段木昇一

ブロックチェーンの技術は、仮想通貨に限らず、幅広い分野での応用が期待されており、今後の社会を大きく変革する可能性を秘めていることから、世界中で注目されている。
ところが、残念なことに、日本はこの分野で国際競争に立ち遅れているとの懸念が高まっている。なぜ日本にはブロックチェーン技術が不足しているのか? その最大の理由は日本にフィンテック(ITを活用した新しい金融サービス)への投資が少ないことにある。フィンテックの投資規模は中国のわずか1・5%程度にすぎないという調査結果もある。
さらにもう一つ背景にあるのは、日本国内での担い手(技術者)不足である。もともとブロックチェーンのエンジニアは、海外では「P2Pファイルシェア」のプログラマーが多い。なぜならブロックチェーンはP2Pの技術を用いて構築されている分散型ネットワークの一つだからだ。しかし日本では、この分野は著作権問題などがからむグレーゾーンだったため、これまでプログラマーが個人として、あるいはベンチャー企業として積極的に開発に携わっていなかったという事情がある。大企業ではなおさらそうした傾向が強く、ブロックチェーン技術に縁遠い時間が長かった。その結果、諸外国に比べて最先端の技術に対応できる人材の厚みに欠けてしまっている点は否めない。

2 thoughts on “段木昇一

  1. shinichi Post author

    ブロックチェーン人材が不足する日本

    by 段木昇一

    https://wedge.ismedia.jp/articles/-/12708

     ブロックチェーン技術の実用化の推進、技術者支援を目指し、ニュースメディア展開やデータ分析事業などを行うLONGHASH(ロングハッシュ=クリス・ダイ社長、本社・東京)がこのほど都内で設立発表会を行い、サービスを開始した。経済界のみならず政府も取り組みに注目しており、日本のブロックチェーン技術水準の底上げが期待されている。

     ブロックチェーンは、ビットコインやNEM(ネム)など仮想通貨の取引や決済などの中核となっている技術で、日本語では「分散型台帳技術」とも表現される。ブロックチェーンの技術は、仮想通貨に限らず、幅広い分野での応用が期待されており、今後の社会を大きく変革する可能性を秘めていることから、世界中で注目されている。

     ところが、残念なことに、日本はこの分野で国際競争に立ち遅れているとの懸念が高まっている。なぜ日本にはブロックチェーン技術が不足しているのか? その最大の理由は日本にフィンテック(ITを活用した新しい金融サービス)への投資が少ないことにある。フィンテックの投資規模は中国のわずか1・5%程度にすぎないという調査結果もある。

     さらにもう一つ背景にあるのは、日本国内での担い手(技術者)不足である。もともとブロックチェーンのエンジニアは、海外では「P2Pファイルシェア」のプログラマーが多い。なぜならブロックチェーンはP2Pの技術を用いて構築されている分散型ネットワークの一つだからだ。しかし日本では、この分野は著作権問題などがからむグレーゾーンだったため、これまでプログラマーが個人として、あるいはベンチャー企業として積極的に開発に携わっていなかったという事情がある。大企業ではなおさらそうした傾向が強く、ブロックチェーン技術に縁遠い時間が長かった。その結果、諸外国に比べて最先端の技術に対応できる人材の厚みに欠けてしまっている点は否めない。

     日本の経済産業省の資料によると、現在、先端IT人材が約1・5万人不足しているが、2020年にはそれが約4・8万人不足すると見込まれている。情報セキュリティ人材も、現在約13・2万人の不足が、2020年には約19・3万人もの不足に拡大すると推計されている。

     アメリカや中国ではベンチャー企業に対する投資が多く、エンジニアは大企業に属さなくても個人で活躍でき、仕事の機会も豊富にあるのが特徴だ。

     その一方で日本は、ベンチャー企業への投資が少なく、エンジニアは大企業に依存するしかない。そのため先端・先進的な取り組みをスピード感を持って進めることはなかなか難しく、そうした環境ではブロックチェーンに限らずフィンテック全般が育ちにくいのは明らかだ。

    こうした状況を打開しようと、日本に国内外のブロックチェーン技術者を呼び込み、スタートアップ企業への投資活動を活発化させようと設立されたのがロングハッシュである。

     同社の事業の柱は、メディア事業、データ事業、投資育成事業の3つだ。メディア事業では、世界各国のブロックチェーンや仮想通貨に関するニュースの配信のほか、世界の仮想通貨の取引価格の掲載、セミナーの開催などを行う。データ事業は、取引データ分析による可視化などを行うほか、マネーロンダリングの防止や異常取引の発見にも寄与できるよう取り組む。さらに投資育成事業は、起業のサポートや海外ブロックチェーン技術チームの日本への誘致などを目指すという。

     4月下旬の設立発表会では、社長を務めるクリス・ダイ氏が「ブロックチェーンの実用化を目標に運営する。現在、フェイスブックやウーバーなどの大企業が莫大なデータを持ち、個人情報の安全性はそうした企業やウェブサービスの信頼性にゆだねられている。個人情報を本人がコントロールできない状況を変えるには、ブロックチェーンが欠かせない」と述べた。

     また同社会長に就任した投資家の谷家衛氏は、「日本にとって一番大事なのは、海外の優秀な人たちに日本にきてもらうこと」と強調した。

     設立発表会に合わせて開かれた交流会には技術者や学生など約100人が参加し、世の中での関心の高さを伺わせた。日本の政府関係者も駆けつけ、内閣府の副大臣が日本政府の取り組みなどを説明するとともに、ロングハッシュのような民間の積極的な取り組みを評価した。

     日本国内のブロックチェーンのエンジニア数は200人程度とみられ、半数が外国人だとされる。エンジニアの数が多い国はアメリカやウクライナ、中国といった国々だが、イスラエル、香港、シンガポール、エストニアといった国や地域にも多いという。

     ロングハッシュは、こうした海外で育ったエンジニアを日本の会社に紹介し、プロジェクトベースで可能な分野を見つけて、ビジネスに育てることを目指す点に特徴がある。こうした取り組みが刺激となって、これから日本でブロックチェーン技術の大きな進展が見込めるのか。今後も様々な企業の動きが注目されそうだ。

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  2. shinichi Post author

    ブロックチェーン活用 及び腰の日本、前のめりの新興国

    by 田中義啓

    https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/watch/00013/00273/

    アジア、中欧、アフリカなどの新興国を中心に、ブロックチェーンを金融にとどまらず、あらゆる産業、あるいは国の行政サービスに展開。先進国が上位を独占しているビジネスの序列にゲームチェンジを迫る機運が高まっている。

    **

     2019年2月15日、タイ・バンコクで「ブロックチェーンサミット2019」という大型カンファレンスが開催され、ホスト国であるタイを中心にASEAN、中国、インド、EU、ロシア、オーストラリアのベンチャー企業リーダーらが参加。ワークショップ形式で熱い議論を交わした。

     フィンテックでアドバンテージを握ろうとする金融業界はもちろん、行政サービス、漁業、教育、外食産業、教育産業、商社など参加者の顔触れは多彩。互いの事例報告を通じて異なる産業から学び、それを自らの事業に生かそうという熱量に圧倒された。

     ブロックチェーン上で展開される世界最大の仮想通貨ビットコインの流通量において、日本は16年後半から圧倒的なNo.1シェアを維持している。ただしその大半はビットコインを対象にしたFX投資である。ブロックチェーンの実像が不明確なままリスクマネーが積み上がる状況は、極めてゆがんでいると言わざるを得ない。

     ブロックチェーンは一般には分散型台帳技術と呼ばれるが、誤解を恐れずその実態を表現するなら、分散型台帳というよりも「ウェブ上で共有できるデータベース(DB)のないアプリケーション」といったほうが分かりやすい。一般的なインターネットサービスでは、その事業主体が中央集約的なDBとソフトウエアからなるプラットフォームを運営し、ウェブを介してエンドユーザーがアクセス、利用する。この仕組みはオンラインバンクからECモールやオンラインゲームまですべて同じで、運営企業はそのシステムを利用する個人や法人から利用料を徴収してビジネスが成立している。

     法人取引が銀行を介して行われるのは、売買契約が当事者間で成立しているとしても、企業が扱うすべての取引を当事者間で直接現金で授受していたら、事務処理だけで膨大な労力が必要になるからだ。そのため手数料を払ってでも銀行を介したほうが合理的である。

     それに対してブロックチェーンでは、取引や利用データは直接的な当事者間だけで保持し、必要が生じれば目的に応じてその履歴を集約して可視化する。この仕組みを商取引に応用する際のクレジットが仮想通貨である。一見前時代的な取引方法だが、一切の事務処理がインターネットを介してアプリケーション間で行われることから人的負担が発生しにくい。

     この仕組みは何も金融サービスにだけ適用可能なものではない。当事者の中間に入り煩雑さを省いて利便性を提供し、その対価を得るビジネスのほとんどすべてに適用可能だ。旅行、広告、不動産、保険などの代理店ビジネス、農業、漁業などの市場ビジネス、オンラインゲーム・エンターテインメントなども適用範囲に入ってくる。

     ここにベンチャー企業や新興国は、従来の序列を覆すチャンスだと着目している。その背景にはワイヤレスネットワークとスマートフォンの急速な普及により、資本力に乏しい国や地域であってもインフラが整い、またブロックチェーンであれば巨大なデータセンターを調達する必要もなく、総じて参入ハードルが低いことが大きい。

     今回のサミットでも、いわゆる非金融系ビジネスについてのセッションが全体の約半数を占めたが、その中には構想やテストの段階を越えてビジネスとして離陸を果たしたものもある。実ビジネスの運用から得られる知見は、後続企業の成功率底上げに役立つものとして特に注目を集めた。

     その中の1つであるパシフィカルは、ツナ缶を主力商品に南太平洋で水産加工品を製造しているオランダの食品メーカーだ。消費者は同社のツナ缶のシリアルコードを基にスマートフォンでブロックチェーンをたどって原料であるマグロをとった海域、漁船、船長、漁港、加工工場などをトレースできる。同社は、そのプロセスのすべてのデータを中央集権的に集積しているわけではなく、それぞれのフェーズを担うさまざまな当事者たちがマグロ各個体のIDで形成されたブロックチェーンに情報を書き込んでいるだけである。どこにもDBを持つことなく、書き込まれた履歴をたどってスマートフォンに表示する仕組みだ。

     食の安全性は日本のお家芸のように言われるが、徹底した透明性を現状の中央集権的な仕組みで実現・運用するには膨大なシステム投資が必要であり、販売価格を押し上げて消費者の負担増になる状況が避けられない。ここにブロックチェーンを操る新興勢力のチャンスが生まれている。

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