第六章 立阿弥 (立花)


文明十五年九月二日(一四八三年十月三日)
義政と堺の商人尾和宗臨との秘密会談の日に 

足利義政、永享八年生まれ、四十八歳

立阿弥(りゅうあみ)、永享六年生まれ、五十歳
立花の作者。義教に仕えた立阿弥とは別人、台阿弥、文阿弥などと共に、花を立てることで義政に仕えた。花への理解が深く、花を立てる技術に優れていたが、花瓶などへの興味は薄かったという。


(本文から)

立阿弥 人に内面の魅力があるように、花にも内面の魅力があるのではないでしょうか。
義政 どういうことだ。
立阿弥 人も花も同じ。そういうことが言いたいのです。内面の美しい人は、盛りを過ぎていても魅力がある。内面の美しい花も同じ。盛りを過ぎていても魅力があります。
義政 内面の美しい花とは、どんな花なのだ。
立阿弥 他の花のことを考える花。さらに言えば、花のことだけでなく、草や木のことも考えることのできる花。そんな花は美しく、虫たちだけでなく、私たちをも惹きつけます。
義政 そんなばかな。他の花や草木のことを考える花など、あるわけがない。
立阿弥 花をよく見ておりますと、いろいろな花があることに気づきます。自分だけが美しく咲こうとする花。他の花のことを考えて、譲ったり控えめにしたりする花。葉のことや根のことを考えて咲いている花。花の一輪一輪に、違う性格が宿っているのです。