天羽優子

「水クラスターが小さい・浸透圧増加・細胞を活き活き・体にいい」などという宣伝を大まじめにやっている業者は、高校の理科の知識すら怪しいことになる。そんな知識しかない業者が作って販売している製品に、あなたはお金を払いますか? その製品を本当に信用できますか? 業者はたまたま(わざわざ宣伝文句に取り入れている)浸透圧について全く無知なだけで、他の水処理技術については高度な知識と技術を持っていると・・・・期待できるでしょうか?

どうも、現実は、業者やマスコミの科学知識のレベルの方もさんざんなので、変な話を変だと見抜くための「使える科学」を身につけると、お金の面でも心の面でもかなり得をする。信用のできない業者のトンデモ理論を信じて高額の浄水器や活水器を買わされなくてすむし、マスコミが並べ立てる話に一喜一憂して商品を買いに走ったりあるいは買うのを止めたりしなくてもよくなる。また、根拠のない宣伝や報道を信じて友人知人に触れ回った挙げ句、実は相手をかついでいた、などということも避けられる。

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One Response to 天羽優子

  1. shinichi says:

    科学を知っていると得だ-騙し、騙されないために

    天羽優子

    http://www.cml-office.org/atom11archive/water/text01/sec0-2.html

     どうも、学年が上がると共に、理科嫌いが増えるらしい。数式や化学式が出てくる割合が増えるから、習得するのに時間も手間もかかることと、そんなことを知っていたからといって試験が終わればもう2度と使うことのない知識だと思ってしまうことがその理由ではないだろうか。

     実は、科学を知っていると、学校が終わって世の中に出たときに得をすることがたくさんある。英会話ができなくても日本じゃ困らないが、科学は知らないと確実に損をする。というのは、前節で書いたように、我々が日常目にする宣伝やマスコミからの情報には、あまりに嘘・不正確・誇張が多過ぎるからだ。

     誰だって、他人に騙されて余分な出費をしたり行動を変えたりはしたくないし、他人を騙してそうさせたいとも思わないだろう。いや、世の中には悪徳商法や詐欺が一定数はあるので、全部がそうとは言わないけれど、普通に生活している「善良な市民・消費者」は、騙したり騙されたりするのまっぴらなはずだ。そうであれば、科学を日常の生活でもっと活用した方がいい。科学を知らずに、マスコミの流す情報や企業の宣伝を鵜呑みにすると、見事に騙されることになる。それを友人知人に教えたり、商品を進めたりすると、今度は相手を騙すことになる。一見耳ざわりがよくてわかったつもりになれるTV番組や宣伝に対して、「どこまで本当なの?」と疑問を持って冷静に判断するには、科学を使うのが有効である。

     「使うための科学」は、学校で習う理科の内容に基づいてはいるが、目標が異なる。まず、公式や化学式のこまかいところを覚える必要はまったくない。試験で点をとるために必要だった、練習問題を解くことも不要である。うろ覚えの知識は却って判断を間違えるもとになる。そのかわり、どんなことが教科書に書いてあったか調べるためのキーワードをいくつか覚えておくことと、出てきた話が何に関連するものだったかを常識として知っておくと言うことだ。あとは、その都度、正確な意味を教科書や参考書で確認するという手間を少しかけるだけである。

     浸透圧を例にとって考えよう。水関係の宣伝では、「ある水処理をすると水分子のクラスターが小さくなり、浸透圧が上がって吸収されやすい水になり、肌や細胞を活き活きさせるし体にいい」という説明が頻繁に出てくる。これをそのまま信じていいのか?というのが問題である。高校までの知識では、水分子のクラスターについて考えるにはちょっと進んだ調べと考察が必要になるが、浸透圧であれば、化学と生物の両方の教科書に書いてある。例えば、以下のような図が出ている(今回これを書くために、私は数研出版の高校生向け参考書「視覚でとらえるフォトサイエンス生物図録」で確認した)。



     セロハンなどの、水分子は通すが溶質(赤丸で表現)は透過できない膜(点線で表示)をはさんで、片方に溶液、片方に水を入れると、溶媒である水が膜を通って移動し、溶質のとけている方の液面が上昇する。これを同じ高さにするには、おもりが必要で、このおもりによる圧力(↓)が浸透圧(←)に等しい。細胞膜も、このセロハンと同じ性質を持っているから、同じ現象は細胞でも起きる。動物細胞の場合はヒトの赤血球の例が有名で、これもたいていの教科書や参考書に出ている。赤血球をいろんな濃度の食塩水に入れると、食塩水の濃度が濃ければ赤血球の中から水が出てしまって赤血球はしぼんでしまう。ちょうどいい濃度だと見かけ上変化がない。うんと薄い濃度の食塩水だと、今度は赤血球に水が入りこむから赤血球はふくらみ、細胞膜が破れて溶血してしまう。細胞にはちょうどいい浸透圧というものがある、ということだから、「浸透圧が高い=細胞を活き活き」はとんでもない嘘だということがわかる。

     もう少し詳しく調べると、浸透圧の大きさを決める公式が見つかるだろう。ファント・ホッフの公式というのがあって、溶液の浸透圧(気圧)P=RCT、と書ける。Rは気体定数で0.082、Cは溶液のモル濃度、Tは絶対温度(K)である。受験勉強だと、この式を覚えて、ある条件の溶液での浸透圧はいくらか、とか、浸透圧を合わせるにはどういう溶液を作ればよいか、といった練習問題をやることになるのだが、「使うための科学」ではそんなことはできなくてもかまわない。そのかわり、浸透圧は温度と濃度で決まる、ということだけしっかり理解しよう。すると、水クラスターについてまったく判断ができなかったとしても、クラスターが小さくなることと浸透圧が変わることの間に何の関係もないという結論がすぐに出る。もし、「水クラスターが小さく」なっていたとしても、溶媒である水の分子数と溶質分子の数が変わらなければ、濃度が同じだから浸透圧は同じになるはずだ。ここでも宣伝は嘘をついている。

     さらに考えを進めてみる。我々は、いろんな食物や飲料を摂っているが、これらの浸透圧はまちまちだろう。水を沢山飲んだり、塩辛いものを食べたりするのだから、赤血球にとって最適な浸透圧とは言い難い。でも、実際に体の中では、赤血球も他の細胞も、ふくらんで壊れたりしぼんでしまったりしないで、ちゃんと働いている。ということは、吸収するときに、食物の浸透圧が細胞や血液と違っていても、それをうまく調節するメカニズムがあるということになる。吸収だけでなく、水分や塩分の排泄でもうまく調節されているだろう。そのメカニズムが動いていることが、すなわち生きているということなのだ。生物学の言葉では「恒常性の維持」という。条件が変わっても血液や細胞の状態を一定にしようと制御するはたらきのことをこう呼ぶ。だとすると、このメカニズムがそんなにがんばらなくてもいいのは、細胞や血液と同じ浸透圧のものを飲んだときだろう。もし、普通の水よりさらに浸透圧が上がって吸収がいい水を飲んだら、普段よりがんばって調節しないといけなくなって、体の負担は却って増えてしまうだろう。だから、「吸収のいい水=体にいい」も真っ赤な嘘ということになる。

     さらに不思議なのは、「水クラスターが小さくなって浸透圧が・・・」という宣伝をしていながら、浸透圧の測定をやった結果を出している業者を見たことがないということだ。そのかわり、植物を育てた結果を比較した写真なら出ている。どうして浸透圧を直接測定しないのだろうか。その方がずっと簡単に主張を裏付けることができる。まさかと思うが、「浸透圧は直接測定できなくて、植物を育てて間接的に調べるしかない」と思いこんでいるのだろうか?この点も疑うポイントになる。ひょっとして、浸透圧云々は全くの出まかせじゃないのか?と。

     さて、ここで読者にききたい。この例に挙げたような宣伝をしている浄水器や活水器の業者はたくさんあって、数万円から数十万円の値段で販売しているが、あなたはその製品を買いますか?浄水器や活水器の開発には、高校の理科の知識はもちろん、もっと専門的な分析や反応の知識が必要なはずだ。「水クラスターが小さい・浸透圧増加・細胞を活き活き・体にいい」などという宣伝を大まじめにやっている業者は、高校の理科の知識すら怪しいことになる。そんな知識しかない業者が作って販売している製品に、あなたはお金を払いますか?その製品を本当に信用できますか?業者はたまたま(わざわざ宣伝文句に取り入れている)浸透圧について全く無知なだけで、他の水処理技術については高度な知識と技術を持っていると・・・・期待できるでしょうか?

     多分、本当の問題は、理科の知識があまりにも定着していないというところにある。理系も文系も、進学する人もそうでない人も、将来科学・技術に携わる人も、卒業したら最後理科のことなど忘却の彼方だという人も、みんな同じように教科書を使って練習問題を解かされている。科学者や技術者になるための訓練を全員がさせられている面があると思う。卒業後に科学知識が必要でない人は、何のためにこんなわけのわからない練習問題に時間を費やさなくてはならないのか、退屈で苦痛なのではないだろうか。公式が出てくる過程を押さえて計算で結果を出すという技術は、それが必要な人とそうでない人がいる。そうでない人から、(多分試験が終わった後では)科学的な考え方や話題そのものが抜けてしまっていることが問題なのだ。高校進学率が100%に近い現在、上記のような高校生物の知識が欠落した宣伝が堂々とまかり通っていることは、理科教育の失敗を意味するわけで、実はかなり異常で深刻な事態である。

     どうも、現実は、業者やマスコミの科学知識のレベルの方もさんざんなので、変な話を変だと見抜くための「使える科学」を身につけると、お金の面でも心の面でもかなり得をする。信用のできない業者のトンデモ理論を信じて高額の浄水器や活水器を買わされなくてすむし、マスコミが並べ立てる話に一喜一憂して商品を買いに走ったりあるいは買うのを止めたりしなくてもよくなる。また、根拠のない宣伝や報道を信じて友人知人に触れ回った挙げ句、実は相手をかついでいた、などということも避けられる。

     このコンテンツでは、「使える科学」に関する解説を、特に水をテーマとして作ってみたい。話題は主に、高校までの理科の復習である。目標は「使える科学」を習得した読者が、自分で「水商売ウォッチング」のコメントを書けるようになる、ということだ。だから、理科の全てを網羅するつもりはないし、場合によっては進んだ内容にも踏み込む。

     「使える科学」とは、

    • 数式や化学式は出てくるが、暗記はしなくていい
    • 概念の背景や相互の関連をつかむことが大事
    • 決められた時間で問題を解くような、時間制限は一切無し。じっくり考えよう
    • マスコミや宣伝に登場する「科学っぽい」説明の真偽について考えるのが演習問題

    というものである。どうやって日常生活において科学を使って判断するか、ということを習得するのが目標になる。試験で赤点をとらないためとか、試験が終わったら忘れていいとか、そういうものではない。テレビを見ながら、広告を見ながら、普段の生活で使えるものだ。

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