One thought on “>荻原浩

  1. s.A

    >評・井上寿一
    リストラされ、離婚し、ホームレスになる。今の日本では何の不思議もない。明日は我が身だ。主人公もそうである。大手証券会社のディーラーとしてクリック一つで億単位の金額を動かしていたのに、今では所持金3円の路上生活者になっている。どん底にまで落ちた主人公は、どうすれば這い上がることができるのか。

    ひとりではどうしようもない。協力者が必要だった。ひとりはどこか怪しげな辻占い師、もうひとりは美形で偉丈夫な若いホームレス。3人で何ができるのか。このさえない中年男性は、意外にも思慮深く、知略に富む術策を考えていた。新興宗教ビジネスである。前車の轍は踏まない。固い決心である。

    ここからわずか1年で成功していく過程には、物語にご都合主義のところがある。そうは言っても現実の生活だって、時にご都合主義ではないか。気にすることなく、さきを急ぐ。

    新興宗教ビジネスの成功は彼に幸福をもたらしたのか。そうではなかった。かつてはカップ酒ひとつも買えなかったのに、今では高級酒を毎日、浴びるように飲むことができるまでになった。それなのになぜ不幸なのか。

    自分で設計した新興宗教ビジネスのシステムが制御不能なまでに暴走を始めていた。協力者は協力者ではなかった。何がいけなかったのか。破局に突き進むなかで彼は悟る。いけなかったのは自分である。生い立ちからの孤独な魂の遍歴が明らかになる。

    これが現実だ。助け合ったり、共同体を作ったりなんてできるわけがない。希望はないのか。主人公の前には二つの選択があった。別れた妻の元に戻って家族の絆を回復するか、それとももう一つの共同体の可能性に賭けるか。どちらがいいかはわからない。迷いながらも、一歩、踏み出す。

    私たちも希望を失うことなく、現実を変えるために、一歩、踏み出していく。

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