老化

老化とは年をとることとその過程だ
時間とともに個体に起きる変化とか
死に至るまでに起きる機能低下とか
時間とともに変化するすべてが
老化なのだ

木の葉が色づいて散るのも老化だ
動物の活動性が低くなっていくとか
細胞が分裂をやめてしまうとか
身体的 心理的 社会的な変化が
老化なのだ

老化の原因がわかっただとか
いや原因はわかっていないとか
いろいろなことが言われているけれど
誰も老化は避けられないし
誰も老化を止められない

ピカピカな歯で死んでゆくのもいいけれど
ボロボロの歯で死んでゆくほうが自然だし
黒くてふさふさした髪で死ぬよりも
薄くなった白い髪で死ぬほうがいい

年より若く見えるよりも
年相応に見えるほうがいいし
内面が顔に表れているほうが
のっぺりした顔よりずっといい

若いってすばらしくないんだと
心からそんなふうに思ってみれば
老いてからでないとできないことが
たくさん浮かんでくる

好きな人がだんだんなくなってきたら
石や木や水が近づいてきて
老いをそのまま受け入れてみたらどうか
すべてを面白がってみたらどうかと言う

自然のなかを歩いてみれば
真上には太陽が輝いていて
後ろからは風が吹いてくる
目の前の池が言う
なかなかいい
なかなかいいよって

3 thoughts on “老化

  1. shinichi Post author

    黒井千次
    https://kushima38.kagoyacloud.com/?p=27228

    年齢相応に老いていくことの困難な時代が到来した。若さや体力ばかりが尊重され、歳にふさわしい生の形が見失われようとしている。幼年期や思春期や壮年期に、それぞれの季節にだけ稔る果実があるのだとしたら、老年期には老年の、老いに特有な美しい木の実があっても少しもおかしくはない筈だ。そしてかって存在した老いの形とは、その実を収穫するための身構えでもあったのだろう。 幼い孫を連れて遊びに来た息子や娘の一家を送り出す休日の夕暮れの光景は、平和で心和む眺めである。と同時に、ふとなにかの欠けてしまったような危うい気分を誘い出されるのは、そこに老いの形がはっきりとは認められぬ故であるような気がする。

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