稲垣栄洋

空が見えない最期 ── セミ
子に身を捧ぐ生涯 ── ハサミムシ
母なる川で循環していく命 ── サケ
子を想い命がけの侵入と脱出 ── アカイエカ
三億年命をつないできたつわもの ── カゲロウ
メスに食われながらも交尾をやめないオス ── カマキリ
交尾に明け暮れ、死す ── アンテキヌス
メスに寄生し、放精後はメスに吸収されるオス ── チョウチンアンコウ
生涯一度きりの交接と子への愛 ── タコ
無数の卵の死の上に在る生魚 ── マンボウ
生きていることが生きがい ── クラゲ
海と陸の危険に満ちた一生 ── ウミガメ
深海のメスのカニはなぜ冷たい海に向かったか ── イエティクラブ
太古より海底に降り注ぐプランクトンの遺骸 ── マリンスノー
餌にたどりつくまでの長く危険な道のり アリ
卵を産めなくなった女王アリの最期 ── シロアリ
戦うために生まれてきた永遠の幼虫 ── 兵隊アブラムシ
冬を前に現れ、冬とともに死す“雪虫” ── ワタアブラムシ
老化しない奇妙な生き物 ── ハダカデバネズミ
花の蜜集めは晩年に課された危険な任務 ── ミツバチ
なぜ危険を顧みず道路を横切るのか ── ヒキガエル
巣を出ることなく生涯を閉じるメス ── ミノムシ(オオミノガ)
クモの巣に餌がかかるのをただただ待つ ── ジョロウグモ
草食動物も肉食動物も最後は肉に ── シマウマとライオン
出荷までの四、五〇日間 ── ニワトリ
実験室で閉じる生涯 ── ネズミ
ヒトを必要としたオオカミの子孫の今 ── イヌ
かつては神とされた獣たちの終焉 ── ニホンオオカミ
死を悼む動物なのか ── ゾウ

4 thoughts on “稲垣栄洋

  1. shinichi Post author

    生き物の死にざま

    by 稲垣栄洋

    すべては「命のバトン」をつなぐために──

    子に身を捧げる、交尾で力尽きる、仲間の死に涙する……
    限られた命を懸命に生きる姿が胸を打つエッセイ!

    生きものたちは、晩年をどう生き、どのようにこの世を去るのだろう──
    老体に鞭打って花の蜜を集めるミツバチ、
    地面に仰向けになり空を見ることなく死んでいくセミ、
    成虫としては1時間しか生きられないカゲロウ……
    生きものたちの奮闘と哀切を描く珠玉の29話。生きものイラスト30点以上収載。
     



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  2. shinichi Post author

    稲垣栄洋「生き物の死にざま」 壮絶、孤独、子への贈り物……

    好書好日|Good Life With Books – 朝日新聞デジタル

    https://book.asahi.com/article/12787360

     生き物のものがたりを一つ読むたびに、本を置いて情景を想像してしまう。ゆったりした200ページあまりの本なのに、読み終えるまで時間がかかった。

     例えばハサミムシ。母親は産んだ卵を守り続ける。隠れている石をひっくり返すと、ハサミを振り上げて人間を威嚇することもある。そして、卵を守りぬいた母親を、孵化したばかりの幼虫たちが「貪(むさぼ)り食う」。獲物を捕らえられない幼虫が飢えないために、自分の体を差し出す壮絶な子育て。「遠ざかる意識の中で、彼女は何を思うのだろう。どんな思いで命を終えようとしているのだろうか」

     本書は、死に臨む生き物の29の話をつづっている。「死」を迎えても幼生に戻っていくことで不老不死といわれるベニクラゲが迎える不慮の死。実験室で死んでいくハツカネズミ、シロアリの女王の孤独な最期。ミツバチは、安全な巣での内勤の後、晩年になって危険な任務である花の蜜集めが課せられる。

     本書が広く読まれるのは、科学的な解説にとどまらず、生き物のありようを自分のことのように感じさせる筆運びからだろう。死にざまの多くは、子孫を残すための生きざまでもある。

     ふるさとへの苦難の旅を終えたサケ。卵を産んだ場所には、不思議とプランクトンが豊富に湧き上がるという。サケの死骸が分解されて餌になるそうだ。「親たちが子どもたちに最後に残した贈り物」。何とも無駄のない営みではないか。

     我々はそうはいかない。遺骸を余さず自然に取り込んでもらいたくても、風葬や鳥葬など望むべくもない。骨つぼのまま埋葬されたら土にもかえらない。ふと、子どものころ縁側で爪を切っていた時のことを思い出した。庭に飛んだ爪をアリが懸命に運んでいった。食べたのだろうか。少し不気味であったが、いま感じるのは体の一部が生命の循環に加わった愉快さだ。

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  3. shinichi Post author

    母なる川で循環していく命――サケ

    サケは生まれ育った川に戻り、そこで産卵すると言われている。数々の苦難を乗り越え、産卵地にようやくたどり着いた頃には、満身創痍だ。その体で繁殖を行い、繁殖が終われば川に横たわって死ぬ。

    死骸は分解されて有機物となり、プランクトンを発生させる。それが、生まれたばかりの子どもたちの餌になる。こうして命はつながっていく。

    人間はサケの敵だ。堰やダムはサケの遡上を妨害するし、人間はサケやイクラを好んで食べる。ただし絶滅させてしまっては元も子もないから、人工的に孵化(ふか)させ、生まれた稚魚を川に放流している。

    もはやサケは、自らの力で命を循環させることができなくなっているのだ。

    **

    命がけの侵入と脱出――アカイエカ

    人間の血を吸う忌々しいアカイエカ。だが蚊の視点から見てみると、彼女らは実に困難なミッションに立ち向かっていることがわかる。

    交尾後のメスは、卵のために栄養分を確保すべく、決死の覚悟で家の中に侵入する。侵入経路は限られており、網戸をかいくぐるか、人間がドアや窓を開閉したのと同時に入り込むしかない。蚊取り線香や虫よけ剤の罠をよけてこっそりと皮膚に降り立ち、2〜3分かけて血を吸う。

    血を吸いきると、体重は2倍以上に増えている。重い体を引きずってなんとか逃げなければならないが、なかなか脱出口が見えない。そうこうしているうちに人の気配を感じ、「ピシャリ」と叩かれて死んでしまう。

    **

    一瞬にこめられた永遠――カゲロウ

    成虫になって1日で死んでしまうカゲロウは「はかなく短い命」の象徴とされている。だが昆虫の世界を見渡すと、カゲロウの命はけっして短くはない。むしろ、相当の長生きと言っていいくらいだ。昆虫の多くは卵から成虫になって死ぬまで数カ月から1年以内だが、カゲロウの幼虫時代は2、3年に及ぶのだから。

    カゲロウの成虫は子孫を残すことに特化している。数時間のうちに、天敵に食い尽くされることなく交尾をし、川に卵を産まなくてはならない。夕刻に一斉に羽化して大発生するのは、天敵である鳥から逃れるためだ。そして夜明け前には、地吹雪のように大量の死骸が風に舞うことになる。

    **

    子育てをする無脊椎動物――タコ

    タコのお母さんというと、何ともユーモラスでひょうきんな感じがする。

    イメージとは、怖いものである。

    タコは、大きな頭に鉢巻をしているイメージがあるが、大きな頭に見えるものは、頭ではなく胴体である。

    映画『風の谷のナウシカ』に王蟲(おうむ)と呼ばれる奇妙な生き物が登場する。王蟲は体の前方に前に進むための脚があり、脚の付け根の近くに目のついた頭があり、その後ろに巨大な体がある。じつはタコも、この王蟲と同じ構造をしている。つまり、足の付け根に頭があり、その後ろに巨大な胴体があるのだ。ただし、タコは前に進むのではなく、後向きに泳いでいく。

    タコは無脊椎(むせきつい)動物の中では高い知能を持ち、子育てをする子煩悩な生物としても知られている。

    海に棲む生き物の中では、子育てをする生物は少ない。

    食うか食われるかの弱肉強食の海の世界では、親が子どもを守ろうとしても、より強い生物に親子もろとも食べられてしまう。そのため、子育てをするよりも、卵を少しでも多く残すほうがよいのである。

    魚の中には、生まれた卵や稚魚の世話をするものもいる。子育てをする魚類は、とくに淡水魚や沿岸の浅い海に生息するものが多い。狭い水域では敵に遭遇する可能性が高いが、地形が複雑なので隠れる場所はたくさん見つかる。そのため、親が卵を守ることで、卵の生存率が高まるのである。一方、広大な海では、親の魚が隠れる場所は限られる。下手に隠れて敵に食べられてしまうよりも、大海に卵をばらまいたほうがよいのだ。

    子育てをするということは、卵や子どもを守るだけの強さを持っているということなのである。

    また、魚類では、メスではなく、オスが子育てをする例のほうが圧倒的に多い。

    オスが子育てをする理由は、明確ではない。ただし、魚にとっては卵の数が重要なので、メスは育児よりも、その分のエネルギーを使って少しでも卵の数を増やしたほうがよい。そのため、メスの代わりにオスが子育てをするとも推察されている。

    しかし、タコはメスが子育てをする。タコは母親が子育てをする海の中では珍しい生き物なのである。

    一生に1度の大イベント
    タコの寿命は明らかではないが、1年から数年生きると考えられている。そして、タコはその一生の最後に、1度だけ繁殖を行う。タコにとって、繁殖は生涯最後にして最大のイベントなのである。

    タコの繁殖はオスとメスとの出会いから始まる。

    タコのオスはドラマチックに甘いムードでメスに求愛する。しかし、複数のオスがメスに求愛してしまうこともある。そのときは、メスをめぐってオスたちは激しく戦う。

    オス同士の戦いは壮絶だ。何しろ繁殖は生涯で1度きりにして最後のイベントである。このときを逃せば、もう子孫を残すチャンスはない。激高したオスは、自らの身を隠すために目まぐるしく体色を変えながら、相手のオスにつかみかかる。足や胴体がちぎれてしまうほどの、まさに命を懸けた戦いである。

    この戦いに勝利したオスは、改めてメスに求愛し、メスが受け入れるとカップルが成立するのである。そして相思相愛の2匹のタコは、抱擁し合い、生涯でたった1回の交接を行う。タコたちは、その時間を慈しむかのように、その時間を惜しむかのように、ゆっくりとゆっくりと数時間をかけてその儀式を行う。そして、儀式が終わると間もなく、オスは力尽き生涯を閉じてゆく。交接が終わると命が終わるようにプログラムされているのである。

    残されたメスには大切な仕事が残っている。

    タコのメスは、岩の隙間などに卵を産みつける。

    ほかの海の生き物であれば、これですべてがおしまいである。しかし、タコのメスにとっては、これから壮絶な子育てが待っている。卵が無事にかえるまで、巣穴の中で卵を守り続けるのである。卵がふ化するまでの期間は、マダコで1カ月。冷たい海に棲むミズダコでは、卵の発育が遅いため、その期間は6カ月から10カ月にも及ぶといわれている。

    これだけの長い間、メスは卵を守り続けるのである。まさに母の愛と言うべきなのだろうか。この間、メスは一切餌を獲ることもなく、片時も離れずに卵を抱き続けるのである。

    「少しくらい」とわずかな時間であれば巣穴を離れてもよさそうなものだが、タコの母親はそんなことはしない。危険にあふれた海の中では一瞬の油断も許されないのだ。

    もちろん、ただ、巣穴の中にとどまるというだけではない。

    母ダコは、ときどき卵をなでては、卵についたゴミやカビを取り除き、水を吹きかけては卵のまわりの澱(よど)んだ水を新鮮な水に替える。こうして、卵に愛情を注ぎ続けるのである。

    ふ化まで卵を守りとおす母ダコ
    餌を口にしない母ダコは、次第に体力が衰えてくるが、卵を狙う天敵は、つねに母ダコの隙を狙っている。また、海の中で隠れ家になる岩場は貴重なので、隠れ家を求めて巣穴を奪おうとする不届き者もいる。中には、産卵のためにほかのタコが巣穴を乗っ取ろうとすることもある。

    そのたびに、母親は力を振り絞り、巣穴を守る。次第に衰え、力尽きかけようとも、卵に危機が迫れば、悠然と立ち向かうのである。

    こうして、月日が過ぎてゆく。

    そして、ついにその日はやってくる。

    卵から小さなタコの赤ちゃんたちが生まれてくるのである。母ダコは、卵膜にやさしく水を吹きかけて、卵を破って子どもたちが外に出るのを助けるとも言われている。

    卵を守り続けたメスのタコにもう泳ぐ力は残っていない。足を動かす力さえもうない。子どもたちのふ化を見届けると、母ダコは安心したように横たわり、力尽きて死んでゆくのである。

    これが、母ダコの最期である。そしてこれが、母と子の別れの時なのである。

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  4. shinichi Post author

    稲垣栄洋

    https://ja.wikipedia.org/wiki/稲垣栄洋

    著書

    『農と出会う自然体験 実践の記録とヒント集』地人書館 2001
    『農を遊ぶ 田畑・森・牧場を楽しむアクティビティ72』のらり会編 晩成書房 2001
    『雑草の成功戦略 逆境を生きぬく知恵』NTT出版 2002
    『仮面ライダー昆虫記』実業之日本社 2003
    『身近な雑草のゆかいな生き方』三上修絵 草思社 2003 のちちくま文庫
    『草のふしぎ大研究 自然はこんなにおもしろい』PHP研究所 2005
    『身近な野菜のなるほど観察記』三上修絵 草思社 2005 のちちくま文庫
    『「植物」という不思議な生き方』PHP研究所 2005
    『蝶々はなぜ菜の葉にとまるのか 日本人の暮らしと身近な植物』草思社 2006
    『野菜ふしぎ図鑑 食育なるほどサイエンス』健学社 2007
    『働きアリの2割はサボっている 身近な生き物たちのサイエンス』家の光協会 2008
    『キャベツにだって花が咲く 知られざる野菜の不思議』2008 光文社新書
    『野菜ふしぎ図鑑 食育なるほどサイエンス 2』健学社 2009
    『田んぼの営みと恵み』創森社 2009
    『食育にやくだつ食材図鑑』1-2 ポプラ社 2009
    『田んぼの生きもの誌』楢喜八絵 創森社 2010
    『一晩置いたカレーはなぜおいしいのか 誰もが知ってる料理の知られざるサイエンス』家の光協会 2010
    『残しておきたいふるさとの野草』三上修絵 地人書館 2010
    『赤とんぼはなぜ竿の先にとまるのか? 童謡・唱歌を科学する』東京堂出版 2011
    『雑草は踏まれても諦めない 逆境を生き抜くための成功戦略』中公新書ラクレ 2012
    『トマトはどうして赤いのか? 身近な野菜を科学する』東京堂出版 2012
    『都会の雑草、発見と楽しみ方』朝日新書 2012
    『カタツムリのごちそうはブロック塀!? 身近な生き物のサイエンス』角川ソフィア文庫 2012
    『蝶々はなぜ菜の葉に止まるのか』角川ソフィア文庫 2012
    『植物の不思議な生き方』朝日文庫 2013
    『雑草に学ぶ「ルデラル」な生き方 小さく、速く、多様に、しなやかに』亜紀書房 2013
    『子どもが伸びる「理科力」のススメ 好奇心のスイッチオン』東京堂出版 2013
    『身近な虫たちの華麗な生きかた』小堀文彦画 ちくま文庫 2013
    『身近な野の草日本のこころ』ちくま文庫 2014
    『身近な生きものの子育て奮闘記 育児上手なオスはモテる!』ちくま文庫 2014
    『弱者の戦略』新潮選書 2014
    『散歩が楽しくなる雑草手帳』東京書籍 2014
    『しずおかの在来作物 風土が培うタネの物語』静岡新聞社 2014
    『たたかう植物 仁義なき生存戦略』ちくま新書 2015
    『身近な花の知られざる生態』PHPエディターズ・グループ 2015
    『徳川家の家紋はなぜ三つ葉葵なのか 家康のあっぱれな植物知識』東洋経済新報社 2015
    『なぜ仏像はハスの花の上に座っているのか 仏教と植物の切っても切れない66の関係』幻冬舎新書 2015
    『オスとメスはどちらが得か?』祥伝社新書 2016
    『植物はなぜ動かないのか 弱くて強い植物のはなし』ちくまプリマー新書 2016
    『面白くて眠れなくなる植物学』PHPエディターズ・グループ 2016
    『雑草が教えてくれた日本文化史 したたかな民族性の由来』エイアンドエフ 2017
    『雑草キャラクター図鑑 物言わぬ植物たちの意外な知恵と生態が1コママンガでよくわかる』誠文堂新光社 2017
    『怖くて眠れなくなる植物学』PHPエディターズ・グループ 2017
    『スイカのタネはなぜ散らばっているのか タネたちのすごい戦略』西本眞理子絵 草思社 2017
    『雑草はなぜそこに生えているのか』ちくまプリマー新書 2018

    共著・監修

    『田んぼの教室』栗山由佳子,松下明弘共著 家の光協会 2003
    『野に咲く花便利帳 身近な雑草から山野草まで248種』監修, 主婦の友社編 主婦の友社 2016
    『大豆のへんしん図鑑』全3巻 監修,谷本雄治指導. 小峰書店 2016
    『よくわかる米の事典』全5巻 監修, 谷本雄治 指導. 小峰書店 2016
    『子どもと一緒に覚えたい道草の名前』監修 加古川利彦絵 マイルスタッフ 2017

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