出町譲

ペストは14世紀のヨーロッパ、そして世界を恐怖のどん底にたたきつけた。人口の3分の1が亡くなるという異常事態だった。単に人口が減っただけでなく、ヨーロッパの中世社会を根底からぐらつかせた。権力構造ががらりと変わり、封建社会が崩れた。
教会、領主の2つの権力の失墜は、新たな社会に向かうきっかけとなった。
それが、ルネサンスだ。教会が支配していた中世の時代を克服しようという動きだ。「暗黒の時代」と決別し、人間を解放する運動である。百花繚乱の人材を生み出され、科学史に残る偉業が生み出された。
新型コロナでいま、世界は混乱している。会社は在宅勤務となり、学校は休校となっている。リモートワークやオンライン授業は日常光景になりつつある。混乱の後には、新たな時代が始まる。「コロナ後」の世界では、古い時代から決別することになるだろう。

One thought on “出町譲

  1. shinichi Post author

    人類と感染症 2 「ペスト」とルネサンス

    by 出町譲

    https://japan-indepth.jp/?p=51234

    ペストは14世紀のヨーロッパ、そして世界を恐怖のどん底にたたきつけた。人口の3分の1が亡くなるという異常事態だった。単に人口が減っただけでなく、ヨーロッパの中世社会を根底からぐらつかせた。権力構造ががらりと変わり、封建社会が崩れた。

    ヨーロッパ中世においては、ローマ教皇が絶大な権力を持っていた。その力を示す有名なエピソードは「カノッサの屈辱」だ。神聖ローマ帝国の皇帝が、破門を恐れてローマ教皇に屈服した。皇帝が雪の中、教皇に許しを請うため、素足で立っていたという。

    そんな教皇をトップとした教会だったが、ペストの流行にはあまりに非力だった。聖職者自身が、ペストにかかった。人々が宗教儀式をやっても祈りを捧げても、効果が出ない。今となっては当たり前なのだが、当時の人々は落胆した。さらに聖職者の中には、感染を恐れて、教会から逃げ出す人もいた。教会側の裏切り行為と映った。

    もう一つの権力者、封建領主も地位が低下した。ヨーロッパの封建社会では、封建領主が土地を所有し、農民から年貢を取り立てていた。しかし、ペストで多くの農民が死亡した。労働力不足から、農民に賃金が支払われ、農民が相対的に力をつけた。教会、領主の2つの権力の失墜は、新たな社会に向かうきっかけとなった。

    それが、ルネサンスだ。教会が支配していた中世の時代を克服しようという動きだ。「暗黒の時代」と決別し、人間を解放する運動である。この時期に、イタリアで生まれた天才が、レオナルド・ダ・ヴィンチである。

    ダ・ヴィンチといえば、言わずと知れた史上最高の画家。代表作は「モナリザ」だ。科学者としても、後世に名を刻んだ。ルネサンス期が生んだ「万能の天才」といえよう。

    同時代の画家としては、ミケランジェロ、ラファエロなども活躍し、政治思想家のマキャベリが登場した。百花繚乱の人材を生み出した。

    ペストはその後も、ヨーロッパ世界で流行するが、1665年から66年には、イギリスで大きな広まった。ロンドンだけでおよそ10万人が死亡した。街は悲惨な光景だった。

    「ロンドン塔まで歩いた。だが、主よ、通りはなんとがらんどうで淋しく、かわいそうな病人たちが出歩いているが、皆腫物ができている。歩いている間にもいろいろ悲しい話を耳にした。皆、この人が死んだ、あの人は病気だ、ここでは何人、あそこでは何人、などということばかり取り沙汰している」(ピープス氏の秘められた日記、岩波新書)。

    このころ、ある若者の運命が変わった。アイザック・ニュートンだ。ケンブリッジ大学で研究生活を送るつもりだったが、ペストの流行で大学は休校になった。

    ニュートンは故郷に帰った。休校は2年に及んだ。そこで、リンゴが木から落ちるのを見て、膝を打った。リンゴは実は落ちたのではなく、地球に引っ張られたのだ。それで生まれたのが「万有引力の法則」だ。さらに、「微分積分」の考え方も発見した。ニュートンはこの期間をのちに「創造的休暇」と呼んでいる。

    科学史に残る偉業が生み出されたのだ。

    新型コロナでいま、世界は混乱している。会社は在宅勤務となり、学校は休校となっている。リモートワークやオンライン授業は日常光景になりつつある。混乱の後には、新たな時代が始まる。「コロナ後」の世界では、古い時代から決別することになるだろう。ダ・ヴィンチやニュートンが再び現れるかどうか。私たちは後世の人から、「ボーっと生きてんじゃねーよ」と叱られないようにしなければならない。

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