加川文一

丘より見ゆる海は青し
夏の畑につくりし
胡瓜のごとき色を
にがく走らせたり

海はひねもす
わが乾ける瞳を刺し

われは此処に住みて
はや四年となりし
わが生活はまづしけれど
まづしさも己のものぞと
一筋にがき海に向かひて
語りきたれる

妻よ
今日も海は光れリ
人の住む陸を抱きて
するどく海は光れり

3 thoughts on “加川文一

  1. shinichi Post author

    海は光れり

    by 加川文一     

    この詩は

    貧しさを時に歎けど吾が世帯
    こまごまと物のふえていくなり

    という桐田しづの短歌で始まる。

    桐田しづは加川文一の妻であり、こころの支えであった。

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  2. shinichi Post author

    『南加文藝』 (ロサンゼルスに根づいた文芸誌)

    『鉄柵』  (戦時中に収容所内で発行されていた文芸誌)

    Hidden Flam (詩集 in English, 1930)

    Reply
  3. shinichi Post author

    不 安 

    by 加川文一

    知らないものに対して
    僕は臆病だ
    知っているものに対しては
    もっと臆病だ

    存在は哀しい
    底流れのした肩のやうにかなしい
    ひらひらと一匹の蝶が
    僕の肩をかすめて
    野の方へ飛んでいく

    路ばたには
    小さい花が咲いている
    埃を浴びて誰にも知られず
    小さい花の小さい眼が
    痙攣している

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