借金大国・日本(土屋剛俊)

日本は経済大国です。GDPは世界第3位(2021年)で、治安もよく、日米安保条約でアメリカが守ってくれるはずなので、他国に侵略されて滅ぼされてしまう可能性も低いと思われます。したがって、今すぐに日本円が紙くずになる可能性は低そうです。
では今の日本で、何が起きると日本円が紙くずになってしまうのでしょうか。
実はこの問題については世界中の経済学者やエコノミスト、政治家、投資家、アナリスト、ジャーナリストなどが長い間ずっと議論しています。
この議論で怖いのは、自分の意見と違うことを主張する人を、経済学の基本すらまるでわかっていない最悪の人間として、人格否定をするような発言が多くみられることです。
物事にはいろいろな考え方があり、自分とは違う意見も尊重したらいいと思うのですが、一向に収まりません。
主な論点は、次のふたつです。
「大丈夫、政府はいくら借金しても問題ない」
「借金しすぎるといずれ返せなくなって破綻する」
この真逆のふたつの意見が対立しています。前者の代表はMMT推進派の人達、後者の代表は財務省です。
MMTとは現代貨幣理論と言われ、ざっくりいうと、「政府は自国通貨、つまり日本なら円での借金ならいくらしても大丈夫、なぜなら政府はお金を刷れるから」、という考え方です。政治家はMMTの「借金はいくらしても大丈夫」という理屈が大好きです。「増税しません。必要な財源は借金でまかないます。だっていくら借金したって平気だから」と選挙で言えるからです。
この論争に決着がつかないのは、最終的には「日本人がこの国を信用しなくなって見捨てるかどうかがわからないから」ではないかと思っています。日本人が将来的に日本を信じなくなるかどうかは、なってみないとわかりません。だからこそ、日本が破綻するリスクについての論争も、いつまでたっても決着がつかないのでしょう。
しかし、「日本を見捨てるかどうか日本人が迷うくらい」追い込まれているのは事実です。「日本という国が国民から信頼されなくなってしまうのではないか」という心配に対して、「外貨で借りてないからいいんだよ。円で借りてるから印刷機で刷れるでしょ」と説明するのは論点がずれているということです。
では、具体的に、「日本という国が国民から信頼されなくなってしまう」状況とはどういう状況でしょうか。それは、「国民が貯めたお金の価値がなんらかの形で失われること」です。国債が満期日に償還されない(元本が返ってこない)ことがストレートでわかりやすいですが、それ以外にももちろん起こります。
日本の借金はハイペースでずっと増え続けています。ざっくりと毎年約30兆円くらい増えていっているのです。毎月2.5兆円だと、1週間で5800億円、1日で820億円、1時間で34億円というすさまじいスピードです。国が借りたお金を返さず残っている国債を、国債の残高といいますが、現在約1000兆円くらいです。もしここで、平均借入金利が1%上がると利払いだけで10兆円が増加することになります。
もし新規に国債発行するのをやめて増税で賄おうとすると、消費税を25%にしてようやく借金が増えない状態になります。自分なりに「日本円はそのうち日本人の信頼を失い、紙くずになってしまうだろう」と思われた人は、ご自身の現金をドルなどの外貨に替えておかれるといいでしょう。

8 thoughts on “借金大国・日本(土屋剛俊)

  1. shinichi Post author

    かつて日本政府は借金帳消しのために円を紙くずに変えた…世界最悪の借金大国・日本の避けられない末路

    「国は借金をいくらしても大丈夫」は本当か?

    by 土屋剛俊

    PRESIDENT Online
    ※本稿は、土屋剛俊『お金以前』(日経BP)の第6章〈日本の経済は今どんな状態なのか〉を再編集したものです。

    日本政府は対GDP比で世界最悪の借金(債務)を抱えている。この借金は本当に返せるのか。金融アナリストの土屋剛俊さんは「戦後の日本は、戦費で膨らんだ借金を帳消しにするため、急激なインフレで円を紙くずに変えたことがある。そして現在の日本の借金は、当時よりも多くなっている」という――。

    https://president.jp/articles/-/66532

    **

    日本円が紙くずになるタイミングはあるのか

    第1章で触れましたが、基本的に紙切れでしかないお金の価値を支えているのは、「その紙切れには価値があるとみんなが信用すること」です。つまり、みんなが信用し続けている限りでは、紙切れの価値は維持できることになります。

    では、少子高齢化が決定的な、日本円という紙切れに対する国民の信頼はいつまで続くのでしょうか。

    本章では日本が破綻し、円というお金が紙くずになってしまう可能性について考えてみます。

    日本は経済大国です。GDPは世界第3位(2021年)で、治安もよく、日米安保条約でアメリカが守ってくれるはずなので、他国に侵略されて滅ぼされてしまう可能性も低いと思われます。したがって、今すぐに日本円が紙くずになる可能性は低そうです。

    では今の日本で、何が起きると日本円が紙くずになってしまうのでしょうか。

    「借金をいくらしても大丈夫」は本当か?

    可能性がいちばん高いのは政府が借金をしすぎて、破綻してしまう場合です。

    実はこの問題については世界中の経済学者やエコノミスト、政治家、投資家、アナリスト、ジャーナリストなどが長い間ずっと議論しています。

    この議論で怖いのは、自分の意見と違うことを主張する人を、経済学の基本すらまるでわかっていない最悪の人間として、人格否定をするような発言が多くみられることです。

    物事にはいろいろな考え方があり、自分とは違う意見も尊重したらいいと思うのですが、一向に収まりません。

    主な論点は、次のふたつです。

    「大丈夫、政府はいくら借金しても問題ない」
    「借金しすぎるといずれ返せなくなって破綻する」

    この真逆のふたつの意見が対立しています。

    前者の代表はMMT(現代貨幣理論)推進派の人達で、後者の代表は財務省です。

    MMTとは、とてもざっくりいうと、「政府は自国通貨、つまり日本なら円での借金ならいくらしても大丈夫、なぜなら政府はお金を刷れるから」、という考え方です(注)

    このテーマは選挙のときもいつも話題になります。

    政治家はMMTの「借金はいくらしても大丈夫」という理屈が大好きです。それはそうですよね。「増税しません。必要な財源は借金でまかないます。だっていくら借金したって平気だから」と選挙で言えるからです。

    (注)MMT理論について
    本文中の説明はかなり乱暴なものです。もう少し説明すると「財政支出は中央銀行のファイナンスによって貨幣化される限りにおいては債務ではない」という考え方です。さらに推し進んだ意見を聞くと、神学論争というか哲学の領域にまで行ってしまっていると私は感じます。

    「日本人が日本を信用しなくなるかどうかはわからない」

    それにしても、どうしてこんなに両極端な議論を延々と続けているのでしょうか。

    「こっちが正しい」という結論はでないのでしょうか。

    私はこの問題を20年以上考えていて、さまざまな意見や論文を読んでもみましたが、この論争に決着がつかないのは、最終的には「日本人がこの国を信用しなくなって見捨てるかどうかがわからないから」ではないかと思っています。

    会社が倒産するときを考えてみましょう。

    ある会社が、業績が悪くなり赤字が続いて、現金がどんどん会社から出ていったとします。しかし、そんな会社でも、誰かが無尽蔵にお金を貸してくれている限りは絶対に倒産しません。

    会社が倒産するのは、誰もお金を貸してくれなくなるときです。とてもシンプルです。

    日本という国についても、このように「誰かがお金を貸してくれる」=「日本人は何があっても日本を見捨てないから大丈夫」ということでしたら破綻しません。しかし「こんな国は、もうお金を貸してもだめだ」と思われればそれまでです。ちなみに、ここでの「お金を貸してくれる」とはざっくりと「国債が売れる」という理解で大丈夫です(細かくはいろいろあります)。

    日本に対する信用は感情的で読みづらい

    日本人が将来的に日本を信じなくなるかどうかは、なってみないとわかりません。

    だからこそ、日本が破綻するリスクについての論争も、いつまでたっても決着がつかないのでしょう。

    「あの人がどんなに借金しても、愛し続けてくれる。あの人は私を見捨てない」
    「いや、さすがにそこまで借金まみれだと、もう離婚されるだろう」

    このふたりの意見のどちらが正しいかは、相手に聞いてみなければわかりません。

    相手の気持ちを想像していくら論理的に議論しようとしても決着はつかないでしょう。

    しかし、この相手が追い込まれているのは事実です。

    「日本を見捨てるかどうか日本人が迷うくらい」追い込まれるとは具体的にどういうことかについては、このあと紙面を割きます。ここでは、日本人が日本を信用しなくなるかどうかは、感情的な問題なのでほぼ読めない、ということをお伝えしておきたいと思います。

    こういう状況であると理解した上で、では、自分なりに考えるとしたら、あなたはどうしますか?

    たとえば、自分なりに「日本円はそのうち日本人の信頼を失い、紙くずになってしまうだろう」と思われた人は、ご自身の現金をドルなどの外貨に替えておかれるといいでしょう。

    中国人は自国の元を信用していない

    ちなみに自国の通貨を信用していない国民として有名(?)なのは、中国人です。

    中国人は基本的に自国の通貨を信用していないところがあり、お金がたまると外貨に替え、財産の保全を図ろうとします。

    国もそのことはよく知っているので、中国の元はドルなどの外貨に替えることが強く規制されています。何もしないでいると、どんどん元を売ってドルに替えてしまうからです。

    現在、中国政府は仮想通貨(暗号資産)を全面禁止にしています。これは中国政府が仮想通貨の危険性に気がついたからではなく、国民が元以外の通貨に財産を替えようとするのを防ぐのがいちばんの目的だと私は思っています。

    これまでは世界中の国で、蓄積方法として米ドルを一定量持つのが当然でしたし、グローバルな貿易に関しても決済通貨に米ドルを使うというのが一般的でした。

    ところが、ウクライナ戦争によりロシアのドル資産がアメリカに凍結されるなどの動きがあり、ロシアが中国に原油を売るときの決済通貨がロシアルーブルになったり、アジア諸国間での決済が元で行われるようになるなどしています。

    つまり、元に対して基軸通貨としての役割が高まってきていて、米ドル一強の状況が少し変わってきています。

    会社や個人の破綻と国家の破綻は意味合いが異なる

    「国レベルでの破綻」とはどういうことかを考えるときに非常に重要なポイントがあります。

    それは、会社や個人の破綻と国ではまったく事情が異なるということです。ここを一緒にしてしまうと、議論が混乱するのでぜひ次に説明することを覚えておいてください。

    普通の会社や個人であれば、決められた期日に約束したお金を用意できなければアウトです。

    ところが国であればお金を刷ることができるので、自国通貨で借金をしている限り、どんな金額だろうと必ず返せます。民間企業が印刷機でお金を刷って借金返済したら大変な犯罪です。無期懲役になるかもしれません(注)

    (注)刑法 第148条
    1.行使の目的で、通用する貨幣、紙幣又は銀行券を偽造し、又は変造した者は、無期又は3年以上の懲役に処する。
    2.偽造又は変造の貨幣、紙幣又は銀行券を行使し、又は行使の目的で人に交付し、若しくは輸入した者も、前項と同様とする。

    「なんだ、じゃあ国は絶対に破綻しないじゃないか。安心した」と思うかもしれません。確かにこの説明で納得する人はたくさんいます。

    しかし、このロジックには穴があります。

    国の破綻リスクというのは会社や個人のように「決められた日にお金を用意できるかできないか」で議論してはいけません。

    「日本円はいつでも刷れる」は論点がずれている

    これまで何度も説明してきたように、日本の破綻とは「国民から日本円という紙の価値を信用してもらえなくなること」だからです。

    もし国の借金が自国通貨ではない場合は、国の破綻リスクも一気に事情が変わってきます。たとえば、新興国がドルで借金をしてしまったために返せなくなって国家が破綻してしまうという話はよく聞きます。それは外貨で借金をしてしまうからです。

    外貨で借金をするというのは、ある国の政府が、自分の国の通貨以外の通貨でお金を借りることです。つまり、印刷機でお札を刷るという必殺技があるかどうかは確かに大切で、それが使えなくなる状況では、個人や普通の会社と同じ状態になります。

    日本の場合も「日本は外貨で借金をしていないから大丈夫だ。米ドル建ての日本国債なんかないじゃないか」という意見もよく聞きます。それは一理あります。外貨で借金をしていない国は、相対的に破綻しにくいことは間違いありません。

    しかし、この議論で気をつけないといけないのは、

    「日本という国が国民から信頼されなくなってしまうのではないか」

    という心配に対して、

    「外貨で借りてないからいいんだよ。円で借りてるから印刷機で刷れるでしょ」

    と説明するのは論点がずれているということです。

    では、具体的に、「日本という国が国民から信頼されなくなってしまう」状況とはどういう状況でしょうか。

    第二次世界大戦後に日本政府が取った「禁じ手」

    「日本という国が国民から信頼されなくなる」ときはどういう状況なのでしょうか。

    それは、「国民が貯めたお金の価値がなんらかの形で失われること」です。

    国債が満期日に償還されない(元本が返ってこない)ことがストレートでわかりやすいですが、それ以外にももちろん起こります。

    戦後の日本政府が取った動きが参考になりますので見ていきましょう。

    第二次世界大戦の戦費が膨大で、借金が多かった日本は、禁じ手を使い、日銀に国債の引受けをさせました。自由にお金を刷ったわけです。そして、お札が急増したこともあってとてつもないインフレになりました。

    このインフレは、月に100%上昇するという驚異的なレベルでした。1カ月で持っている現金資産の価値が半分になったのです。この事態をなんとかしようとして、政府は「今持っているお金は使えないことにします。新しいお金に換えないと紙くずになります。交換して欲しければまず、持っているお金を全部銀行に持ってきてください」としました。第1章でお話をした、新円切り替えです。

    多くの日本国民がほとんどの財産を失った

    それまで、国民は自分のお金を守る(隠す)ために、結構な量の日本円を自宅のタンスの中にしまって保管していました。もちろん、銀行に預けているといくら持っているか国にわかられてしまうため、国家に取り上げられてしまうリスクがあったからです。

    しかし、「そのまま持っていると紙くずになるぞ」と脅されたのではしょうがなく現金を銀行に持っていきます。

    そしてそのまま政府は、無理に預金させたお金を封鎖しました。

    お金はほとんど下ろせなくなり、その上、持っている資産に対して強烈な比率で没収していきました。たとえば、当時のお金で1500万円以上持っている人は、9割も国に持っていかれるということにしてしまったのです。

    このプロセスはすべて国家が国会で法律をつくって行いました。つまり正しい手順を踏んで実行されたのです。ですので、国のデフォルトでも不履行(いずれも約束通りに期日にお金を返せないこと)でもなんでもありません。

    正しい手順ではありましたが、この結果、日本国民はほとんどの財産を失いました。この新円切り替えに比べると、国債がデフォルトをして、国債を買った人だけが損する方が余程ましです(もちろん、国債がデフォルトするようなことがあれば波及効果がすごいでしょうから、それだけですむはずはありませんが)。

    現在の日本の台所事情は戦後よりもひどい

    このように、国民の財産を大変な勢いで没収し、大惨事を引き起こした「国の借金」は当時いくらだったのでしょうか。

    どれくらいの規模だったのかというと、GDP745億円に対して国債は1175億円でした。GDPの1.6倍弱くらいです。

    では、現在の借金の状況を見ていきましょう。

    【図表1】日本の国債とGDP
    出所=『お金以前

    国と地方で合計1300兆円、対GDP比は2.5倍となっています。つまり、戦後の新円切り替え時よりひどいのです。しかも、世界でくらべてもかなり多いことがわかります。

    もちろん、リーマン・ショックをはじめ、さまざまな不況の要因があったので、景気を支えるために仕方なく借金したこともあります。しかし、日本の借金はハイペースでずっと増え続けています。ざっくりと毎年約30兆円くらい増えていっているのです。

    毎月2.5兆円だと、1週間で5800億円、1日で820億円、1時間で34億円というすさまじいスピードです。

    国が借りたお金を返さず残っている国債を、国債の残高といいますが、現在約1000兆円くらいです。もしここで、平均借入金利が1%上がると利払いだけで10兆円が増加することになります。

    もし新規に国債発行するのをやめて増税で賄おうとすると、消費税を25%にしてようやく借金が増えない状態になります。しかし、現在より15%も消費税を値上げするのは現実的ではありません。

    現在では新型コロナの影響もあってさらに借金が増えました。営業自粛したお店への補塡ほてんや人件費の補塡、ワクチン代などでどんどんお金をかけています。いかに日本が借金が多いかわかっていただけたでしょうか。

    Reply
  2. shinichi Post author

    (sk)

    短期的に考えて、「大丈夫、政府はいくら借金しても問題ない」と言うか、中長期的に考えて「借金しすぎるといずれ返せなくなって破綻する」というか。それが問題だという。

    すこし長いスパンで考えれば「日本円はそのうち紙くずになってしまう」のだし、「南海トラフ地震」や「首都直下地震」といった大地震も、いつかやってくる。

    ただ、気を付けたいのは、こういう「国難がやってくる」的な考え方だ。「日本円を紙くずにしてしまう」を「日本円が紙くずになってしまう」にすり替えてしまう。それは犯罪ではないか。

    「大丈夫、政府はいくら借金しても問題ない」という意見は中長期的に考えれば間違っていて、「借金しすぎるといずれ返せなくなって破綻する」ということを、もっとはっきり言ってもよいのではないか。

    Reply
  3. shinichi Post author

    お金以前

    by 土屋剛俊

     

    ★ほかのことは分かるのに、お金のことだけ分からない人へ★

    ★お金で必要なのは、根本的な知識★

     お金のことを知りたいと調べたときに、「こういう細かいことではなく、そもそもなんでここに投資すべきなのかを知りたい」
    「もっと根本的にお金について知りたい」
    などと思ったことはないでしょうか?

     この本のゴールは、あなたのお金のリテラシーをあげることです。
     資産防衛や投資、住宅ローンや老後のための貯金など、行動する前に知っておくべきことは山のようにあります。
     しかし、現在お金に関することは複雑で多岐にわたり、そもそもをわかりやすく説明することは意外に難しいことです。
     また、金融の世界には一流の投資銀行から非合法の闇金にいたるまで幅広い世界が広がっており、金融知識のない人につけこんで稼ぎたいと思う人たちの餌食にされることは避けなければいけません。

     この本は、30年以上世界の一流金融機関で投資に携わってきた著者が、「お金のそもそもをどう説明したらいいか」をずっと考えて生まれた本です。
     お金のリテラシーを上げる上で一番大切なのは、何よりも「一般常識を増やすこと」だと著者は言います。
     本書には具体的な投資の話から、日本のバブルなど歴史までを取り上げます。
     読んでいるうちに、全体的なお金のことを考える基礎体力がつく本です。

     お金の楽しい知識を得ながらも、いつの間にか自分の生活に関するお金の判断もできるようになりたい方への一冊です。

    目次

    序章 お金のことを知るなら「資本主義」から
    ・すべての判断の根底はあなたの「プライシング」
    ・「巨大な搾取システム」である資本主義をまず理解する
    ・「株式会社」の発明は、経済の転換点 第1章 「お金」の本質を知っておく
    ・お札が自由に刷れるなら、たくさん刷って税金をゼロにすればいいんじゃないの?
    ・銀行の存在により「お金」は実は、紙切れ以下

    第2章 証券会社、銀行、保険会社のセールスの話は聞かない方がいいのか
    ・頭のいい人でもよく損をする

    第3章 「お金を借りること」の本当の意味
    ・借りる側は恐怖、貸す側は大儲け、「複利」を知ろう!
    ・家を買うときは「変動か固定」どちらで借りるのがいいか

    第4章 投資以前 行動する前に知っておくべきこと
    ・投資の基本は「短期の上げ下げは気にしない」ことと、世の中の動きを見ること
    ・FXはルールが簡単そうに見えるが、勝ちは少なく損をするときはあっという間

    第5章 外国(特にアメリカ)に投資するとはどういうこと?
    ・アメリカのインデックスは今安心だけど、未来永劫続くとは限らない

    第6章 日本の経済は今どんな状態なのか
    ・このままだと破綻すると言われている「日本経済」は、現在どういう状況なのか
    ・国債は国の借金なのに、日本人が返さなければならない
    ・「経常収支」を見れば、国全体の様子がわかる

    第7章 本当の「景気」を読む
    ・GDPは政治で人為的に増やすことができる

    第8章 歴史から学ぼう!
    ・日本のバブル崩壊が、現代の日本経済に致命的な影響を与えた
    ・アメリカのブラックマンデーとは何だったのか
    ・リーマンショックをおさらいして「長い目で世の中を見る」とはどういうことかを知る

    Reply
  4. shinichi Post author

    【はじめに】

    お金について自分で考えられる力をつけることは、けっこう難しい

     私は、長年金融の仕事をしていることもあって、プライベートでもお金や投資に関する相談をよく受けてきました。
     そこで思うのは「わかりやすく説明することは、けっこう難しい」ということです。人それぞれ収入が違うのはもちろん、何にお金を使うか、ひいてはどんな人生を送りたいのかという価値観はまったく違います。
     結局はみんなが根本的にお金のことをわかって、自分で判断できるようになるのがベストなのですが、その「根本的に説明する」ことが、けっこう難しいのです。何でもそうだと思うのですが「そもそも」を説明することは、力量のいることです。

     私が相談を受けた中には金融機関の営業マンに勧められるがままに、大切なお金を必ずしも適切でない先に投資している人もいました。証券会社や銀行、あるいはネットの情報などは、それぞれの立場で自分達の利益が最大化されるような商品を「売ろう」としています。その立場からすれば当然の行動なので、一方的には責められませんが、それにしてもお金の知識さえあれば防げることも多いでしょう。
     金融の世界には一流の投資銀行から非合法の闇金にいたるまで幅広い世界が広がっています。そんな中では、「大切なお金を将来や家族のために少しでも増やしたい」という気持ちにつけこまれたり、あるいは、金融知識のない人につけこんで稼ぎたいと思う人たちの餌食にされることもあります。それは本当に避けなければなりません。
     そういうときこそ信頼できるプロに相談したいのですが、プロの人達もまた、お客さんからもらう手数料で生活しています。場合によっては、本当にお客さんのためを思ったアドバイスはしたくてもできないということもよくあります。
     このように、「お金に対してしがらみなく正しい情報を得る」ことはけっこう難しいのです。その上、やはり「根本的にお金のことを説明する」ということも難しいもので、専門家の私すらも、一体どこからどう説明したらいいのか悩むのですから、お金のことを知らない人は二重に情報の罠にはめられているようなものです。
     私は長きにわたって金融の世界に身を置いてきました。つまり、お金のことばかり30年以上考えてきました。

     海外でドル円の為替ディーラーの見習いから始めて、金利デリバティブなどを使った商品設計と販売、企業買収に関する与信の提供やその管理、調査部門でクレジットアナリストとして個社の分析や投資ストラテジーの作成、社債やローンのトレーディングなど、信用リスクに関わる仕事は一通り経験しました。業務内容を簡単にいうと、「この会社にお金を貸してもいいのか、この会社が倒産する可能性はどのくらいあるのか」をさまざまな状態から判断する仕事です。現在は独立して、クレジットに投資する運用会社の社長をしています。
     また、実際に「お金」が時代を変化させてきた様子も目の前で見てきました。
     バブルも、その崩壊も、日本の金融危機も、ITバブルも、リーマン・ショックも、東日本大震災後の混乱も、すべてその最前線にいました。
     こうやって何十年もこの世界にいてはじめて、ようやく根本的な「そもそも」を少し説明できるようになったのではないかと思います。

     お金についての情報は、ネットや本でさまざま出ています。
     ただ、「これを買えばいい」「あれはやめた方がいい」という表面的な説明が多く、もし未来に変化があった場合、どうしたらいいかが分かるものは少ない印象です。
     しかし、直近のこの円安傾向といい、お金の世界が動かないときはありません。
    「こうするのがいいって聞いたから」ということでは、実は嵐の中で船に乗っているのに、自分は安全だと思って小さな財布を握りしめているようなものです。
     きっと、みなさんの中には、「NISAで何を買うの?」とか「どこに投資したらいいの?」などといった細かい質問よりも、「そんなことは調べられるから、むしろ根本的なことを教えてほしい」と思っている人もいるはずです。

     私は長い間、大手金融機関のサラリーマンをしてきましたので、会社の利益にならないことをあえて世に出すのは控えてきましたが、独立開業するに至り、ようやく自由に説明ができる立場になりました。しがらみのない意見をお読みいただければと思います。

     この本のゴールは、みなさんのお金のリテラシーを上げることに尽きます。本のタイトルは『お金以前』です。つまり、投資や、住宅ローンをはじめとした何かのローン、老後の貯金など、お金に関する行動をする前に(もちろん途中でも!)ぜひ読んでほしいと思っています。
     本書では、株式投資にはどういう態度で接すればいいかや、NISAは国が税金をとらない分だけ確実に有利とか、住宅ローンの根本のことや、FXは最も当てるのが難しい、などといったことももちろん書いていますが、「そもそも資本主義を理解しよう」や「金本位制とは何か」「日本経済の低迷を知るにはまずバブルを理解する」などといったことも含んでいます。

     本編でも書きましたが、私は、「お金を増やす」ことでいちばん大切なのは「一般常識を増やす」ことだと思っています。「これって絶対変だな」と気づけるようになるのがいちばんです。
     また、お金の世界を知ることは大変楽しいことでもあります。
     アメリカや世界で起こったことが、私たちの生活とつながっているのです。本書を読んだあと、ニュースを見たら、きっとその裏側まで思いをはせることができるようになっているでしょう。お金のことを教養として知るのは楽しいと思います。

     この本は、お金の楽しい知識を得て、いつの間にか自分の生活に関するお金の判断もできるようになるという一粒で二度おいしいお得な本を目指しています。
     お金の「そもそも」をどう説明したらいいのか、と私がずっと考えてきた結果が本書です。
     たとえば、第8章はお金の歴史の話です。「歴史なんて関係あるの?」などと思う方もいるかもしれません。しかし、お金のことを知るということは、とても広い知識と教養が必要なのです。

     お金の初心者にとっては、この1冊でもかなりの知識と理解を得られると思いますが、この本をベースにして、もっともっとお金に興味を持っていただきたいと思います。皆様のお金に関するリテラシーが上がって、その結果皆様の生活や人生が少しでも豊かになるなら、それに勝る喜びはありません。

    Reply
  5. shinichi Post author

    こんなに暴落したのだから、そろそろ買いのはずだ…投資で損をする人たちが誤解している「お金以前」の常識

    投資になると「1玉10万円のキャベツ」を買ってしまう

    土屋 剛俊
    PRESIDENT Online
    ※本稿は、土屋剛俊『お金以前』(日経BP)の一部を再編集したものです。

    投資で資産を失ってしまう人の特徴とは何か。ファンドマネージャーの土屋剛俊さんは「キャベツを10万円で買う人はいない。ところが株になると、適正価格を調べずに『言い値』や感覚で買ってしまう人がいる」という――。

    https://president.jp/articles/-/66528

    「お金」にもルールは存在する

    現代の資本主義社会では、お金はあたりまえにあるものです。

    ところがあたりまえすぎて、いつもの生活の中で「そもそもお金ってなんだ?」というようなことはわざわざ考えないのではないでしょうか?

    「そもそもお金ってなんだ?」と考えようと言われても、一体何を考えたらいいのかわからないかもしれません。そのくらい、私たちは生まれてからずっと、お金があたりまえの世界に生きています。

    しかしそれは、ルールを知らずにカジノに行くようなものです。

    カジノにそんな状態で行ったら、負けて損するに決まっています。ルールを確認しないでカジノに行く人はいません。

    ところが、現代の資本主義社会ではお金はあたりまえなので、ルールを気にしない人も多いです。それはとてももったいない話です。

    ルールを知らずにカジノに行くと損をするのは当然

    具体的にはどういうことでしょうか。ここで、お金のルールを勉強しないで、カジノに行くような人の例を考えてみましょう。

    これは、大きな会社でバリバリ勤めあげた、見識のある人の例です。

    ある証券マンから「この株はとてもいい会社の株です。利益も多いし、みんなが欲しがる商品をつくっています。今買うときっと上がりますよ」などと言われました。

    話を聞いている限り、その証券マンも信頼がおけそうな人に見えます。「なるほど、じゃあ買おう」と買ってしまい、その後株価が下落して大損してしまいました。こんな例はよく聞きます。

    これは何が原因でおきてしまったのでしょうか?

    1玉10万円のキャベツを買う人はいない

    この例では、証券マンが値下がりする銘柄を勧めてしまったことが直接の原因ですが、いちばんの問題は何よりも重要な「その株はいくらであるべきか」ということを自分で考えずに買うという判断をしてしまったことです。

    たとえば「このキャベツは最高においしいので買ってください」といわれたとします。最高においしいキャベツだと、ぜひとも買って食べたいところですが、もしそれが1玉10万円だったとしたらはたして買うでしょうか?

    買いませんよね。じゃあ30円だったらどうでしょう。

    それだと買いです。

    では300円だったら?

    買わない人もいたり、ちょっと考えてもいい、という人もいるというところでしょうか? 生産方法や産地、つくり手などを確認しなければ、という人もいるでしょう。

    これら、おのおのの適正価格を決める作業はプライシングと呼ばれます。キャベツなら、みなさんこれくらいの精緻なプライシング(値決め)はごく一般的にしているでしょう。

    つまり、プライシングとは買う対象の値段に対して、知識と自分の意見がちゃんと背景にあることをいいます。ここで重要なのは、300円のキャベツを買う人も買わない人もいるように、あなた自身のプライシングに、自分の価値観が反映されるべきだということです。

    ところが株の話になると、言い値で買うというとんでもないことをする人が突然増えます。「とてもおいしいキャベツ」といわれて、値段を考えずに1玉10万円で買うようなものです。

    金融リテラシーが低い人が投資に持っている思い込み

    このように、知識と自分の意見が背景にあるプライシングは、とても重要です。こんな値段でキャベツを買うお客さんを探すことは極めて困難です。しかし、株の世界では比較的簡単です。

    それは金融リテラシーが低い人がいるからです。

    実は金融リテラシーが低い理由のひとつに「投資というものはお金を増やすものだという思い込み」があります。どういうことでしょうか。

    キャベツを買うときに値段に慎重になるのは、それが「確実にお金が減る行為」だからです。大事なお金を減らしてキャベツを買うのですから、むだ遣いはしたくありません。

    ところが、投資というのはもちろん「今のお金をもっと増やそうとする行為」です。

    お金を増やすためにやっているのですから、キャベツを買ってお金が減るのとは違います。いつもとガラリと違うことをするべきだと思っているのです。

    しかし、キャベツを買えば必ずキャベツが手に入りますが、投資に失敗して値下がりした株を売れば、「お金が減っただけでなにも得るものがない」という状況に陥ります。

    勉強や努力をせずにお金を減らしてしまう人が後を絶たない

    投資とは「大事なお金が減るリスクの代償として、増えるチャンスも得る」という行為です。これを、そもそもの大前提として覚えておきましょう。

    特に多いのが、定年退職して収入が激減し、将来が心配なので大事な退職金を増やさなければならない、だから投資しよう、という人です。もちろん将来が不安だから、仕事をやめる前から投資をしようという人もいるでしょう。

    そのとき、金融機関のアドバイスにそのまま従って投資してしまう人や、きちんと勉強せずに金融商品をネットなどで買ってしまう人もいます。

    これだって、プライシングを考えると、なけなしの退職金を減らすなど絶対に許容できないはずです。しかし、ちゃんと勉強も努力もせずに、すすめられるままに投資をし、大切な大切なお金を大きく減らしてしまうという例がなくなりません。私もよく相談を受けますが、本当に残念なことです。

    「お金の知識」なしに生きるのは無謀すぎる

    ここまでは株式投資という卑近な例です。

    ほかにも、社会で生きていく上で重要なお金の知識はたくさんあります。

    一生でいちばん高い買い物である不動産もそうですし、会社でどうやって働くのか、どういった政党に投票すべきか、年金、保険なども基本的にはお金のしくみを理解することにつながっています。

    正しいお金の知識を身につけずに社会で生きていくことは、素手で戦争に行くようなものです。戦術も考えずにそんなことをすれば、負けて殺されるに違いありません。

    しかし、お金や金融知識は、学校や家庭ではきちんと習わないし、日本ではその習慣もないので、不十分なまま、社会に出ていく人が非常にたくさんいます。

    そして悪いことに、そういう人達は真面目で、いい人達だったりするのです。ただお金のことを知らないばかりに、大切なお金を減らしてしまう、そんなパターンを私はよく見てきました。

    世の中には「儲かる株の選び方」や「FX必勝法」などのコンテンツがあふれていて、それらには「何を買ったらいいか」「何をしたらいいか」はあっても、「そもそもなんでそれを買うべきか」「私はそれに対してどういう意見を持つべきか」まで深く理解できるものは少ないように思います。

    冒頭でも述べた何より大事な「あなたがどうプライシングするか」まで深く踏み込めるものは少ないのです。

    しかし、本質的なことを理解しておくことは、正しい投資をする上でとても重要です。

    「投資の知識」を過信しすぎるのも危険

    株式投資をするとしても、表面的なことだけ覚えて投資を始めてしまって、しかしその後国の経済が大きく変化して、大きなトレンドが変わっていることに気づかずに大損してしまうこともあります。

    先の例では、あるべき株価というものを考慮せず投資するという(でも世の中でけっこう見られる)投資のパターンをあげましたが、もう少しだけ勉強した状態を考えてみましょう。

    たとえば、「株の投資には目安があって、その会社の1年の利益の15倍くらいがよいのだ」ということは、基本としてよく学びます。これを覚えたとします。

    【図表1】単純な株価の計算の方法

    図表1のような1株あたりの利益が100円の会社の場合、売られている株価が1300円なら、あるべき姿より200円安いことになります。この人は、買いという判断をするでしょう。これは「あるべき株価はいくらか」ということを考えているだけ、随分と進歩しています。

    しかし、実はその国では深刻なインフレが進行して金利が上昇していたとします。そうなると1500円どころか本来は1300円でも高いということもあります。ここで、あるべき株価が1500円だと思っていると、1300円でも安いと思って買ってしまうかもしれません。

    これは、インフレが進行しているという世の中の大きな動きに気づいてないから起こる、判断ミスです。

    こういうことも、お金のことを基礎から知らないがゆえに起きるのです。

    感覚で投資してはいけない

    もう少し例をあげましょう。

    「昨日の株価から2割も下がったのでもう買ってもいいだろう」と判断することもよくあります。たとえば、先ほどの会社の株が何かの理由(画期的商品を開発したと投資家が思い込むなどで上がることはよくあります)で3000円まで上昇して、その後2割下落して2400円になったとします。昨日まで3000円だったものが、2400円になったのですから、割安に感じてしまいます。

    しかし、あるべき株価は1500円なのですから、2400円だったとしても高すぎる状態ということになり、ここで買うのは愚の骨頂です。

    「相対的な感覚で投資する」こともやめましょう。

    Reply
  6. shinichi Post author

    勝てても少額、負ける時は全額スるのがオチ…FX投資を「2分の1で勝てる」と考える人が根本的に間違っていること

    実は「上がる」か「下がる」かの丁半博打ではない

    by 土屋剛俊
    PRESIDENT Online
    ※本稿は、土屋剛俊『お金以前』(日経BP)の一部を再編集したものです。

    円やドルなどを売買する「FX」は、資産形成の役には立つのか。金融アナリストの土屋剛俊さんは「為替は上がるか下がるかしかない、だからFXも2分の1で勝てるように思えるが、それは違う。勝ちは少ないが負けは大きく、損するときはあっという間に賭け金をすってしまう。そして方向を合理的に当てることは不可能。それが典型例だろう」という――。

    https://president.jp/articles/-/66531

    FXは為替の変動に賭けるゲーム

    投資として、FXはどうか考えてみましょう。

    ここまでFXは、読みにくい、最も難しい投資であると言ってきました。しかしFXは、その難しさに関係なく、投資の一形態として定着しています。

    FXは為替の変動に賭けるゲームですが、投資対象としては不適切です。

    これにはふたつの要因があります。

    その1 レバレッジを掛けること
    その2 その結果、短期の相場変動に賭ける投資になること

    詳しく見ていきましょう。この1と2は密接に関係があります。

    まず、レバレッジを掛けるとは、要するに「借金をして投資をする」ということです。

    そもそもレバレッジとは「梃子てこ」という意味です。基本的に博打やギャンブルというのは自分のお金を賭けるものですが、手持ちのお金が少ししかないと、大きく儲けることはできません。レバレッジとは、大きく賭けるためにあります。

    99.9%の確率ですべてのお金を失ってしまう

    たとえば手持ちのお金が10円しかなく、勝ってもらったお金はすべて次の勝負の賭け金として使うという賭けをしたとしましょう。FXとは、この例のようなゲームです。

    そして、ルーレットの赤黒に10回賭けるとしましょう。為替は上がるか下がるかの二択ですので、赤か黒かに賭けるルーレットに似ているところがあります。

    奇跡的に10回すべて勝つとします。

    勝ち1回目 10円×2=20円
    勝ち2回目 20円×2=40円
    勝ち3回目 40円×2=80円
    勝ち4回目 80円×2=160円
    勝ち10回目 5120円×2=1万240円

    これだけ奇跡の連続が起こって、やっと1万240円の儲けです。

    このFX風ルーレットでは、勝ったお金はすべて次の賭け金として使っていますので、途中で1回でも負けると自分のお金はゼロになります。

    計算式は省きますが、この賭けは1024分の1023の確率で有り金がゼロになります。そして1024分の1の確率で1万240円になります。また、負けてすべてのお金を失う可能性は99.9%です。

    こんなに確率の低い勝負をする人はほぼいないでしょう。いても99.9%の確率で負けです。

    もし、1回だけの勝負なら勝てるかもしれないと思ったとします。それなら勝率は2分の1です。でも10円しか持ってないので、勝てても儲けはとても少ないです。

    ここで、レバレッジを効かせるべく、お金を借りたらどうでしょうか?

    FX業者は「博打の掛け金」を貸してくれる

    たとえば100万円を借りてみます。

    100万円を借りて1回勝負をしたら、2分の1の確率で勝ち、200万円になります。借りた100万円を返したとしても100万円の儲けです。

    しかし、これには問題があります。それは、負けたときに100万円を一気に損してしまうことです。負けると、いきなりまるまる借金が100万円になります。もし100万円を借りて車を買ったなら、100万円の借金があっても100万円で買った車が手元に残りますが、ルーレットで負けた場合は手元には何も残らず、借金の100万円だけが残ります。

    このような博打は大変危険だと思う人が多いでしょう。

    しかし、ざっくりいうとFXはこういう賭けと同じです。

    この博打には決定的な欠陥があります。お金を持っていない人に100万円ものお金を貸してくれる人を探さないといけないのです。そんなに都合よく、博打の賭け金を貸してくれる人はいません。

    しかし、この構造はそのままで、賭け金を貸してくれるというしくみを持つのがFXです。次にざっくりと説明してみます。

    レバレッジはお金を貸す側が損しないシステム

    たとえば全財産で1万円だけ持っている人がいたとしましょう。その人に99万円貸します。すると、その人の持ち金の合計は100万円です。

    そのお金で為替の勝負をします。為替レートはちょうど1ドル100円だとします。

    まずはその人は、ドルが値上がりすることに賭けました。そして1万ドルを買うことにしました。もしその後、1ドルが101円に上がると、1ドルにつき1円の儲けです。

    これを、1万ドル買っているわけですから全体では1万円の儲けになります。

    つまり、元手が1万円しかないのに、為替が1円動いただけで倍になったということになります。このままどんどんドルが上がって120円になったとしたら20万円の儲けになり、元手の20倍になります。

    さて、問題は値下がりしたときです。仮に10円くらいドルが値下がりしたとします。

    この時点で売却すると90万円です。100万円で買ったものを90万円で売るわけですので、10万円の損失になります。

    これではこの人は借金を返済できません。借りた人は自分のお金を1万円しか持っていないので、お金を貸した人は9万円を損します(焦げ付きといいます)。

    実は、FXにはこういう場合、もっと早く取引を解消して、お金を貸した人が損しないというルールがあります。

    お金を借りた方が耐えられる損失は、金額では1万円です。100万円分のドルを買っているわけですから、為替レートでいえば1ドル99円、つまり本来なら1円の値下がりにしか耐えられません。

    お金を貸した方は、それ以上損されると貸したお金を回収できなくなるので、損をしたらすぐ問答無用で買ったドルを売却します。最初の手持ちの1万円分のドルも含めてです。

    つまり、自分が賭けた方と反対方向にドルが1円動いただけで、全部の賭け金を失うというルールです。

    やる側が有り金をなくしてもFX業者は儲かる

    このように、FXには、お金を貸した方が取りっぱぐれないというしくみがあります。この構造を考えた人は、すごいビジネスセンスだと思います。

    FX業者からするとお客さんが有り金を全部すっても、自分たちはちゃんと儲かるようなしくみです。反対に、やる方はあっという間に元手を全部なくしてしまいます。

    ここでの例は計算を簡素化するために、レバレッジを100倍で計算しています。今は法律が改正され、レバレッジは元本の25倍くらいまでに制限されています。

    でも、「FXはルーレットのように運でやってはいない。きちんと為替の未来を読んでの投資ではないのか」という意見もあると思います。ただ、FXには、長い期間で大きな経済の流れを予想して為替の勝負をするという余裕はありません。極めて短期的な為替変動で勝負するしかないものです。

    為替というのは短期の相場変動を予想するのには極めて不向きです。為替の短期の変動は需給に大きく左右されますが、市場参加者が多すぎて、次の瞬間に「誰がいくらだけ売るのか、買うのか」は誰にもわかりません。そんなことを予想することは不可能と言ってもいいでしょう。

    短期の動きを当て続けるのはプロでも不可能

    また、為替には実需と投機があります。

    実需というのは原油を輸入するためにドルを買わないといけないとか、自動車を売った対価としてドルが入ってきて、それを円に替えるというような、文字通り実際の需要があって行う取引です。

    投機というのは、「今ドルを買うと値上がりしそうだから、値上がりしたら売って儲けよう」という目的で為替取引をする場合です。

    この投機の比率は、実需のなんと10倍くらいです。FXの取引も投機に分類されます。

    このようにいろいろな取引動機を持った売買が交錯するわけですから、いつ誰が売ったり買ったりするかわかりませんし、投機筋はちょっとしたニュースでコロコロ動く方向が変わります。

    短期の動きともなると、この投機筋の動きのほかに、消費者物価指数(CPI)の数字やFRB議長の発言、政治家の発言、株価、商品価格、天候、地政学リスクなど、あらゆる要素で予想外の動きが多くなります。

    したがって、短期の動きを当て続けるのはどんなプロでも不可能です。できたとしてもまぐれです。

    また、理論的なアプローチも行いにくいのが為替の難しいところです。いわゆるファンダメンタルズ分析(注)というものですが、それすらうまくいかないことが多いです。

    (注)ファンダメンタルズとは、国の経済状態などを表す指標のことで、「経済の基礎的条件」と訳されます。国や地域の場合、経済成長率、物価上昇率、財政収支などがこれに当たります。ファンダメンタルズをもとに為替などの値動きを予測することをファンダメンタルズ分析といいます。

    為替は理論値通りには動かない

    為替の世界で唯一論理的に為替レートを計算できるかもしれないと思われている購買力平価ですら、実際の世界では理論値通りにはなりません。ならないどころか大きく乖離かいりしているのが現状です。

    たとえばトルコリラなどは、購買力平価で計算したレートより実際は圧倒的に安くなっています。また、ドル円で見ても購買力平価では90円くらいであるはずのものも、実際は145円くらいになったりします。

    ところで、現在(2022年12月)アメリカと日本ではインフレ率に差がありますね。

    アメリカのインフレ率の方が日本よりも高くなっています。

    たとえば、ある時点で1ドル100円で、ビッグマックが日本で100円、アメリカで1ドルだったとします。1年後にビッグマックが日本で100円で据え置き、アメリカでインフレで1.5ドルに値上がりしたとします。

    もしそうなら100円と1.5ドルが同じ価値のはずなので、1ドルは67円くらいの円高になるはずですね。つまりインフレの激しい方の通貨が安くなるはずなのです。

    アメリカは激しいインフレなのに、米ドルは割高なまま

    でも、実際は逆で急激な円安が進行しています。

    【図表1】ビッグマック指数で、各国通貨と米ドルの価値を比較した場合

    図表1はビックマック指数でみた世界の購買力平価ですが、スイス以外のすべての国で米ドルが圧倒的に割高になっています。

    たとえばビックマックはアメリカで3.99ドルで日本では400円だったとします。そうなると1ドル100円のはずですが、この図で見るとドルは理論値よりも約50%割高だということになります。

    為替は2分の1で当たる丁半博打のように見えるが…

    もちろん、運が良ければ、たまたま自分の賭けている方向に相場が動くこともあります。ゲームの例で見たとおり、FXは元手にくらべて儲けも大きくなるので、麻薬のような喜びが生まれます。

    たまに勝つことがあるというのが、この投資のまずい点です。必ず負けるとなると誰も手を出しませんが、勝つ可能性があるため、損した人も、「次の勝負に勝って取り返せばいい」と思いがちなのがFXの怖いところです。

    また、為替は上がるか下がるかしかない、つまり単純なゲームだというところも手を出しやすいのではないかと思います。為替は丁半博打のようなもので、当たる確率が2分の1のような気がしてわかりやすいのです。ドルを買っていた場合、ドルが値上がりしたら儲け、下がったら損だというのはとてもシンプルです。

    なぜFX取引をあおる業者があとを絶たないのか

    さらに投資のプロではない人の多くは、少しでも儲かるとすぐに売って(利食って)しまい、儲けを大きく取らないのが一般的です。たとえば2円値上がりしたあと、1円下がって、含み益が半分になってしまうと不安になって売ってしまうような場合が多いです。

    つまり、FXとは、「勝ちは少ないが負けは大きく、損するときはあっという間に賭け金をすってしまう。そして方向を合理的に当てることは不可能」という勝負になってしまうのが、典型的なパターンではないかと思います。

    ではなぜFXをやらせようとする業者があとを絶たないのでしょうか。

    それは、業者にとってはもっともリスクが低く、収益性の高い商売だからです。

    まずは、お金を貸すのが業者です。その分の金利が取れます。

    その上、業者は顧客が売買する度に少し鞘を抜けます。相場変動リスクももちろん取りません。したがってFX業者は、顧客がFXをやればやるほど、ほぼリスクフリーで儲かるというしくみです。大手のネット証券では、営業利益の3割がFXというところもあります。

    ですので、FXは個人の資産形成のための投資対象としてはまったくおすすめできません。

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  7. shinichi Post author

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    「大丈夫、政府はいくら借金しても問題ない」
     ・財政破綻論の嘘(三橋貴明)
     ・財政破綻論の誤り(朴勝俊)
     ・財政破綻論の大嘘(botちゃん)
     ・財政破綻の噓を暴く(髙橋洋一)
     ・日本が財政破綻しないたしかな理由(川村史朗)
     ・国家財政破綻論の破綻を数学的に証明(児保祐介)
     ・財政破綻の嘘(藤井良平)
     ・安倍晋三 vs 財務省(田村秀男、石橋文登)

    ____________________________________________________________
    「借金しすぎるといずれ返せなくなって破綻する」
     ・財政破綻後: 危機のシナリオ分析(小林慶一郎、小黒一正)
     ・財政破綻に備える 今なすべきこと(古川元久)
     ・財政破綻でもうける方法(藤沢数希、池田信夫)
     ・国家破産はこわくない(橘玲)
     ・財政危機の深層 増税・年金・赤字国債を問う(小黒一正)

    ____________________________________________________________

     ・政府債務(森田長太郎)
     ・日本国債(幸田真音)

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