宮嶋加菜子

その年の秋、孫さんはツイてなかった。
10月。銭湯に行こうと狭い路地を歩いていたら、蛇行運転してきた車にぶつかり、病院へ。車は逃げ、治療費を支払う羽目に。退院後、さらにバイトを増やした。
11月。料亭でのバイト中に腹が痛み出した。病院に行く金はない。我慢して働いた。次の日、アパートで動けなくなり、病院に運ばれ、腹膜炎で緊急手術を受けた。
病院食は少なくて、満たされなかった。なにより、異国の地で一人過ごす病室の夜は寂しかった。
そんな時、写真現像店の女性が、温かいうどんの丼を手に来てくれた。
「私にも孫さんと同じくらいの息子がいてね。シルクロードの文化が大好きで、夏休みに敦煌に行きました。中国で息子が困ったとき、親切な中国の人に会えたらいいな。そう思っていたんです」
当時は日本語がうまく話せず、「ありがとう」としか言えなかった。
その後、名古屋の大学院に進学。上海に戻って会社を起こした。
池袋にあった写真現像店は、いまはない。女性の名前は、たしか「木村さん」。でも、自信が持てない。だから、メッセージにはこう書いている。
《○村さん、あの時のうどんの味があったから、日本でも上海でも頑張れました。会って、ちゃんとお礼が言いたいです》

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One Response to 宮嶋加菜子

  1. shinichi says:

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    うどん届けてくれたあなた、どこにいますか会いたいです

    by 宮嶋加菜子

    https://www.asahi.com/articles/ASL7R66NHL7RUHBI028.html

     《28年前の秋、東京・上池袋の病院に入院していた僕に、一杯の温かいうどんを届けてくれたあなた。今、どこにいますか? 会いたいです》

     中国・上海で会社を経営する孫立平(スンリーピン)さん(55)は、スマートフォンで日本の友人たちに、そんなメッセージを送っている。拡散してもらい、一人の女性に届くことを願って。

     1990年春、孫さんは上海から東京にやってきた。27歳。大学卒業後に6年続けた仕事を辞め、日本の大学院で学びたい、と夢みていた。

     通い始めた日本語学校の学費、風呂なし6畳一間のアパートの家賃……。仕送りはない。授業が終わるとアルバイト。そんな日々が始まった。

     女性と出会ったのは、バイト先の写真現像店だった。年は50歳くらい。パートで週に1、2回、自転車で店にやって来た。笑顔が穏やかで、旅行土産のお菓子をよくもらった。


     その年の秋、孫さんはツイてなかった。

     10月。銭湯に行こうと狭い路地を歩いていたら、蛇行運転してきた車にぶつかり、病院へ。車は逃げ、治療費を支払う羽目に。退院後、さらにバイトを増やした。

     11月。料亭でのバイト中に腹が痛み出した。病院に行く金はない。我慢して働いた。次の日、アパートで動けなくなり、病院に運ばれ、腹膜炎で緊急手術を受けた。

     病院食は少なくて、満たされなかった。なにより、異国の地で一人過ごす病室の夜は寂しかった。

     そんな時、写真現像店の女性が、温かいうどんの丼を手に来てくれた。

     「私にも孫さんと同じくらいの息子がいてね。シルクロードの文化が大好きで、夏休みに敦煌に行きました。中国で息子が困ったとき、親切な中国の人に会えたらいいな。そう思っていたんです」

     当時は日本語がうまく話せず、「ありがとう」としか言えなかった。

     その後、名古屋の大学院に進学。上海に戻って会社を起こした。

     池袋にあった写真現像店は、いまはない。女性の名前は、たしか「木村さん」。でも、自信が持てない。だから、メッセージにはこう書いている。

     《○村さん、あの時のうどんの味があったから、日本でも上海でも頑張れました。会って、ちゃんとお礼が言いたいです》

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    うどん届けたのは私 孫さん、捜してくれてありがとう

    by 山本亮介

    朝日新聞

    https://www.asahi.com/articles/ASL836GK3L83UTIL04C.html

     7月29日の朝。女性(79)が朝食の後片付けを終えたとき、居間の電話が鳴った。

     写真サークルの友人から。少し早口で、こう言われた。

     「孫さんという中国人の男性が、かつて一緒に働いていた女性を捜しているようなの。これって、あなたのことじゃないかしら?」

    《一杯の温かいうどんを届けてくれたあなた。今、どこにいますか?》朝日新聞に掲載された記事です。

     中国人……。

     孫さん……。

     メガネをかけた青年のやさしい表情が、パッと頭に浮かんだ。


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    うどんのあなた、会いにきました 思っていた姿がそこに

    by 山本亮介

    https://www.asahi.com/articles/ASL973SD3L97UTIL014.html

     中国・上海で会社を経営する孫立平(スンリーピン)さん(55)は6日朝、東京・羽田空港に着いた。


     電車に乗り換え、目的地へ。最寄り駅に近付くと、胸が高鳴った。なにせ、会うのは28年ぶり。駅からは、自然と早足になった。

     郊外の住宅地。角を曲がると、玄関先で、到着を待つ女性(79)の姿が目に入った。

     駆け寄り、両手で女性の右手を包み込み、頭を下げた。

     「ずっと頭の中で思っていた通りの姿です。ありがとう、ありがとう」

     そう話す孫さんに、女性も目を細めた。

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