壊れてゆく社会

 外国人に暴力を振るう日本の入管収容施設の職員たち、黒人に暴力を振るうアメリカの警官たち、女性に暴力を振るうアフガニスタンの男たち、自国民に暴力を振るうミャンマーの軍人たち。そういう人たちのことをおかしな人だと言う人は少ない。ところが、見た目や行動が違うというだけで、おかしな人だと言われれてしまう。
 人間には「普通」とか「標準」というものがあって、そこから外れている人たちを長いあいだにわたって「異常」とか「障害」という枠に閉じ込めて来た。
 テクノロジーの進化が「普通」を変えてしまうと、今までの「異常」が「普通」になり、今までの「普通」が「異常」になるというようなことが起きてしまう。
 実際、学校のなかでは「普通」と「異常」の逆転が起きていて、先生にとっての「異常」が生徒にとっての「普通」であり、先生にとっての「普通」が生徒にとっての「異常」だというようなことが、日常的に見られている。
 長い時間、下を向いて、画面を眺め続けているというのは、スマートフォンが登場する以前には間違いなく「異常」だったのだが、今ではそれが「普通」になってしまい、そうしない生徒は「異常」だと言われる。
 メッセージにすぐに反応して返信する生徒は、今までならば「異常」だったのだが、今ではそれが「普通」になっていて、30秒以内に返事をしない生徒は「異常」だと言われてしまう。
 生徒はあっという間に大人になる。学校で起きていることは、やがて社会で起きる。まず、学校のなかで生徒たちが壊れ、次に、社会のなかで大人たちが壊れてゆく。
 引きこもりの多くがコンピュータと共に引きこもったということに象徴されるように、多くの「異常」はテクノロジーの進化に起因している。
 バーチャルとリアルのあいだの壁が壊れつつある今、社会もまた壊れつつある。証拠は捏造され、画像を見ても映像を見ても、もうそれがほんとうに起きたかどうかは誰にもわからない。バーチャルがリアルのなかに入り込んでしまうと、バーチャルとリアルの切り分けさえ無意味になる。
 テクノロジーで進化したラブドールを相手にセックスする若い男は、間違いなく壊れている。テクノロジーで進化した外見を手に入れてラブドールのようになってしまった若い女も、間違いなく壊れている。そう感じるのは「異常」なのだろうか?
 「異常」が多数になり「普通」が少数になった時、それまで「普通」だった人たちは「異常」と呼ばれ、それまで「異常」だった人たちは「普通」と呼ばれる。そんな変化のなかで、多くの人たちが適応できず、壊れてゆく。
 テクノロジーが人間を壊してゆくのか、人間がテクノロジーを壊してゆくのか、それすらもわかりはしない。

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