で聞き終わったら消えちゃう。それが、目で読む文学ともっとも違うところです。だから、昔話の語り口は「シンプル」で「クリア」でなければならない。

    もうひとつ大事なことは、聞いているほうがはっきり聞き取れるよう、言葉を繰り返すときには同じ言葉で語る。そのように、口で語られて耳で聞かれた文芸としての「かたち」があるんです。それを僕は研究しています。

    では、昔話を語るうえでいちばん大切なことはなんだと思いますか? それは、大人が子どもの耳に「生の声」で聞かせることです。なぜかというと、人類の歴史のなかで、目で読む文学、たとえば絵本のようなものが登場したのは、ごくごく最近。中世には絵巻物のようなものがあったかもしれませんが、それはお金持ちだけのもので、大多数の田舎の家の人たちは、囲炉裏端でおじいちゃんやおばあちゃんが子どもを膝に乗せて昔話を語った。それで子どもたちは育ってきたわけです。膝の上で、うんと身近なところでしゃべるから、子どもたちは語り手の体温や呼吸を感じる。その距離で接しているから、本当に自分が相手にされている、愛されているということがいつの間にか実感できる。そこが大事だよね。

    昔話に、耳で聞く文芸としての「かたち」があるのは、絵本や本ができるよりも何百年も前から、子どもに聞かせ、口で伝えたためです。紙に残しておいて目で読むのではなく、耳で聞いて受け継いでいくために、文章は必然と簡単でシンプルになり、文章自体も話の内容も磨かれていきました。だから、昔話の文章は美しい、と僕は思います。

    では、何百年も口で伝えられてきた昔話は、私たちになにを伝えているのでしょうか。日本では、昔話っていうと道徳教訓の話ですねって言われるんだけど、じつは日本の昔話全体から見たらそれは多数派じゃありません。日本の昔話はだいたい1,000種類といわれていますが、そのなかで道徳教訓の話は13種類くらいしかない。勤勉正直っていうことが教訓にいいから、という理由で明治以降たびたび教科書に出たり絵本になった、それだけなんです。でもさ、人間、一生勤勉正直ってわけにはいかないよね。たまには怠けたり嘘ついたりするでしょう。いろんな面がある。だから昔話っていうのは、じつは「人間のいろんな面、全部の面」を語ってるんだよね。僕はむしろそっちのほうが好きです。

    よく例に出すのがグリム童話の「ヘンゼルとグレーテル」です。グレーテルって女の子は、はじめはとっても泣き虫なんですよ。でも最後、お兄ちゃんが馬小屋に閉じこめられて、グレーテルが魔女に「このパン焼き釜が充分熱くなっているか見てこい」って言われたときにパッとひらめいて「わたしどうやったらいいかわからないわ、やってみせてちょうだい」って、ぼーんと魔女をパン焼き釜に突っこむ。そのときのグレーテルは泣き虫じゃない、決然としているよね。あれは変化、成長なんだよね。昔話っていうのは、主人公の変化を語っているんです。実人生での変化っていうのはゆっくりとしたものだから、毎日一緒に暮らしている大人にはわからないことが多い。でも昔話では、短いストーリーで、ふだん大人が気がつかない変化をはっきりと語ってくれる。昔話は、子どもや若者が主人公の場合は、変化しながら成長する姿を語る。老人ばっかり出てくる話は変化がない、悪い人は最後まで悪い人なんです。

    語る昔話を選ぶときには、子どもや大人が成長する姿を語るのがいいよね。なかでも僕がいちばん好きなのが「寝太郎」。ちっとも働かないで寝てばっかりいる男が、あるときふっと起きあがって、悪知恵を働かせて隣の長者の一人娘と結婚する。こりゃ悪い話だよ、長者をだましたんだから(笑)。でもね、人間生きていたらそういう悪知恵が働くときだってあるじゃない。悪知恵も知恵のうちと考えればいいんです。この話から大事なメッセージが受け取れる。ひとつは、寝太郎は一生寝ていたわけではないっていうこと。寝てたのは若いうちだけで、途中で起きた。もうひとつは、人は誰でもよく寝たあとでないとよい知恵が出ないということ。僕はそのふたつとも、誰の人生にも当てはまると思います。若い時期はみんな眠いよね、あれは特権だよ。でも、その子たちが30〜40歳になっても寝てるかっていったら、そうじゃないでしょう。あれは変化だよね。それを語っているんだと思う。若いときに少し悪いことしたって、時間が経てばふつうになるぜって。それが昔話なんだよね。

    ところがいまの若い親たちが、おじいちゃんやおばあちゃんの話を聞いてないし、自分がどういう子どもだったかを聞かせてくれる人がいない。だからちょっと悪いことをするとすごく心配になる。また、おかしな教育書がいっぱい出ていて、何歳になったら○○であるべき、なんて書いてある。それと自分の子どもを比べてちょっと違うと慌ててしまう。子どもなんてね、一冊の本で書けるようなもんじゃないんです。そういうときはほかの子どもと比べるんじゃなくて、昔話を読むと安心しますよ。昔話は「大丈夫だ、みんなふつうになるよ」というゆったりした人生観、ゆったりした子ども観をもっている。だから、僕は昔話が好きなんです、僕の人生観にもよく合っている。

    僕は昔話の勉強を始めて60年になるんだけど、最近になってよく「昔話は残酷なんじゃないか」という意見を耳にします。これはちょっと根深い問題です。というのも、昔話が残酷だと言われはじめたのは、だいたい1980年代。高度成長の時代です。高度成長では、生活すべてがきれいになったでしょう、家も服装も全部。文明っていうのは、生活環境を自然から隔離することだよね。そのときに気がついてみたら、昔話が残酷だと言われはじめていたんです。

    高度成長に生まれてきた人たちが貧困を知らない、それはいいことなんですよ。だから、昔話がそれを教えてくれているんです。元来、日本人の生活は、自然と密着した生活をしていたんだということを。それを大事にしないと、日本人は根無し草になってしまうよ。

    自然と生活の隔離ということでいくと、原発のいちばんの問題は、それだよね。廃棄物が自然に戻らないってどういうことだと。自然に戻らないものはダメなの、やっちゃいけない。

    文明が発達した世の中だからこそ、自然とのバランスをとるものとして昔話が大事なんです。そういうことを親が知って、子どもにいろんな世界を見せてあげるということが大切だと思います。

    昔話に興味をもたれた方は、ぜひ語ってください。昔話は何歳から聞かせられますか、とよく訊かれますが、早くても4〜5歳くらいからがよいでしょうね。0歳~3歳くらいの小さい子に聞かせようとしても、わからないよね。言葉がわからない子どもには、手遊びとわらべうた、あとは絵本がいいと思う。絵本も「聞く」ものだよね、見るものじゃない。絵を見ながら聞くものですからね。昔話は、その研ぎ澄まされたシンプルでクリアな語り口から、ゆったりとした子ども観で、人間のいろんな部分を見せてくれて、自然と人間のつながりを感じさせてくれるものです。だから、僕は60年研究していても飽きない、昔話が大好きなんです。

     

  2. shinichi says:

    小澤俊夫
    1930年、中国長春生まれ。小澤昔ばなし研究所所長。口承文芸学者。グリム童話の研究から出発し、マックス・リュティの口承文芸理論を日本に紹介。その後、日本の昔話の分析的研究をおこない、昔話全般の研究を進めている。

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    小澤昔ばなし研究所
    http://www.ozawa-folktale.com

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