過剰さが増え続ける社会

 変化が加速している。テクノロジーの変化も、社会の変化も、大きく加速している。
 コンピュータの記憶装置の容量は3年で10倍になり、6年で100倍になる。30年でなんと100億倍になる。技術的なことが100億倍になることの社会的な影響はとてつもなく大きい。部屋をひとつ占領していたコンピュータシステムでやっていたことが、手になかのスマートフォンでできてしまう。30年前にスーパーコンピュータを使ってもできなかったことが、卓上のコンピュータでできてしまう。テクノロジーの進化は想像をはるかに超えて加速している。テクノロジーを使えば、途方もないことができるようになったのだ。
 立ち止まって現在の社会を見てみれば、社会が大きく変化しているのがわかる。しかも、テクノロジーの進化によって社会の変化も加速している。それなのに、多くの人が変化に気づかずにいる。気づかないふりをしているのかもしれない。毎日の変化が小さいからなのだろうか。それとも、みんな、変化に慣れ切ってしまったからなのか。
 社会の大きな変化は、どれもテクノロジーの進化によるものだ。それなのに、社会の変化は、テクノロジーなしに語られる。社会が分断してしまったのはテクノロジーのせいなのに、政治やマスコミのせいだという。誰もが疲れ切っているのもテクノロジーのせいなのに、会社やマネージメントのせいだという。加速している大きな変化が社会のなかにどのような形で現れたとしても、その原因を探ればテクノロジーにたどり着く。
 情報とコミュニケーションのテクノロジーが、そして AI が、この加速の原因だ。何十年か前に始まったハードウェアの加速度的な進化は、社会の変化に大きな影響を与えている。処理速度は速くなり、大きさは小さくなり、価格は安くなる。大量生産によって作られたハードウェアが身近なものになり、本来、情報とコミュニケーションのテクノロジーとは無縁だった人たちが複雑なハードウェアを操っている。
 ソフトウェアの進化も加速度的だ。例えば医療現場で用いられている「診断・治療支援ソフトウェア」は、AI を組み込むことで格段の進歩をとげている。実際、現在使われている AIソフトウェアは、医師が癌だという診断を下すよりはるか前に、癌の初期兆候を特定できる。
 今の時代を生きる人は、誰もが「変化の加速」の恩恵を被って生きている。しかしその加速は、同時に過剰さをもたらす。過剰な創造、過剰な生産、過剰なコミュニケーション、過剰な商品。膨張し肥大化したものを小さくすることは、最早誰にも出来ない。過剰な機能や過剰なオプションをもった商品が、それを必要としない人のもとに届いてしまう。
 多くの人たちがテクノロジーの進化を肯定的に捉え、テクノロジーが経済的な恩恵をもたらすと思っているために、過剰さはあまり問題にされない。テクノロジーの進化を否定的に捉える人や、進化を止めようとする人は、もうほとんどいない。急成長ののち、緩やかな成長に転じたり、緩やかな下降に転じたりするどこかの国の経済と違って、テクノロジーはいつまでも加速度的に進化し続け、社会もいつまでも加速度的に変化し続ける。過剰さが増え続けた先に何が待っているのかは、誰も知らない。

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