泉鏡花

「あい、」
 とわずかに身を起すと、紫の襟を噛むように――ふっくりしたのが、あわれに窶れた――頤深く、恥かしそうに、内懐を覗いたが、膚身に着けたと思わるる、……胸やや白き衣紋を透かして、濃い紫の細い包、袱紗の縮緬が飜然と飜えると、燭台に照って、颯と輝く、銀の地の、ああ、白魚の指に重そうな、一本の舞扇。
 晃然とあるのを押頂くよう、前髪を掛けて、扇をその、玉簪のごとく額に当てたを、そのまま折目高にきりきりと、月の出汐の波の影、静かに照々と開くとともに、顔を隠して、反らした指のみ、両方親骨にちらりと白い。

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