古い街

この古い街は
埃だらけで ゴミが散らばっていて
人が多くて 忙しくて うるさくて
でも
朝早くに目に映る街は
くっきりとした輪郭を持っていて
輝いていて
夕暮れのなかに浮かぶ街は
なにもかも包み込んで
優しくて
はじめて来たというのに
懐かしい

僕の生まれた街は
いつのまにか ゴミのない街になっていて
整っていて
でも
直線ばかりでできた街は
鈍く光る境目のない面でできていて
ぼんやりしていて
冷たくて
コンピュータが作った街では
曲線も四角に取り込まれ
不自由で
はじめて来たみたいに
よそよそしい

考えてみれば古い街には
人が住んでいて
交わりがあって
会話があって
心があった

新しい街では
人はインターフォンの後ろに隠れ
顔を合わせることもなく
ネット上で会話し
心をかよわすことがない

世界中の古い街は
近くで見ると汚いけれど
少し離れて振り返ると輝いている

新しい街はどこも同じで
近くで見るときれいだけれど
少し離れて振り返るとなにも見えない

街だけではない
古いもののなかに宿る美は
計算しても作ることができず
解析しても理解できない

人間も同じ
見かけのきれいな人が
心を打つことは少ない

その人なりに生きていれば
その人なりに美しい
好きなことをして生きていれば
美しさは弾んでいて
必死で生きていれば
美しさは輝く
見るところをしっかり見れば
人は美しい

なにも見えなくても
君は美しい

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