串間充崇

イエバエからは植物用の肥料と動物用の飼料を製造することができます。イエバエの幼虫の排泄物をペレット化したものが肥料に、幼虫を乾燥させたものが動物性タンパク質飼料になります。この肥料や飼料の効果は、わかりやすくいえば栄養が豊富なこと。例えばイエバエでつくった餌を食べた魚は、通常の餌で育てるより約4割も大きく育ちます。つまり、餌の量を半分くらいに減らしても、いままでと同じ大きさの食用魚を提供できるわけです。また、最高級飼料よりも魚たちが好んで食べてくれます。肥料には、農作物の収穫量を増やすほか、病原菌を抑制してくれる働きがあります。
さらに注目すべきは、「食料残渣(食品製造や外食産業でうまれる余剰物)」と「畜糞(家畜の排泄物)」を処理できることです。いまは食料残渣の多くが焼却処理されるほか、畜糞は日本だけでも年間8,000万トンが排出されており、現在は広大な土地で2〜3カ月かけて微生物によって分解されています。しかもこの処理でメタンガスなどの有害な発酵ガスが発生します。ところがイエバエの幼虫は、これらを食べてくれます。彼らは畜糞の窒素分を吸収し、消化酵素がかかった土は肥料に変換し、そのあと土から出た幼虫は乾燥して飼料にします。つまり、これまで処理にコストがかかっていた廃棄物が原料になるため、お金をもらいながらイエバエを育てることができる。無から有をつくるのではなく、マイナスだったものからプラスを生み出すことができるんです。
これにより、化学物質に頼らなくても、これまで不要とされてきた畜糞で動物や植物を育てることができる。イエバエの技術をうまく利用できれば、完全に自然な食物連鎖での食糧生産も実現するはずです。

2 thoughts on “串間充崇

  1. shinichi Post author

    「全てをハエに賭けた」日本の企業が挑む世界のタンパク質危機

    by 野口 直希

    https://forbesjapan.com/articles/detail/23455/1/1/1

    ハエで世界を救おうとしている企業がある。

    研究を始めてから45年、1100世代も交配を重ねたイエバエを売る「ムスカ」が注目を集めている。(ちなみに社名はイエバエの学名「ムスカ・ドメスティカ」に由来)。

    彼が作るのは、動物の「飼料」や植物の「有機肥料」。これらを摂取した動植物は通常に比べて病気に強く、また大きく育つのだという。

    だが、イエバエの価値はそれに留まらない。代表取締役会長の串間充崇は、「イエバエは人類を脅威から救う欠かせない資産だ」と語る。

    彼がここまでイエバエに賭ける訳とは。そして人類を脅かす脅威とは。ムスカ代表取締役会長の串間充崇と、代表取締役暫定CEOの流郷綾乃に聞いた。

    起源はソビエトの宇宙開発。「化学物質ゼロ」の食物連鎖を目指して

    ──ムスカでは45年間かけて1100世代の品種改良したそうですが、壮大な事業はどのような経緯で始まったのでしょうか。

    流郷:もともとは、1970年ごろに旧ソ連で開発された有人宇宙飛行技術だったんです。当時は冷戦下でアメリカとソ連の間で宇宙開発の競争が起こっていました。

    数年にもわたる往復の食料や水はかなり場所を取るため、宇宙開発では宇宙船の省スペース・軽量化が重要です。宇宙船の中で食料の培養リサイクルシステムを確立することで、この問題を解決しようとしたんです。

    ですが、船内で卵を産ませて飼育するはずが、飼育密度を高めたらストレスで卵を産まなくなった。そこでストレス耐性の高いハエ同士を交配させ、宇宙に近い空間でも産卵できる種を生み出したそうです。

    しかし宇宙事業は頓挫し、ソ連自体が解体してしまいました。結局、ムスカの前身となる会社の代表が、ソ連の科学者からこの技術を買い取ったんです。

    ──こんな技術を買い取って、何をしたかったんでしょう?

    流郷:食物連鎖の中に化学物質が一切混ざらない、完全循環のリサイクル農園型街作りです。化学物質が必ずしも人体に悪いとは思っていませんが、化学物質ゼロの食材が選択肢にあってもいいと思うんですよ。実現のための重要なのが、良い飼料と肥料だったんです。

    そうこうしているうちに、世間では環境問題や廃棄物への関心が集まってきた。後で詳しく説明しますが、ムスカの事業は廃棄物問題にも有効なんです。

    4年前には事業化に必要な研究開発が完了し、2016年に事業目的の企業としてムスカを立ち上げました。

    ──事業化までにかなりの時間がかかったのは、なぜでしょうか。

    流郷:技術開発はたしかに大変なのですが、実はそれまでも大手商社やメーカーからは何度か依頼がきていたんです。ですが、概要を説明すると担当者様はかなり喜んでくれるのに、一度本社に持ち帰って上司に相談すると、「やっぱりナシで」と断られる。どうやらハエを使うというのが、ブランドイメージに良くないと思われたらしくて。

    また、イエバエを維持するだけでも莫大なコストがかかります。買い手がつくまでは僕が自費で負担していたこともあって、ハエのために車を売り、多くの借金を抱えることになりました。

    ──まさに全てをハエに賭けていますね……。

    串間:はい(笑)。すでに人間は、菌類を含めた様々な生物を利用していますが、まだほとんど活用されていないのが昆虫です。生活に身近な昆虫の技術は、せいぜい蚕(シルク)程度ですよね。

    先代は、イエバエ技術は人類の財産であり、これを絶やすのは人類に対する罪だとまで言っていました。私の代でこれを絶やすわけにはいきません。

    「ゴミ」が私たちの食べ物になる

    ──では、イエバエ技術について教えてください。

    串間:イエバエからは植物用の肥料と動物用の飼料を製造することができます。イエバエの幼虫の排泄物をペレット化したものが肥料に、幼虫を乾燥させたものが動物性タンパク質飼料になります。

    この肥料や飼料の効果は、わかりやすくいえば栄養が豊富なこと。例えばイエバエでつくった餌を食べた魚は、通常の餌で育てるより約4割も大きく育ちます。

    つまり、餌の量を半分くらいに減らしても、いままでと同じ大きさの食用魚を提供できるわけです。また、最高級飼料よりも魚たちが好んで食べてくれます。肥料には、農作物の収穫量を増やすほか、病原菌を抑制してくれる働きがあります。

    ──いいことづくめですね。

    串間:さらに注目すべきは、「食料残渣(食品製造や外食産業でうまれる余剰物)」と「畜糞(家畜の排泄物)」を処理できることです。

    いまは食料残渣の多くが焼却処理されるほか、畜糞は日本だけでも年間8,000万トンが排出されており、現在は広大な土地で2〜3カ月かけて微生物によって分解されています。しかもこの処理でメタンガスなどの有害な発酵ガスが発生します。

    ところがイエバエの幼虫は、これらを食べてくれます。彼らは畜糞の窒素分を吸収し、消化酵素がかかった土は肥料に変換し、そのあと土から出た幼虫は乾燥して飼料にします。

    つまり、これまで処理にコストがかかっていた廃棄物が原料になるため、お金をもらいながらイエバエを育てることができる。無から有をつくるのではなく、マイナスだったものからプラスを生み出すことができるんです。

    これにより、化学物質に頼らなくても、これまで不要とされてきた畜糞で動物や植物を育てることができる。イエバエの技術をうまく利用できれば、完全に自然な食物連鎖での食糧生産も実現するはずです。

    将来の日本人は、外国のために肉をつくり、自分たちは東南アジアのコオロギをたべる!?

    流郷:環境問題に続いて、近年はイエバエ技術が新たなジャンルでも価値をもつことがわかってきました。タンパク質危機、あるいは魚粉危機です。これから世界では中流層以上の急激な人口増加に伴って、動物性タンパク質の供給が足りなくなるといわれています。

    中流層以上になると、穀物や植物を中心とした食事から、肉や魚を中心とした食事になるからです。

    植物性たんぱく質は品種改良などで間に合わせることはできますが、動物性タンパク質はそうはいきません。食用の肉や魚はもちろんですが、それらを育てるための飼料の生産が間に合わない。

    特に、いま飼料の中心を占めているのは魚粉です。海産物の乱獲やそれに伴う規制も増えている現状では、質の高い魚粉を安定的に確保するのは、決して簡単ではありません。

    近年、魚粉の価格はかなり高騰していますが、イエバエはそれに代わる飼料として期待されているんです。

    ──タンパク質危機といわれても、あまり実感がわきませんね。

    流郷:いま日本は人口が減少し、食料が余っているからでしょうね。ですが、将来はどうなるかわかりません。

    日本の食料自給率はカロリーベースだと40%未満。食糧生産の多くを外国に頼っている一方で、これから世界の人口は益々増えます。

    このまま日本全体が貧しくなっていけば、将来的には自国民が自国で生産した食肉を買うことができなくなるかもしれません。

    輸出のために肉を生産して、日本人は東南アジアから輸入したコオロギなどの昆虫食で動物性タンパク質を補う可能性もあるんです。

    ──私たちの子ども世代は、お肉が食べられなくなるかもしれない……。

    流郷:はい。タンパク質危機に備えて、すでに動き始めている企業はたくさんあります。例えばムスカの競合企業でミズアブの食料化を目指すカナダの「エンテラ」は、すでにマクドナルドと提携しています。

    しかし、世界中の競合と比べても食料残渣と畜糞の両方を処理できるのはムスカだけです。

    今年度末には、畜糞を1日に100トン処理できるプラントの着工に入ります。イエバエで日本の食の未来を守れるよう、さらに事業を加速させるつもりです。

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