人口減少(大森彌)

今は、どなたでも枕詞のように「人口減少」「人口減少時代を迎えて」とおっしゃいます。日本はこの100年の間に人口が増え続け、特に戦後だけで5000万人以上も増え、2008年には1億2808万人となりました。この狭い日本列島に、1億人以上の人が、この豊かさで暮らせるようになったことは素晴らしいことではありますが、これ以上増え続けたらどうなるか、ということも心配でした。ですから、私は、「人口増加が止まった」「ピークを打った」と聞いたとき、ほっとしたのです。いつまでも増え続けるものではない、と思っていたからです。
しかし、今度は人口が100年前と同じような水準まで減っていくという見通しが出てまいりました。あまり急激に減り続けると、今まで人口増加の時代に築いてきた、ものの考え方・やり方がついていかれなくなります。ゆっくりと進むのならよいのですが、現実は相当なスピードで減っていて、恐らくは5000万人を切るのではないか、という見通しです。しかも、その時点での高齢化率は約40%で、とても社会保障制度はもたないのではないかと危惧されます。社会保障制度は、人々の安心と暮らしを支える柱ですから、その行方が心配になります。
我が国の人口は今後しばらくこのまま減り続けることになります。いつの段階でこれに歯止めがかかって、穏やかな水準となるのかは分かりません。国も、はっきりと分かっているわけではないと思います。
しかし、人口減少は確かに起こっていますので、本日は担当大臣がお見えでございますが、「まち・ひと・しごと創生法」という法律が制定されました。この法律は人口政策法であり、戦後初めて明確に「人口減少に歯止めをかける」という目標が書かれています。この法律を廃止しない限り、国と自治体は力を合わせて人口減少に歯止めを効かせる政策に取り組まざるを得ません。しかし、それは、数十年単位、もう少し言うと半世紀以上に及ぶ努力なしでは実現しないと思います。
人口減少をもたらした要因は分かっているのです。未婚化と晩婚化と出生児数の減少です。せっかく結婚しても、第2子、3子が生まれにくいのです。このように原因は分かっていますので、手を打てないことはありませんが、決め手や奇策と呼べるものがないのです。ですから、これから半世紀に渡って、国と自治体が辛抱強く、出生率を高める政策を頑張ってやり続ける以外にないのです。

One thought on “人口減少(大森彌)

  1. shinichi Post author

    2040年と町村の力

    by 大森彌
    全国町村会
    https://www.zck.or.jp/uploaded/attachment/3134.pdf

    2040年と町村の力

    東京大学名誉教授 大森 彌

    「災害は忘れた頃にやってくる」といいますが、このところ災害は忘れる前に、あるいは忘れる暇もなくやってきています。全国いたる所に被災をされた方がいらっしゃいます。一日も早く安らかな日々になりますよう、切に願っております。

    さて、今日は15分の応援メッセージということで、十分言い尽くせるかどうか分かりませんが、二、三申し上げたいと思います。

    今は、どなたでも枕詞のように「人口減少」「人口減少時代を迎えて」とおっしゃいます。日本はこの100年の間に人口が増え続け、特に戦後だけで5000万人以上も増え、2008年には1億2808万人となりました。この狭い日本列島に、1億人以上の人が、この豊かさで暮らせるようになったことは素晴らしいことではありますが、これ以上増え続けたらどうなるか、ということも心配でした。ですから、私は、「人口増加が止まった」「ピークを打った」と聞いたとき、ほっとしたのです。いつまでも増え続けるものではない、と思っていたからです。

    しかし、今度は人口が100年前と同じような水準まで減っていくという見通しが出てまいりました。あまり急激に減り続けると、今まで人口増加の時代に築いてきた、ものの考え方・やり方がついていかれなくなります。ゆっくりと進むのならよいのですが、現実は相当なスピードで減っていて、恐らくは5000万人を切るのではないか、という見通しです。しかも、その時点での高齢化率は約40%で、とても社会保障制度はもたないのではないかと危惧されます。社会保障制度は、人々の安心と暮らしを支える柱ですから、その行方が心配になります。

    我が国の人口は今後しばらくこのまま減り続けることになります。いつの段階でこれに歯止めがかかって、穏やかな水準となるのかは分かりません。国も、はっきりと分かっているわけではないと思います。

    しかし、人口減少は確かに起こっていますので、本日は担当大臣がお見えでございますが、「まち・ひと・しごと創生法」という法律が制定されました。この法律は人口政策法であり、戦後初めて明確に「人口減少に歯止めをかける」という目標が書かれています。この法律を廃止しない限り、国と自治体は力を合わせて人口減少に歯止めを効かせる政策に取り組まざるを得ません。しかし、それは、数十年単位、もう少し言うと半世紀以上に及ぶ努力なしでは実現しないと思います。

    人口減少をもたらした要因は分かっているのです。未婚化と晩婚化と出生児数の減少です。せっかく結婚しても、第2子、3子が生まれにくいのです。このように原因は分かっていますので、手を打てないことはありませんが、決め手や奇策と呼べるものがないのです。ですから、これから半世紀に渡って、国と自治体が辛抱強く、出生率を高める政策を頑張ってやり続ける以外にないのです。これは、そう簡単な話ではないと思います。私の孫、ひ孫の時代に、日本はどうなっているのだろうと心配になります。

    さて、このところ急速に2040年問題が浮上しておりますので、これについて少しお話したいと思います。2040年問題について、最初に大きな問題提起をしましたのは、2013年12月の中央公論に掲載された「2040年、地方消滅」という衝撃的な論文でした。いわゆる「増田レポート」です。増田さんは元岩手県知事で総務大臣をされた人です。2010年から2040年の30年間に、20~39歳の女性(若年女性)がどの位減っていくかという推定を市町村単位で行いました。2040年に人口が1万人未満になる町村で、若年女性が半分以上減る自治体が続々と出てきました。論文では、これらの町村は「消滅の可能性が高まる」と指摘されました。「消滅する」ではなく「消滅する可能性が高まる」でしたが、「うちは消滅するのではないか」という不安を感じた自治体もありました。

    しかし、人口が減るくらいで自治体は消滅しません。市町村は法人なのです。自治体が消滅するということは、法人としての自治体が無くなることを意味します。通常は、法人格を失うのは合併のときです。合併は、従来の市町村を消滅させて、新しい市ないし町をつくる行為のことです。町村の人口規模はどこにも規定されておりませんので、数百人で自治体を維持できないわけではないと思います。

    もちろん、人口が減り続ければ、その存続が危ぶまれる可能性もでてきます。しかし、町村長や議会の議員、住民の皆さんが、どんなに苦しくなっても自分たちの自治体を守るという覚悟を持っていれば、絶対に町村は消滅しないのです。どんな時に消滅するかというと、もうこれ以上自分たちの自治体を支えるのは無理だ、お手上げだ、と気持ちが萎えてしまった時です。ですから、ここに参集されておられる町村長、またこれから町村長になられる方々が、どんなに苦しくとも絶対に自分の自治体は消滅させない、という強い意志を決めてくだされば、自治体は消滅しません。そのことが大事だと私は思っております。

    とはいえ、そういった覚悟だけでは事は済みません。頑張らないといけないこともあります。ですが、町村は既に高齢化のピークを経験し、2040年ごろの深刻さを経験していますので、どう頑張ればいいかが大体見えているのです。危ないのは大都市の方です。その大都市を、町村の知恵で支える時代が訪れると私は思っています。

    今まで町村は、過疎や中山間の地域を抱えて条件不利地域だと言われてきました。ところが、そういう町村地域からたくさんの若者たちを吸収しながら、その若者たちが安心して子どもを産めない地域はどこかというと東京圏なのです。東京圏は、出生率が最も低いという点では条件不利地域に変わってしまっているのです。この東京圏の問題を解決できなければ、我が国全体としての人口減少に歯止めがかかることはないのではないかと思います。

    このところ注目に値するのは、特に若者や女性に見られますが、便利で快適だと思われている東京などの大都市から農山漁村地域へ向かう人の流れが起こり始めていることです。田園回帰の現象こそが、全国の農山漁村地域の価値を表していると思います。外から入ってくる人たちを温かく迎え入れて、新しい地域をつくっていく、そういう取組こそが、大都市と共に生きる町村の姿ではないかと考えます。

    もう一つ大事なことがあります。総務省の「自治体戦略2040構想研究会」が、第一次、第二次の報告を出し、それを受けて現在の第32次地方制度調査会が始まっていますが、少し気になっている点がありますのでお話ししたいと思います。2040年に団塊ジュニアが65歳以上になります。その頃、人口は約1億1千万人、現役世代が減り、高齢者数が約4000万人になると推計されています。「多死社会」が到来します。このような事態にどのように対応すればいいかということを考えなければならない。総務省の報告書は、2040年に向けて自治体行政(OS)の書き換えという考え方を打ち出しています。OSというのは、自治体行政の運営・管理の基本的な手法のことです。大きく、スマート自治体への転換、公共私によるくらしの維持、圏域マネジメントと二層制の柔軟化、東京圏のプラットフォームが提案されています。このうち、圏域マネジメントと二層制の柔軟化は、扱い方によっては、町村に大きな影響が及ぶのではないかと考えますので、それを申し上げておきたいと思います。

    人口減少時代がやってきて、仕事はあるのに人がいないという人手不足の状態が起こっています。従来の仕組みを変えないまま、働き手を確保しようとしますので、人手不足が起こるのです。ご承知の通り、この人手不足に、早急に手を打とうということで、政府は出入国管理法を緩めようとしています。在留資格を新設して外国人労働者を増やそうとしています。人手という点で人口減少に対処する方法は、一人ひとりが頑張って従来以上の働きをするというのが1つ、2つ目には省力化の推進で、AIを含めた様々な機器に置き換えていくことで、そして、3つ目に労働力を外国から入れるということです。

    この外国人住民の増加は、全国の市町村に大きな影響を及ぼすことになると思います。我が国の国籍法は血統主義をとっています。子が生まれたときに父または母が日本国籍を持っている場合には、その子どもに国籍を与えるという考え方です。通常は、両親も日本国籍を持っていて、この夫婦が産み育てた子ども達が次世代を構成すると考えてきました。これを日本人人口と呼びます。この日本人人口が減り始めているのです。何とかして、歯止めをかけようとしていますが、減り続ける人口を賄いきれないため、外国人の働き手を増やそうとしているのです。

    地域に入ってきた外国人の住居、防災、教育、医療・福祉問題、税金などの問題に関し、市町村の苦労はこれから増えると思います。それでも、外国から来て、我が国のために働いてくれる外国人とどうやって仲良くできるかというのが新しい課題になると思います。地域では「多文化共生」や「ダイバーシティ」といっていますが、相当に困難や苦労が多くなると思います。日本は「多民社会」になっていく可能性が出てきました。

    このように人手不足に手を打っても、今後、個々の市町村が施策のすべての分野を手掛けるというフルセット主義は無理で、そこから脱却して、「圏域」という行政体制を考える必要があるというわけです。市町村合併は無理なので「連携」でいくしかない。中心となる大都市に調整権限を付与し、圏域を構成する市町村が協力して、必要なサービスを確保していくという発想です。具体的な制度設計はこれからですが、少なくとも、町村にとっては、「それならば」と納得できるような方法を国にはとってもらいたいものです。一律に同じような仕組みを全国化することは避けてもらいたい。その声を大にして国に働きかけていただきたいと思います。

    圏域行政の標準化が進む可能性がありますが、すべての自治体が大都市に接続しているわけではありませんので、そういう町村についてはどうするのかというと、都道府県が補完・支援する仕組みにするというのです。それを「二層制の柔軟化」と呼んでいます。それはそれで考えられるかもしれませんが、自治体行政の書き換えというのであれば、都道府県の体質を変えることが先決ではないかと思います。

    どのように変えれば良いかということですが、今までのように都道府県は国のために存在するのではなくて、「市町村のために存在し、市町村を補完・支援することが、都道府県という広域自治体の任務である」というように都道府県の運営基準を変えてもらいたい。そのことによって、どんなに小規模な町村でも、どんなに財政力が小さい町村でも、その首長と住民が自分達の自治を守っていきたいと決心しているのなら、そういう町村の存続を守るんだというように考え方を変えてもらいたい。そうすることで都道府県と市町村は、真に「対等・協力」の関係を築くことができると思います。このことを声を大にして都道府県と国に要請していただきたいと思います。

    最後に、今回の地方制度調査会の総会で、荒木会長は、「今後国が様々な改革をやるにあたり、押しつけではなく、選択可能な制度を作り、自治体が主体性を持って選択出来るようにすることが重要である」と発言されました。私もその通りだと思います。荒木会長のもとで皆さま方には、この点を強く国に求めていってほしいと思います。そして、農山漁村、町村が滅べば東京に代表される大都市は滅びるんだという認識を国是として打ち立てていただきたいと切に願っています。

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