円安(塚崎公義)

現在の円相場は、25年前と比べて明らかに安い。しかし、当時大幅な黒字であった貿易収支が、最近はおおむね均衡している。理屈上は不思議なことが起きているのだ。とにかく事実として貿易収支が均衡しているのであれば、ドル高円安が修正されていくと考える特段の理由はないのだ。
貿易収支が均衡している理由としては、日本企業が「円安でも輸出を増やさない」という決意で現地生産化を進めたことが主因だろう。円高でも円安でも収益が振れない経営体質を作ること、為替レートが動くたびに現地生産と輸出の間で生産体制を見直す手間とコストを不要とすることなどに加え、人口減少で経済が縮小していく日本よりも人口が増えそうな海外に軸足を移したい、といった思惑もあるのかもしれない。
日本製品の競争力が低下して円安でも輸出が増やせないのであれば深刻な問題だろうが、そうした理由は少なくとも主因とは言い難い。アジア諸国の経済発展などによって競合する場面は増えているだろうが、まだ日本製品の競争力はそれなりに強いと信じたい。
輸出が増えない理由は上記だとして、円安でも輸入が減らない理由もあるはずだ。消費者の需要は、値上がりした輸入品から割安な国産品にシフトするはずなのに、大幅なシフトが見られていないのである。

6 thoughts on “円安(塚崎公義)

  1. shinichi Post author

    「行き過ぎた円安」でも元に戻るとはいえない理由

    by 塚崎公義

    円相場は実質的に50年ぶりの円安

     円相場は、実質的に50年ぶりの円安となっている。「実質的に」というのは物価上昇率格差を考慮して比較すると、という意味だ。

     50年前は1ドルが300円程度だったが、その後諸外国の物価が日本よりも上がったことによって、「日本製品の輸出しやすさは50年前と同程度」「日本製品と外国製品の価格を比較すると、50年前の比率とおおむね同じ」といったことになっている。

     前半の25年間は物価上昇率格差を上回る円高が進行し、日本製品の輸出が厳しくなっていった。その後25年間は物価上昇率格差が続いているのに為替レートがおおむね横ばい圏で推移したため、輸出の厳しさが解消されていったのだ。

     言い換えると、現在の為替レートは過去50年の平均と比べてはるかに円安となっている。その意味では、「円安が行き過ぎだ」と言って間違いない。

    「円安だから戻るだろう」と考えるのが危険な理由

     為替レートの基本は、理屈の上では日米の物価水準が一致することにある。そこから大きく逸脱した為替レートは大幅な貿易収支不均衡をもたらすため、為替レートが自動的に修正されることになる。

     例えば1ドルが1000円ならば、米国人が銀行でドルを円に替えて日本に買い物に来るだろうから、米国人のドル売りでドルが値下がりしていくはずだ、ということになる。

     日米金利差や為替投機などによっても、短期的な為替レートは変動する。それは、日米の物価を一致させるレートの周辺での動きであって、太陽の周りを回る惑星の動きのようなものだと考えてよい。

     したがって、「円安が行き過ぎているなら、いつかは戻るだろうから、外貨を持つのは危険だ」と考える人もいるだろう。

     しかし、円安が行き過ぎているからといって、「将来はドル安円高になる」と考えてはいけない。

     上記の理屈は、「円安過ぎると貿易収支が不均衡になり、貿易赤字国による輸入のための外貨購入によって為替レートが修正される」というものだ。しかし、円安過ぎても貿易収支が不均衡にならなければ上記の理屈は成り立たない。

    アベノミクスで円安が進んでも貿易黒字が増えなかった理由

     現在の円相場は、25年前と比べて明らかに安い。しかし、当時大幅な黒字であった貿易収支が、最近はおおむね均衡している。理屈上は不思議なことが起きているのだ。とにかく事実として貿易収支が均衡しているのであれば、ドル高円安が修正されていくと考える特段の理由はないのだ。

     ちなみに、アベノミクスで大幅な円安が進んだとき、筆者は不覚にも「これで貿易黒字が大幅に増える」と予想したが、見事に外れてしまった。その反省として、現在考えている「敗因」は以下である。

     貿易収支が均衡している理由としては、日本企業が「円安でも輸出を増やさない」という決意で現地生産化を進めたことが主因だろう。円高でも円安でも収益が振れない経営体質を作ること、為替レートが動くたびに現地生産と輸出の間で生産体制を見直す手間とコストを不要とすることなどに加え、人口減少で経済が縮小していく日本よりも人口が増えそうな海外に軸足を移したい、といった思惑もあるのかもしれない。

     日本製品の競争力が低下して円安でも輸出が増やせないのであれば深刻な問題だろうが、そうした理由は少なくとも主因とは言い難い。アジア諸国の経済発展などによって競合する場面は増えているだろうが、まだ日本製品の競争力はそれなりに強いと信じたい。

     輸出が増えない理由は上記だとして、円安でも輸入が減らない理由もあるはずだ。消費者の需要は、値上がりした輸入品から割安な国産品にシフトするはずなのに、大幅なシフトが見られていないのである。

     それも、日本企業の戦略と関係しているのかもしれない。すなわち、労働集約的な製品はすべて海外で生産して日本に輸入し、国内では作らないというのが日本企業の基本戦略だとすれば、国産品に需要をシフトしたくてもできないのだ。

     それでも、輸入ワインから日本酒への需要シフトはありそうなものだが、「酒は酔うためにあるので、ワインでも日本酒でも何でもいい」という酒飲みは筆者だけなのであろうか。

     さて、貿易収支は均衡しているとしても、第1次所得収支(外国との利子配当の受け払いなど)は大幅な黒字である。これが円安を反転させると考える人もいるかもしれないが、こちらは貿易収支と比べると、為替レートに与える影響ははるかに小さいと考えてよい。

     輸出企業は受け取った輸出代金をほぼ確実に売却するであろうし、輸入企業は輸入代金をほぼ確実に購入するであろうから、貿易収支はほぼストレートにドルの需給に影響する。しかし投資家たちは、受け取った利子や配当を現地で再投資する場合も多い。

    政府が為替介入して円高に誘導する可能性は小さい

     為替レートを動かす力として、かつては重要であった「政府による為替介入」はどうであろうか。かつて、円高で輸出企業が深刻な打撃を受けそうになると、政府がドル買い介入をしてドル安円高を止めたことが頻繁にあった。

     最近では、日本政府による為替の介入は行われていないようだが、円安で困ったことが起きるならば、円安阻止のためのドル売り介入が行われる可能性もないとはいえない。

     そして実際、原油価格や食料価格などの「輸入インフレ」と円安による輸入品価格上昇がダブルパンチで来そうなため、介入を望む声が出てくることは十分に考えられる。

     しかし、インフレの主因が原油価格や食料価格の高騰である以上、インフレ抑制のための為替介入は考えにくいのではなかろうか。

     そもそも、為替介入は市場メカニズムを歪めるものである上に、ドル売り介入は実質的に「輸出企業への課税と消費者への補助金」となるため、よほど説得的な理由がない限り、当局は介入をしたがらないはずだ。

    Reply
  2. shinichi Post author

    「仲良く貧乏」を選んだ日本は世界に見放される

    1人当たりGDPは約20年前の2位から28位へ後退
    日沖 健

    https://toyokeizai.net/articles/-/605668

    日本は、アメリカ・中国に次ぐ「世界3位の経済大国」とよく言われます(2008年までは世界2位)。ここでの3位は、GDPの「総額」の順位です。しかし、一国の経済水準は、GDPの「総額」ではなく、「国民1人当たり」で比較するのが、世界の常識です。

    日本の2021年の1人当たりGDPは3万9340ドルで、世界28位です(IMF調査)。2000年には世界2位でしたが、そこから下落を続け、世界3位どころか、先進国の中では下のほうになっています。

    経済の話題になると、景況感指数・物価上昇率・失業率・平均賃金といった数字がよく取り上げられますが、これらは経済の一部分に光を当てているに過ぎません。総合評価としてもっとも大切なのに日本ではあまり注目されていないのが、1人当たりGDPです。

    日本や主要国の1人当たりGDPはどのように推移してきたのでしょうか。そこから日本にはどういう課題が見えてくるでしょうか。今回は1人当たりGDPを分析します。なお文中のGDPデータは、IMFの統計によるものです。

    日本はもはや「アジアの盟主」ではない

    まず、1人当たりGDPを主要国と比較し、日本の立ち位置を確認します。グラフは、日本・アメリカ・中国・ドイツ・シンガポール・韓国の1990年から2021年の1人当たりGDP(名目ベース)の推移です。

    よく「バブル期が日本経済のピークだった」「バブル崩壊後の失われた30年」と言われますが、1990年は8位で、2000年に過去最高の2位でした。国際比較では、2000年が日本経済のピークだったと見ることができます。

    2000年以降の日本経済の低迷については、「小泉・竹中改革が日本を壊した」「民主党政権は期待外れだった」「アベノミクスが日本を復活させた」といった議論があります。ただ、この20年間、日本の順位はどんどん下がっており、「どの政権も日本経済の凋落を食い止めることはできなかった」と総括するのが適切でしょう。

    また、日本のすぐ下に韓国(30位、3万4801ドル)や台湾(32位、3万3705ドル)が迫っており、追い抜かれるのは時間の問題です。中国は、1990年にはわずか347ドルで、データのある149カ国中135位という貧しい国でしたが、急速に経済成長し、2021年には1万2359ドル、65位まで上昇しています。

    日本は、長く「アジアの盟主」を自認してきました。しかし、こうした日本とアジア各国の近況からすると、この呼び方も現実にそぐわなくなっています。

    小国・金融・移民がキーワード

    次に、どういうタイプの国が高いランクになっているのかを考えてみましょう。

    2021年現在の世界1位は、ルクセンブルク(正式名称は、ルクセンブルク大公国)の13万6701ドルです。ルクセンブルクは、1993年以降ずっと首位を堅持しています。日本ではあまり知られていないルクセンブルクの成功要因を紹介します。

    ルクセンブルクは、人口63万人、面積2586平方キロメートルという小国です(人口は島根県と同じくらい、面積は東京都の1.18倍)。もともとは鉄鋼業などを中心とする工業国でしたが、1970年代の石油危機を機に金融業への構造転換を図りました。今ではルクセンブルク市場は、欧州ではロンドンに次ぐ金融の中心地になっています。

    人口が少ないルクセンブルクは、常に労働力不足に悩まされてきました。不足する労働者を補うため、100年以上前から積極的かつ継続的に移民を受け入れています。現在、総人口に占める移民の割合は47.3%(世界最高)に達し、国民の半数近くが移民です。

    多国籍社会を反映して、ルクセンブルク語、ドイツ語、フランス語の3言語が公用語で、国民は場面に応じて使い分けます。ただ、金融ビジネスでは、英語が事実上の公用語になっています。

    ルクセンブルクは、①低付加価値の製造業から高付加価値の金融業に転換し、②大量の移民を受け入れて、③優秀な移民にはルクセンブルク人とともに金融ビジネスを、優秀でない移民には単純労働を担ってもらう、という明快な国家戦略を実践してきたのです。

    こうした国家戦略は、ルクセンブルクの専売特許ではありません。ランキング上位国のうち、アイルランド(2位、9万9013ドル)、スイス(3位、9万3720ドル)、そしてアジア首位のシンガポール(7位、7万2795ドル)はいずれも小国で、ルクセンブルクとよく似た国家戦略です。

    思い切った国家戦略には、国民の反発が付き物。ただ、小国なら政治のコントロールで国民のコンセンサスを得るのが比較的容易です。ルクセンブルクは、ナッサウ=ヴァイルブルク家がルクセンブルク大公の職を世襲する立憲君主制で、大公は強力な政治権限を持っています。シンガポールは、PAP(人民行動党)による事実上の一党独裁です。

    つまり、ランキング上位国に共通するキーワードは、「小国」「金融」「移民」。1人当たりGDPを見る限り、この3点が国家が経済的に成功する条件と言えるでしょう。

    アメリカとドイツは参考になる

    となると、悩ましいのが日本。日本のように1億2千万人もの人口を抱える「大国」が、ルクセンブルクやシンガポールと同じやり方をするのは非現実的です。日本経済は、為す術がなく、お先真っ暗なのでしょうか。

    ここで参考にしたいのが、日本と同じく「大国」で、20世紀に製造業を中心に隆盛したアメリカとドイツです。日本がどんどん順位を下げているのに対し、アメリカは10位以内(6位、6万9231ドル)、ドイツは20位以内(18位、5万0795ドル)を長く堅持しています。

    アメリカとドイツに共通し、日本と異なるのは、次の3点です。

    ① 移民の受け入れ。総人口に占める移民の割合は、アメリカ15.3%、ドイツ18.8%と高水準です。両国とも近年は移民増加の弊害に悩まされていますが、長い目で見ると移民が経済を高度化させました。

    ② ものづくりの革新。アメリカ・テスラの電気自動車やドイツの「インダストリー4.0」のように、アメリカ・ドイツの製造業は、大胆にITを取り入れてものづくりを革新しています。

    ③ IT・金融など成長分野でのクラスター形成。アメリカのシリコンバレーやドイツのフランクフルト金融市場のように、IT・金融など成長分野でクラスター(産業集積)の形成に取り組んできました。

    日本経済を復活させるには、この3つの改革に取り組むことが必要でしょう。

    では日本は今後、ランキング上位国に倣って改革を進めることができるでしょうか。個人的には、日本が自らの判断で大きな改革に踏み出す可能性は低いと思います。政府・国民の「豊かさ」に対する考え方が、上位国と日本では根本的に違うからです。

    豊かさと平等は二律背反の関係

    多くの上位国では、「経済成長による豊かさ」が事実上の国是になっています。少しくらい国民の経済格差が広がっても、失業者が出ても、国全体が経済成長すれば、豊かに暮らす国民の絶対数が増えます。

    一方、かつてシンガポールで優秀な子供を増やすために大卒女性による出産が奨励されたように、上位国の政府は「国民の平等と融和」をあまり重要視していません。

    そして、上位国の国民は、こうした政府の国家戦略を支持しています。抑圧的な政治体制に不満はあるようですが、政府の目論見通り国民の暮らしはどんどん豊かになっています。

    それに対し日本では、政府も国民も「国民の平等と融和」をまず目指します。「経済成長による豊かさ」は、さほど重要な目標ではありません。極端に言うと「格差がある、ギスギスした豊かな社会より、みんなで仲良く貧乏に暮らす方が良い」と考えています。

    しかし、このままの凋落が続けば、日本はいったいどうなるでしょう。いまは過去の蓄積によって何とか生活できていますが、やがて世界からヒト・モノ・金が集まらなくなり、「みんなで仲良く貧乏に暮らす」ことすら難しくなるでしょう。

    政府も国民も、1人当たりGDPの推移を直視し、その背後にある「豊かさと平等はトレードオフ(二律背反)の関係にある」という事実にしっかり向き合う必要がありそうです。

    Reply
  3. shinichi Post author

    円高一瞬、円安永遠。ドル/円150円は、まだライブ!

    by 荒地 潤
    2023/8/22
    https://media.rakuten-sec.net/articles/-/42414

    「日本の物価上昇率は目標値に達していない」として、日銀はインフレを煽る。政府は「実質賃金をプラスにしていくことが重要だ」と威勢はいいが、実質賃金は14カ月連続で低下している。日本人はどんどん貧乏になっていく。

    Reply
  4. shinichi Post author

    もう1ドル100円には戻らない? 円安に透ける国力低下

    日本経済新聞
    2023年7月2日
    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB282RT0Y3A620C2000000/

    円安・ドル高が再燃している。2022年に一時1ドル=151円台後半まで下落した円相場は為替介入などもありいったん持ち直したものの、6月30日には約7カ月ぶりに145円台をつけた。円安は日米の金利水準や金融政策の差で語られがちだが、日本の相対的な国力の低下もにじむ。

    現在の円相場の特徴は「ドル高」ではなく「円安」の面が大きいことだ。幅広い通貨に対するドルの強さを示す「ドル指数」が下落するなかでも、…

    Reply
  5. shinichi Post author

    2019年10月1日から日本の景気が「とてつもなく悪くなった」ワケ

    日本が財政破綻しない理由⑤

    by 藤井 聡、木村 博美

    https://gentosha-go.com/articles/-/42440

    「デフレ不況」は、値段を下げても需要が伸びず、景気の悪化が繰り返されて止まらなくなり、ますますデフレが進行するという悪循環が続く状況です。簡単にいえば、日本人の給料が下落し続けていく状況を指します。どうすればいいのでしょうか。

    **

    「日本経済の5つの嘘」にだまされるな!
    この「嘘」に気付かなければ、あなたは一生貧乏でいるしかない。富裕層だけが知っている日本経済のからくりとは? コロナ禍をうまく脱却すれば、日本人はやっと金持ちになれる。
    安倍内閣の元内閣官房参与にして政権の表裏を知り尽くした気鋭の学者が暴く日本人を貧乏にするシステムと景気V字回復するための秘策。コロナ禍の先行きや新内閣の動向など最新情報を踏まえながら、日本経済に及ぼすリアルな影響とどうやってそこから家計を守ればいいかを対話形式でわかりやすく解説します。常識」とは。

    Reply
  6. shinichi Post author

    (sk)

    賛成できかねることが多すぎる。目指すものが違っているからなのだろう。

    目指すものを考え直す時が来ているようだ。

    Reply

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *