中野信子

サンクションとは、たとえば税務署が脱税に厳しく目を光らせ、発覚した際には重い罰を与えるように、「ずるをしている」誰かに対して制裁をくわえ、共同体から追放しようとする行動です。共同体を維持するためにはとても重要な行動で、古来から人間の基本的な感情としてインプットされているものです。
どうしてサンクションが生まれるのか。それを考えるために、まずは共同体がどのようにして維持されているかについてお話ししましょう。
社会的生物である人間は、生きていくために共同体を作って暮らしてきました。ルールを決めて役割を分担し、それぞれがコストを負担して利益を生み出して、それを仲間で分け合って生活しています。たとえば国であれば税金を納める代わりに社会保障や、道路や水道といった整ったインフラが利用できるようになり、会社であれば労働の対価として給料が受け取れるわけです。
しかし、なかにはルールを破って、コストの負担をせずにリターンを得る「ただ乗り」しようとする人がいます。そういう人は社会学の用語で「フリーライダー」と呼ばれます。フリーライダーが増えすぎると、まじめにコストを支払うメンバーがどんどん損をする社会になってしまう。仲間のなかにルールを守っているふりをしながら隠れて得をしている人がいるなら、罰を与えて追放するサンクションを実行しなければなりません。

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