尹健次

日本の近現代史全体からするとき、「政治改革」や「政界再編」の「課題」にも示される今日の戦後日本の転換期において、総体としての日本人が抱え込んでいる問題の本質は、たんなる戦後体制の再編ではなく、世界の民族問題につながる「日本の民族問題」であるという認識が不可欠である。実際、「国際貢献」という言葉の使い方一つをみても、そこには戦前の「聖戦」につながりうる「民族幻想」的な響きがあり、その奥底には無自覚なままの優越感が潜んでいると言ってよい。その意味では、今日の日本人にとっては、民族的アイデンティティの形成が国家主義指向の政治勢力に利用されないためにも、まず事実として存在し、生活を営んできた民族集団としての「日本人」のありようを問い直すための努力を積み重ねることが必要であろう。すなわち、日本そのものが今、国際社会のなかで深刻なアイデンティティ・クライシスに陥っているなかで、日本人にとってはなによりも、抽象的に観念化された国家、人びとを威圧する国家に収斂されない生き方を切り開いていくことが重要である。そうしたことからするとき、激動する世界と日本の現実を正しく理解し、そのなかでの日本人の正確な自己認識を確保するためには、近現代日本の民族的アイデンティティのありようがいかなるものであったかを検証しておくことが、きわめて重要な今日的課題であると思われる。

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