好きになれない詩

詩があった
 黄金の太刀が太陽を直視する ああ 恒星面を通過する梨の花!
という書き出しで
好きになれない と感じ
僕には関係のない詩だ と思った
そうしたら
その詩を書いた人は高見順賞を受賞していて
藤村記念歴程賞も現代詩花椿賞も詩歌文学館賞も
芸術選奨文部大臣賞も毎日芸術賞も市民栄誉賞も
日本芸術院賞恩賜賞も受賞していて
紫綬褒章も旭日小綬章も受賞していて
文化功労者で日本藝術院会員で文学会の理事長で
要するに大御所で
現代日本を代表する先鋭的な詩人なのだそうで
高い評価を受けていると書いてあって
正直理解できないけれどなんか凄い なんていう感想が載っていて
疾走感あふれる詩といわれてるみたいだけれど 疾走感なんか感じられず
ふーんと思ってもう一度 詩を感じようとしたけれど
やっぱり 好きになれない詩だと思った

僕はやっぱり
 海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手を広げ
のほうが好きだ
うん? それは詩ではないって? 歌だって?

では やり直して
僕はやっぱり
 空の雲が厚くたれ下ってきて、雨粒が一滴二滴と頬や頭に落ち始めるときの、
 一種恍惚とでもいってよい安堵感を、何にたとえようか。
 まさしく天の慈雨である。
のほうが好きだ

あっ ちょっと待てよ
海を知らぬ少女の前に の詩人も
空の雲が厚くたれ下ってきて の詩人も
勲章なんか貰っていなかったじゃないか
文化功労者なんかじゃなかったじゃないか
だから好きなんだ

官製の権威に認められるような詩人が作った詩を
好きになれないと思った自分のことが
少しだけ好きになった

2 thoughts on “好きになれない詩

  1. shinichi Post author

    「燃える」

    by 吉増剛造

    黄金の太刀が太陽を直視する
    ああ
    恒星面を通過する梨の花!

    風吹く
    アジアの一地帯
    魂は車輪となって、雲の上を走っている

    ぼくの意志
    それは盲ることだ
    太陽とリンゴになることだ
    似ることじゃない
    乳房に、太陽に、リンゴに、紙に、ペンに、インクに、夢に! なることだ
    すごい韻律になればいいのさ

    今夜、きみ
    スポーツカーに乗って
    流星を正面から
    顔に刺青できるか、きみは!

    Reply

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